【精神科医・本田秀夫】発達障害のある子が不登校になる原因は「学校側」にあることが多い?
主な要因は、学校の側にあることが多い?
私は不登校のお子さんや保護者、先生方からの相談を受けて、みなさんからお話を聞いています。お子さんが置かれている状況を俯瞰的にみているわけですが、実際のところどうなのかというと、お子さんに発達障害の特性がある場合には、不登校の主な要因は、学校の側にあることのほうが多いです。
そもそも、学校が子どもにとって楽しい場所であれば、よっぽどのことがないかぎり、「学校に通いたい」という意欲は保たれます。「よっぽどのこと」とは、例えば家庭環境が荒れ、親とのやりとりで疲れ切り、学校に行けなくなるような状況を指します。この場合、家庭に主な要因がありますが、そういったケースは多くはありません。
子どもは家庭内に多少問題があっても、「学校に行くと楽しいことがある」と思っていれば、登校しようとするものです。家庭内で問題が起きていなければ、あとは子どもにとって「学校が楽しいか、楽しくないか」ということが重要なポイントになります。
発達障害のある子と定型発達の子の不登校を比べると……
私は、発達障害のある子の不登校の多くが「個人と環境のミスマッチによって起こるもの」だと考えています。
発達特性があっても、その特徴が学校の先生に理解されていて、一定の支援や配慮が得られる環境であれば、子どもが「授業が楽しくない」「学校の対人関係がうまくいかない」と感じることは少なくなります。一方、発達特性が理解されず、つねに「みんなと同じように」活動することを求められる環境では、子どもは居心地の悪さを感じるでしょう。それでは不登校の「準備状態」になりやすく、また、「引き金」となる出来事も起こりやすくなります。
不登校の背景には個人的な要因もあれば、環境的な要因もあるわけですが、発達障害のある子の場合、環境的な要因の比重がとても大きくなります。私は、それが「発達障害のある子の不登校」と「定型発達の子の不登校」の最大の違いだと考えています。発達障害のある子どもにとって、学校がなじみやすい環境かどうかが、非常に重要なポイントになるのです。
発達障害のある子は、特性が理解されている環境であれば活動しやすくなります。しかし、ここでいう「環境」には担任の先生のキャラクターや教え方のスタイル、同級生のメンバー構成、学校全体の教育方針(ノルマ化やダメ出しの多さ)など、さまざまな要素が含まれます。
親御さんと学校の先生が相談することによって、それらの要素をすべて調整していけるのであれば、発達障害のある子の不登校を根本的に解決できるでしょう。しかし、いまの学校教育の制度のなかで、そこまでの調整が実現することは難しいようです。例えば、子どもと担任の先生の相性がよくない場合に、親御さんが学校側に「2学期からほかのクラスに移らせてほしい」と言っても、その要望が通ることはまずないでしょう。
環境的な要因を調整できない場合には、学校を休ませるか、子どもが苦しんでいても登校させるか、どちらかしか選択肢がありません。その場合、私は親御さんに「無理に登校させることは、問題の解決策にはならない」とお伝えしています。
そういう意味で、発達障害のある子が学校に行けるかどうかという問題には、どうしても運がともないます。発達障害のある子の場合、通学先がどんな学校なのか、担任の先生が誰になるのか、クラスにどんなメンバーがいるのかといった環境的な要因によって、通いやすさが大きく変動します。
しかし、子どもが学校や先生、クラスを選べるわけではなく、親や先生ができる調整にも限界があるので、不登校を完全に防ぐことはできません。
学校になじめないときにできること
子どもが学校になじめないと感じたときの選択肢は、基本的には、学校と相談するか、我慢して登校するか、休むしかないわけです。
そして、学校との相談がうまくいかなければ、残る選択肢は2つです。さらに言えば、子どもが親や先生から「頑張ろう」と励まされて、休むという選択肢がなくなっていく場合もあります。そうなると、学校がどんなにつらい場所であろうとも、我慢して通い続けるしかないということになります。
もしも学校との相談がうまく進まず、環境調整ができない状況になってしまったら、無理に登校してメンタルヘルスを損なうよりは、不登校を選んだほうがいいという考え方になります。しかしそれは、ベストな判断ではありません。本来であれば、大人が子どもの発達特性を理解し、環境を調整して、その子の学習機会を保障するべきです。
それがどうしてもかなわないときに、現実的な選択肢のなかから一番マシな方法として、不登校を選ぶしかないという状況になるのです。
環境を調整すれば、不登校は予防できる!
ここまでに「発達障害のある子の不登校では、環境的な要因の比重が大きい」「主な要因は学校の側にあることが多い」と書いてきました。そして、「環境を調整できなければ、不登校を選ぶしかない」という話もしました。それだけでは悲観的な話に思えるかもしれませんが、これは裏を返すと「環境を調整すれば、不登校は予防できる」という話でもあります。
例えば、音やにおいなどの刺激に対して過敏に反応しやすい「感覚過敏」が不登校の要因となっている場合があります。
感覚過敏の場合、ざわざわした雑音が苦手な子がいます。図工室のようなところで、さまざまな機械から音が出ていると、それを苦痛に感じる子もいるのです。ほかにも、教室の空調装置やパソコンから出る音が苦手な子や、音程がずれた合唱を聞くのが苦手な子もいます。
においへの過敏性では、理科室の独特のにおいが苦手で、実験がある日は学校に行けないという例があります。それから、給食の一部のメニューのにおいを苦痛に感じるという子もいます。
感覚の異常は生まれ持った特性であり、本人の心がけ次第で変えたりおさえたりできるものではありません。また、何度も体験すれば慣れるというものでもありません。黒板に爪を立ててひっかく音が苦手だという場合に、その音を繰り返し聞いても、慣れて好きになることはないでしょう。それと同じです。
子どもに感覚の異常があって、どうしても耐えられない場所や活動がある場合には、その場所や活動への参加を絶対に強要しないようにしてください。
図工室の音が強い苦痛となる場合には、図工室での授業には参加せず、別室で同様の活動をしたほうがいいでしょう。理科室での実験も同様です。
重要なのは、子どもが学習できることです。図工室や理科室を利用しなくても、一定の学習をすることはできるはずです。給食についても、どうしても苦痛なことがあれば、別室で食べられるものだけ食べる、お弁当を用意するといった対応を取ることが考えられます。
感覚の異常に対応するためには、別室対応やお弁当の用意のように、周囲の大人が手間をかけなければならない場合があります。しかしそれはメガネを用意することや、アレルギーに対応することと同じで、その子の生活や学習を保障するために必要なことです。
感覚の異常は過小評価されがちです。感覚機能の個人差を比べるのは難しいのです。多くの人は、図工室の機械の音が最初は気になっても、そのうちに慣れたりします。そのため、誰かが感覚過敏をうったえて助けを求めてきても、「すぐに慣れるよ」などと答えたりするのです。ここに感覚面の対応の難しさがあります。
私が「理科室のにおいが苦手なら、別室で参加するような形を検討しましょう」と提案すると、大人から「そこまでしなくてはいけないんですか?」と聞かれることがあります。そのくらい、本人と周囲の人の感じ方には差があるのです。
対応に迷うときは、子ども本人がどうしたいのかを確認しています。周囲の人は本人の苦痛を過小評価しがちなので、本人の意思を確認して、対応を検討します。
本人がやはり「においがつらい」と言う場合には、別室で参加する形を検討します。最近ではタブレットのビデオ通話機能などを使って、実験の様子をリアルタイムで、映像で見ることもできます。
一方で、理科室のにおいは苦手だけど実験を自分で行いたい、または間近で見たいというふうに本人が希望することもあります。その場合には例えば、マスクをつけてにおいを防ぐような対応を検討していきます。
ほかにも、図工室の音が苦手な子が作業自体は好きで、できれば授業に参加したいと希望することもあります。その場合には、イヤーマフをつけることなどを提案します。
ここでは一例として、「感覚過敏」のお子さんへの「環境調整」を紹介しました。ほかにも、「授業や集団活動になじめない」「授業についていくのが難しい」「予定の変更が苦手」といった悩みについてもよく耳にします。これらの悩みを含めて、発達障害のあるお子さんの不登校は、対応次第で予防できるものだと私は考えています。
そしてその対応というのは、けっして難しいことではありません。環境を調整することです。学校やクラス、先生を選ぶことはできなくても、環境を調整して、子どもたちが苦労しにくい学校にしていくことはできます。
環境調整は不登校を防ぐための最善の方法
子どもが「学校に行きたくない」と言っているときには、その子が学校を楽しいと思えない要因がどこかにあるはずです。親と先生は子どもの話を聞きながら、さまざまな要因を考えていきましょう。そして、その子が「こういう学校だったら行きたい」と思えるような環境を整えていきましょう。
子どもと大人でよく相談をして、環境調整に取り組んでいくことが、発達障害のある子の不登校を防ぐための最善の方法です。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。