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みのまわりに「生きていてうれしい」と思ってくれるひとがいる。それだけでしあわせだ。──【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

NHK出版デジタルマガジン

みのまわりに「生きていてうれしい」と思ってくれるひとがいる。それだけでしあわせだ。──【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

統合失調症VTuber・もりのこどくさんによるエッセイを公開!

統合失調症は100人に1人程がかかるといわれていますが、症状や悩みを打ち明けづらく、苦しんでいる方も多い病気です。

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続ける「もりのこどく」さん。

高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴った初めてのエッセイを、ダイジェストにてお届けします。

最終回となる今回は、「大切な存在」についての一編をご紹介します。

※NHK出版公式note「本がひらく」より。

#49 うれしいよ

 こどくはつねづね、周囲のひとに恵まれていると感じている。これまでふたりのおともだちにインタビューをし、そのすばらしさを語ってきたが、こどくは、おともだちだけではなく、かぞくにも恵まれていると思っている。今回は、そのかぞくにインタビューをしてみた。

こどく 「こどくのこと、どう思っていますか」

かぞく 「いきなりだね。まあでも、天使と暮らしてるって思ってるなあ」

こどく 「天使!?」

かぞく 「こどくちゃんがまだちいさいときに、四つ葉のクローバーをこどくちゃんが見つけたのね。でも、せっかく見つけたのに、土のなかに埋めはじめて」

こどく 「ほう」

かぞく 「『どうして埋めてるの』って聞いたら、『こどくはもうじゅうぶんしあわせだから、ほかのひとにしあわせをあげようと思って』って言って」

こどく 「え、かわいい」

かぞく 「ね、天使だよね?」

こどく 「たしかに。でもぜんぜん覚えてないな、それ」

かぞく 「そう。こどくちゃんって、わすれっぽい。統合失調症でぐあいがわるかったときのこととか、すぐわすれちゃってるからびっくりする。統合失調症の症状は、こわいものもおおいし、わすれたほうがいいんだろうけど、そのころを覚えているかぞくにとっては、もうこどくちゃんが生きているだけでしあわせです」

こどく 「こどくと関わるうえで、気をつけていることってある?」

かぞく 「こどくちゃんはとってもがんばりやさんだから、こどくちゃんをどこまでがんばらせないかがかぞくの役割だと思ってる。あと、病気になったときに、こどくちゃんがなまけているだとか、甘えているだとか思わずに、すぐ医療機関につなげられたのはよかった。統合失調症だけじゃなくて、精神疾患を持つひとのかぞくはどうしてもそのひとのことを疑ってしまうと思うけど、信じて見守ることはだいじだと思う」

こどく 「うわあ、たしかに。精神疾患って、どうしても甘えているってまわりから思われがちだよね。こどくに対して、なにかひとこと、ありますか」

かぞく 「ひとことじゃおさまんない」

こどく 「じゃあふたことでも、どうぞ」

かぞく 「こどくちゃんはひとりで抱えこんでがんばっちゃうところがあるから、心配していたんだけど、活動をはじめてから、まわりのひとにたすけを求めたり、頼ったりすることができるようになったと思う。できないことはひとにたすけてもらうのも立派な自立だと思う。これからも、まわりのひとたちにたすけられながら、ときにはこどくちゃんがたすけながら、生きていってね」

こどく 「ありがとう。そして、これからもよろしくね」

かぞく 「はーい」

 統合失調症の症状が重かったとき、こどくはどれだけかぞくにすくわれてきたか。そもそも、こどくのあいさつの代名詞である「生きててくれてありがとう」ということばをはじめに言ってくれたのはかぞくだ。みのまわりに、「生きていてうれしい」と思ってくれるひとがいる。それだけで、こどくはしあわせだ。

 そして、もし、まわりにそんなかぞくも、おともだちもいない、という、君へ。こどくがかわりに、なんどでも言ってあげる。このエッセイを読んでくれて、そして、いままで生きててくれて、ありがとう。こどくは君が生きていてくれて、うれしいよ。

イラスト:もりのこどく

#50 こどく、と、生きる

 今回で、統合失調症VTuberもりのこどく初のエッセイ連載、「こどく、と、生きる」は、いったん終了となる。ここまで、読んでくれてありがとう。

 ここまで、こどくは「君と生きる」ことをテーマに、エッセイを書いてきた。君と生きた証しが、このひろいひろい社会のなかで、すこしでも残っていれば、さいわいに思う。

 #50、正しくは51回目の本エッセイ。長かったか、短かったか、こどくの感想を言わせてもらおう。

「まだまだ、人生は続く」

 そう。そうなのだ。エッセイが終わっても、君も、こどくも、このさき、長くも短い一生を、ともに生きるのだ。それは変わらない。

 正直、まだまだ、書き足りない。でも、書き足りないこのきもちは、将来、きっと君と共有する時間のなかで、消えていくだろう。

「孤独」とは、普遍的なものだ。だれもが抱える、けっしてなくならないもの。生きている限り、孤独でないひとなんていない。そして孤独は、そうかんたんにはなくならない。それは、こどく自身もそうだ。こどくは、つねに孤独を抱えている。それについては、過去のエッセイでも触れた。

 だからこそ、こどくは、君と生きていきたい。孤独を抱えて、しんどい君が、すこしでもこころを揺さぶられるような、そんな存在でありたい。生きとし生けるもの、すべてに感謝し、今日も生きていることを肯定し、君とこどくが生きた証しを、ずっと残していける存在。こどくは、それだけ、果たせればいい。

 #50までで、そういったことが、伝えられただろうか。君も、こどくも、生きていていい。生きているだけでえらい。それは、これまでも、これからも、こどくが、人生をかけて伝えたいことだ。生きているだけで、みんな平等にすばらしく、えらいことなのだ。

 さいごに、このエッセイを認め、世に出してくださったNHK出版のみなさん、担当の編集者さん、これまで関わってくださったかたがた、インタビューに答えてくれたこどくのおともだちたちとかぞく、生存者のみんな、そして、この記事を読んでいる君へ。ほんとうに、ありがとう。とても感謝しています。ひとりでもかけていたら、こどくはここまで来ることはできませんでした。

 これからも、孤独と、そしてこどくと、どうかいっしょに生きてください。それだけが、こどくの願いです。YouTubeやX、はたまたちがう出会いかたで、また会いましょう。

 ここまでほんとうに、ありがとうございました。

 今日も、あしたも、これからも、こどく、と、生きる。

イラスト:もりのこどく

※本連載は今回で終了です。これまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

YouTube:もりのこどくちゃんねる

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