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WISC(ウィスク)検査とは?IVとVの違い、結果の見方も【専門家監修】

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WISC(ウィスク)検査とは?IVとVの違い、結果の見方も【専門家監修】

監修:井上雅彦

鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー

WISC(ウィスク)知能検査とは?

WISC(ウィスク)とは、ウェクスラー式知能検査に分類される知能検査の一つです。ウェクスラー式知能検査は1939年に刊行された「ウェクスラー・ベルビュー知能検査」から始まって80年を超える歴史を持ち、日本においても広く使われている知能検査です。ウェクスラー式知能検査には年齢によって、幼児用のWPPSI(ウィプシ)、児童用のWISC、成人用のWAIS(ウェイス)という種類があります。それぞれ改訂を繰り返しており、現在ではWPPSI-III、WISC-V、WAIS-IVが最新となっています。

具体的な対象年齢は以下の通りです。
・WPPSI-III:2歳6ヶ月〜7歳3ヶ月
・WISC-V:5歳0ヶ月〜16歳11ヶ月
・WAIS-IV:16歳0ヶ月〜90歳11ヶ月

今回はその中で児童用のWISCについて解説していきます。

WISC検査ではさまざまな問題が出題され、その回答結果によって子どもの知的機能を数値化しています。

WISC-IVもWISC-Vも具体的な問題内容は非公開となっています。これはあらかじめどのような問題が出るか知っていると、結果に影響が出ることがあるためです。また、検査を受けたことがある人がその検査内容をほかの人に伝えてはいけません。これは、ほかの知能検査でも同様です。

また、WISC検査は検査用具や採点マニュアルなどが販売されていますが、購入できるのも保健医療、福祉、心理・教育など専門機関に限られています。そのため、公平性・専門性が保たれた中で検査を受けることができると言えるでしょう。

WISC-IVとWISC-Vの違いって? 変更点や指標など用語について解説

WISCの最新版はWISC-Vですが、現在でもWISC-IVを使用している機関は多くあります。どちらも子どもに対して複数の検査を行い、その結果としてIQ(知能指数)などの数字を導き出します。WISC-IVとWISC-Vでは、その検査と結果の出し方に一部違いがあります。

まず、WISC-IVの検査内容ですが、15の下位検査(10個の基本検査と5個の補助検査)で構成されています。10個の基本検査を実施することで以下の4つの合成得点と全体的な知能を表す全検査IQ(FSIQ)を算出することができます。

WISC-IVで算出できる指標
・全検査IQ(FSIQ)
・言語理解指標(VCI)
・知覚推理指標(PRI)
・ワーキングメモリー指標(WMI)
・処理速度指標(PSI)

対してWISC-Vでは、16の下位検査(10個の主要下位検査と6個の二次下位検査)で構成されています。そして、導き出される指標は全体的な知能を表す全検査IQ(FSIQ)と、特定の領域の知能を表す主要指標、付加的な情報としての補助指標の3つに変更されました。

そのほかWISC-IVからの大きな変更点として、主要指標から知覚推理指標がなくなり、視空間指標と流動性推理指標に置き換えられています。

WISC-Vで導き出される指標には主要指標と補助指標があり、それぞれ以下の通りです。

主要指標
・言語理解指標(VCI)
・視空間指標(VSI)
・流動性推理指標(FRI)
・ワーキングメモリー指標(WMI)
・処理速度指標(PSI)

補助指標
・量的推理指標(QRI)
・聴覚ワーキングメモリー指標 (AWMI)
・非言語性能力指標(NVI)
・一般知的能力指標(GAI)
・認知熟達度指標(CPI)

10個の下位検査からすべての主要指標を算出するための所要時間は、65〜80分程度とされています。

WISC検査を受けるメリット、デメリットは?

WISC検査を受けるメリットとして以下の2つが挙げられます。

1.IQ(知能指数)が分かる
2.子どもの得意不得意が分かる

IQ(知能指数)とは、知能のいくつかの側面(知識量や読み書き計算の力だけではなく、記憶や問題解決、見たり聞いたりする力など)を測定する検査の結果を数値化したもので、平均は100です。IQを測ることで、知的障害(知的発達症)などの診断や支援を受けることにもつながります。

また、WISC検査は言語理解やワーキングメモリーなどの領域ごとに結果が出るため、子どもの得意なこと不得意なことも分かります。得意不得意の傾向が分かると、子どもの得意を活かしたり、現在困っていることへの対策を考えたりすることにも活かせるというメリットがあります。

WISC検査を受けるうえでデメリットとなり得ることとして、以下の2点があります。

1.専門機関でしか受けられない
2.知能検査では測れないものもある

まず、WISC検査は医療、福祉、心理・教育などの専門機関でしか受検することができません。さらに、検査を実施できるのは限られた人になることもあり、受けたいと思ってからすぐに受検できるわけではありません。

具体的な実施場所には以下のような機関があります。
・教育相談センター
・児童相談所
・発達障害者支援センター
・児童発達支援センター
・医療機関

教育相談センターや児童相談所など公的な機関では、面談などを通して必要性が認められたうえで無料で受験できる場合があります。

医療機関は小児科や児童精神科などで受けることができ、自費で受ける場合と、医師により必要が認められて保険診療となる場合があります。自費の場合は15000円~20000円程度かかることが多いようです。どちらも、診察料や報告書作成費用などが別途かかることもあります。

また、WISCでは、例えば芸術性や創造性などの個性や、共感性などの能力は算出することができないので、そのこともデメリットと言えるかもしれません。

WISC検査の結果の見方は?数値の凸凹が大きいとどうなる?検査の活用方法は?

ここではWISC検査の各主要指標の数値が高いとどのような特徴があるのか、また数値が低いとどのような困りごとが起きやすいのかご紹介します。

・言語理解指標(VCI)が高い場合
語彙力が高く、読み書きや文章の理解が得意

・言語理解指標(VCI)が低い場合
先生の口頭での指示や、プリントや黒板に書かれた文章が理解できないことがある

・ワーキングメモリ指標(WMI)が高い場合
一時的に情報を記憶する力が強く、複数の情報を処理することができる
 
・ワーキングメモリ指標(WMI)が低い場合
指示を覚えていられず、注意がそれやすい

・処理速度指標(PSI)が高い場合
タスクを効率的に素早く判断し、処理することができる

・処理速度指標(PSI)が低い場合
読み書きや会話の反応などが遅くなることも。テストなどに時間がかかる

・流動性推理指標(FRI)が高い場合
論理的に物事を捉えることが得意

・流動性推理指標(FRI)が低い場合
問題解決や新しい環境で見通しを立てることが苦手

・視空間指標(VSI)が高い場合
視覚的思考や図、地図などを理解するのが得意

・視空間指標(VSI)が低い場合
グラフの読み取りや図形問題などが苦手

WISC検査で算出された各指標の数値の差が大きければ大きいほど、そのギャップから子どもの生活や学習上の困りごとも大きくなる可能性もあります。WISCによる数値だけで子どものすべてを把握できるわけではありませんが、得意不得意を知ることは困りごとの把握や対策を考える上でも活用できます。また、WISCの結果を子どもが通っている学校や支援機関とも共有することで、学校生活や支援で困りごとを減らしていくことにもつながります。

検査結果に一喜一憂するのではなく、子どものためにも上手に活用していくようにしましょう。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

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