軽い気持ちで始めたのに……「カラダだけの関係」から恋人になろうとした女性の“失敗と正解”
カラダだけが目当てであっても、それをお互いに納得して続けているのなら問題はありません。
いわゆる「割り切ったお付き合い」は、楽な反面本気で相手を好きになったときに、関係の変化が難しいのが大変です。
カラダだけの関係から脱却し、新しいつながりを目指したある女性は、自分の思いを伝えたい葛藤で空回りが多かったといいます。
どんな体験をしたのか、話をお聞きしました。
「今のままじゃ嫌」と思った瞬間
藍さん(仮名/30歳)は、明るい表情ではきはきと自分の思いを言葉にし、相手の話にもしっかりと耳を傾ける姿勢を持っていると、お会いしたときに感じました。
押しの強さは見えるけれど、他人と自分の考えは違うことを前提に話ができる強さを持っていました。
その藍さんが好きになったのはいわゆる「セフレ」だった男性で、「がんばったけど、見事に砕け散りました」とまたさっぱりとした笑顔で口にします。
その男性とはマッチングアプリで知り合い、最初からその関係が目的で合う人を探していたそうです。
ホテル代は割り勘にすること、でもプライベートな話も少しはできることなど、藍さんなりに条件があり、それは「行為だけじゃつまらないじゃないですか」と、本当の友達のような感覚を、男性には求めていたのがわかります。
何人かとやり取りをするうちに一番長く会話が続いたのがその彼で、実際にホテルに行ったときは体の相性がよかったこともあり、「ハマりましたね」と、恥ずかしそうに肩をすくめていました。
男性とは月に2回ほど約束をして会っていたそうで、すぐに「このままじゃ嫌だ」と思ったのは、
「この人となら恋人になっても上手くいく、と感じたんです。カラダだけじゃなくて、仕事の考え方とか友達との付き合い方とかを聞いていたら、うんうんと思えるところが多くて」
と、「相性の良さ」を確信したから。
会っていないときでもLINEでメッセージを送ればすぐに返信をくれる男性を見て、「同じ気持ちかも」と期待します。
そこから、藍さんの奮闘が始まりました。
変わっていくつながり
「とにかく彼に恋愛の対象として見てほしかった」
と話す藍さんは、ホテルでの時間はもちろん、それ以外の関わりでも女性らしさや特別感を演出します。
「会うときは彼が好きだと言った飲み物を用意したり、ホテルを出た後で彼が好きそうなお店にご飯を誘ったり、一緒にいる時間を引き延ばそうとしていました」
そんな自分の気持ちを悟られると引かれる可能性についてももちろん考えていて、「クーポンがあるから」「ガソリンを入れたいから、そのついでに」など、不自然にならない誘い方も必死に考えたといいます。
男性は、最初のうちは嫌がらずに付き合ってくれたそうですが、風向きが変わってきたのは、ホテルを出てから食事に行くのが普通の流れになってきた頃。
「この後約束があるとか、忙しくてとか、断られるようになりました。仕方ないと思っていたのですが、そのうち会う約束も減ってきて……」
彼と会う日はおしゃれをがんばって、たまには食事代をおごることもあったという藍さん。
元が明るい性格なら、男性が自分と距離を置こうとしていると気がついても、そこでめげることなく「LINEのメッセージで、彼が返信しやすそうな仕事の話題とか送っていましたね」と、接触を諦めることはありませんでした。
そんな藍さんに対して、男性のほうは「返事はくれるけど、藍さんへの興味がわかるようなメッセージはない」状態で、気がつけば藍さんからの一方的な連絡に彼が返事を送って終わるようなつながりになっていました。
「それでも、月に5回くらいは会っていました。
ホテルでも何となく会話が盛り上がらなくて、終わったらすぐにバイバイみたいなときもあったけれど、『会ってくれるからには可能性はゼロじゃないはず』なんて思っていましたね……」
空回りする思い
最初の頃に比べて、明らかに男性から遠ざけられている自分を自覚しても、藍さんは「ホテルにさえ行ければ」とどこかで考えていたそうです。
もともとそれがメインで今の関係になっているわけで、お互いにそう簡単に手放すことはないだろうと、相性の良さなどを話し合えたことを思い出します。
会えないときは寂しくて、「お仕事、がんばってね」「ゆっくり休んでね」など、少しでもやり取りができることを、求めていました。
「ひどいときは、コンビニで使える500円のチケットなんかプレゼントしていました」
ため息をついてそう振り返る藍さんは、自分が尽くす側になっている現実を見て、「悲しいけど、どうしても好きになってほしくて」と、男性から会える日を提案されたらほかの用事はすべてキャンセルしてでも時間を作っていたといいます。
でも、彼のほうから積極的に関わろうとする様子は依然として見えず、そのショックを引きずりながら、「もう嫌いになったのならはっきり言ってね」と、病んだようなメッセージを送ってしまったそうです。
「そのときは、すぐに『そんなことはないよ』と返ってきて、ほっとしました。
でも、それ以上がないんですよね、私のことが好きだとか会いたいとかはなくて、やっぱり私だけなんだろうなと、心の隅っこでは思っていました」
それでも藍さんが彼を諦めることができなかったのは、やはりカラダが目当てであることをお互いに納得して始めた関係で、「そのために会う」という前提があったから。
それを抜いた男女のつながりであれば、男性のほうはおそらくもっと早くに自分を「切って」いたのではないかと、今は思っているそうです。
決定的な言葉
その彼との関係が終わったのは、初めて待ち合わせをして会ってから半年後のことでした。
「『藍ちゃんは彼氏は作らないの』ってLINEで言われて、思い切って『あなたがなってよ』と返したんですね、冗談っぽくでしたが。
そうしたら、『俺は彼女とかいらないから無理』とすぐ返事が来て。
あ、これが最終通告だと思いました」
これまでの藍さんを見てきて「彼氏は作らないの」と質問してくること自体、男性側にその気はなかったのだろうなと感じます。
自分への好意を出してくる女性に対して、恋心があれば、自分がその立場になる流れが生まれるはずです。
もしかしたら、自分を求められる可能性をあらかじめ考えてこの質問をして、きっぱりと断る流れにしたかったのかもしれない、とまで筆者は勘ぐりました。
「彼女とかいらないから無理」と返せば、それ以降藍さんは身動きが取れなくなることは、容易に想像ができたはず。
「もう駄目なんだな、と一気に落ち込みましたね。
一生懸命やってきたけど、あっちは何も変える気はないんだなって、すごく虚しくなって」
こうなってやっと、藍さんのなかに諦める気持ちが生まれ、それ以来男性とは会っていません。
「私が連絡をしなくなったら彼のほうからもまったく来なくなって、ああやっぱりこんなものだったのか、と思いました。
結局、本当にカラダだけの関係でしかなかったんですよね……」
たくさん泣きました、と笑顔で口にする藍さんですが、おかしな未練や執着を抱えることなく男性と縁が切れたのは、やはり自分を大切にする強さがあるからだと、感じました。
自分だけでは変えられない関係
心が結びつく前に体でのつながりを持ってしまうと、それが逆に足かせとなり、別の方向の関係へと発展させるのが難しくなるときがあります。
片方が恋愛関係を望むけれどもう片方はそうではないとき、こんな空回りから距離が生まれ、最後はつながりそのものが切れてしまうのは、虚無感が強くつらいのは当然です。
どんな始まりであれ、いったん落ち着いた関係を変えることは自分だけの努力では叶わず、相手と気持ちが揃うことが大前提。
この、「気持ちが揃う」段階で相手の状態をしっかりと見極める力がないと、むやみな接触を繰り返して悲しい反応が返ってきて苦しむのは、よくあることです。
藍さんの場合はその自分を自覚してなお恋愛関係になることを諦めきれませんでしたが、だからこそ男性のほうはどこかで線を引くことを考えたのかもしれません。
応えられないとき、すでに落ち着いている関係すら失うことになっても、拒絶を見せるしかないのも気持ちを揃えられない側の事情です。
逆にいえば、そこまでして駄目だとわかれば正しく撤退する勇気が持てるはずで、藍さんのようにその後きっぱりと関係を断つのは、自分のためといえます。
関係は自分だけでは変えられないのがどんなときも事実であって、それなら潔く諦めて次に進むのが、不毛な時間をみずから抱えない秘訣。
精一杯努力した自分を、まっすぐに認めてあげることも大切です。
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カラダでつながるような、相手との距離が深い状態からの変化は、それをお互いに望まない限りは関係を維持するだけの関わりになりがちです。
それが自分にとって幸せとはいえないと気がつくことが、無駄な時間を過ごさないためにも大切。
どれだけ好きであっても、相手は気持ちを揃えるつもりがあるかどうかの見極めを忘れないことが、つらい恋を長引かせない秘訣でもありますね。
(mimot.(ミモット)/弘田 香)