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能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第16回)

まるごと青森

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第16回)

シリーズ・謎バス停の旅2 七戸の「バス停前バス停」と「待機所バス停」の謎をめぐる旅

以前、浪岡地区にある謎のバス停「東京線三叉路」についてレポートしました(好評でした)。
実は、あのバス停はもう路線の整理でなくなってしまったらしい。悲しい。いつまでもあると思うな親とバス停。
ということで、謎バス停の旅・その2である。
気になるバス停が多い町があるのだ。
七戸町。地図を見ていると、妙なバス停がたくさんあるのである。
まずは「待機所」シリーズ。「上田待機所」「中村待機所」「野々上待機所」など、地名に「待機所」がつくバス停が実に11か所もあり、すべてが(合併前の)旧七戸町内(旧天間林村内にはゼロ)。
バス停はどこだってバスを待機する待機所なのに、なぜ一部にだけわざわざ「待機所」とついているのか?旧天間林村内には一つもないというのも、何やらワケありの感じがする。
また、それを上回る不可思議なバス停名、これは日本でもトップクラスの変なバス停と言ってよいバス停が一つある。
「見町(みるまち)バス停前」
いやいやいや。あなたがバス停でしょう。しっかりしてよ。
バス停自身が「バス停前」って、どういうことなのよ。行ってみるしかないじゃないですか。

まずは第一の目的地、「見町バス停前バス停」に向かう。
例によってここのバスも本数は非常に少ない。見町バス停前バス停に停まるバスは七戸町コミュニティバスの「西野・上屋田線」という路線で、火・木・金曜に1日2本ずつ。超変則的・極少路線である。青森から青い森鉄道で野辺地に行き、野辺地から十鉄バスで七戸十和田駅前まで行き、そこから乗り換えるというかなりの手順を踏んで、やっとバスに乗り込めた。

駅前は超きれい。ひとけはないけど。

派手なバスがやってきた。乗るのは私一人、乗り込んでもバスの中には私しかいない。運転手さんに「どこまでですか」と明るく聞かれる。「見町バス停前です」と言うと、「バス停前と待機所があるけど?」と聞き返された(正確には、「見町」とつくバス停には、「見町」「見町待機所」「見町バス停前」の3つがある)。念のための確認なのかな。「バス停前のほうです」と改めて言っておいた。
料金は格安、どこまで乗っても100円である。バスの中を眺めると、おや、やっぱりこれも停車ボタンがない。車内アナウンスも何もない。深浦町のコミュニティバスといっしょだ。だから、乗っていきなりどこまで乗るか聞かれたんだね。
運転中の運転手さんには話しかけづらくて、「見町バス停前」の由来は聞けぬままバスは走る。途中、イオン、マエダ、カケモと、バスはあらゆるスーパーに寄って、ばっちゃがどんどん乗ってきた。運転手氏はおおむね個人を覚えているようで、特に各自に降りる場所を聞くこともなく、停まるべきところで停まって、買いもの帰りのばっちゃたちは降りていく。
会話の中で「みりまち」という言葉が聞こえた。どうやら地元では「みりまち」とも呼ぶみたい。

と、そんなこんなで目的の見町バス停前バス停に着いた。ここで降りたのは私一人。

派手な大型バス。七戸って絵馬の町だったんだ。知らなかった。

周りははっきりいって何の変哲もない、のどかな田園風景である。家も数軒あるばかり。人も歩いていない。なぜここが「バス停前バス停」なのか。

バス停が堂々と「バス停前」と言っている。じゃあ君自身は何なんだ。

「おつかれさまです〜」
今回はここで風呂道具師に合流である。いつもどおり、私だけ公共交通機関で根性で現地に到達し、風呂道具氏は車で先回りするという手法をとった。5号氏は今回お休みである。
「何か『バス停』のヒントみたいなの、ありました?」
「なんにも……(笑)」
周りを見渡しても「バス停前バス停」の謎は解けない。とりあえず第一村人を発見してみたい。

これは第一村牛です。見町集落には牛もいたよ。のどかないいところです。

少し歩くと、農作物をまとめている第一村人を発見!話を聞いてみた。
「バス停の名前?うーん、見町はバス停がなくなってから……」
「え、なくなった?そこにまだバス停はありますけど」
「十鉄のバスがあったのよ」
なんと!意外にも答えらしきものがすぐ判明してしまった。
いまはコミュニティバスしかないけれど、「見町バス停前」にはどうやら十和田観光鉄道バスの見町というバス停があったらしい。文字通り、バス停前のバス停だったということだ。謎が分かっても、やっぱり変な名前である。

お話ありがとうございました。オクラはちょっと育ちすぎたそう。黄色いトマトをいただいてしまいました。

さて、「バス停前バス停」はクリアしたものの、次はたくさんある「待機所」バス停の謎である。この近くにも「見町待機所」バス停があるので、行ってみた。

この小屋が「待機所」なの?

バス停のそばに待合室のような小屋がある。これが「待機所」ってこと?でもそれって、バスを待機する場所ってことだよね。それをわざわざバス停の名前にするのは「バス停前バス停」と同じくらい違和感がある。
「見町待機所」バス停の近くには「見町観音堂」という小さな神社があり、その神社に似つかわしくないほど巨大な駐車場があった。

さてはこれが待機所か?駐車場を待機所って呼ぶこと、ある?

余談だけど、この見町観音堂は350年ほど前に建てられた建築であり、堂内には絵馬や羽子板が大量に残されているそうで、意外と(失礼)由緒正しき名所です。七戸が「絵馬の町」と呼ばれる理由の一つでもあるらしい。

で、その後も、私たちはたくさんの「待機所バス停」を巡った。

「左組待機所」バス停。立派な待合小屋がある。やっぱりこの小屋が「待機所」なのか。

「銀杏木前待機所」バス停。やはり小屋がある。

「倉岡待機所」バス停。同じような小屋がある。

ところがここの「野々上待機所」は待合室なし。でも、何かあったような跡がある?

と思えば、「待機所」の名じゃないのに小屋があるバス停もある。うーん。

バス停を巡ってばかりいても謎は解けず、埒があかない。
少し推理の時間を設けようということで、風呂道具師とおそば屋さんに入りました。

七戸の名店・松雪庵さんで、イカ菊相盛りそばでございます。菊がたくさん!おいしい。

「……あの小屋が待機所ってことでファイナルアンサーですかね」
「でも、バスを運営してる側でバスのための待合室(待機所?)を作っておきながら、バス停の名前が『待機所』って変じゃない?だって、青森駅が『青森ホームベンチ駅』って名前だったら変じゃない?青森空港が『青森待合室空港』だったら変じゃない?」
「変な例えで熱くならないでください。ここは有識者に聞きましょう」

……ということで、もちはもち屋、コミュニティバスはコミュニティバス屋。バスを運営している七戸町役場に来ました。

お話を伺った七戸町役場の甲田さん。七戸町ポロシャツはシンプルでおしゃれ。

甲田さんはバス路線図を広げながら説明してくれた。
「もともと、スクールバス待機所のボックス(プレハブ)があったところです」
プレハブ小屋があるから、というのは半分当たっていた。スクールバスの待機所だったんだ!
「スクールバスなので、もともとは児童生徒を乗せるためだけのバス停だったんですが、コミュニティバスを作ったとき、バス停の近くに目印が何もない場所ばかりだったので、スクールバスの待機所をそのままバス停に使ったんです。そこが『○○待機所』のバス停になりました」
詳しく聞くとーー旧七戸町は生徒数減少による中学校統合で、町内に「七戸中」という一校しかなくなり、スクールバスが走るようになった。冬は雪吹きすさぶなか生徒を待たせるのも気の毒なので、小屋を作るようにした。そこがスクールバス待機所と呼ばれ、コミュニティバスに引き継がれることになったのだ。そのスクールバスはコミュニティバスとは別で、今もあるとのこと。
じゃあ旧天間林村に「待機所」がないのは、スクールバスがなかったんでしょうか?「天間林のほうは、プレハブはあったんですが、だいたい集落にバス停が1個ずつだったので、プレハブをバス停名にする必要がなかったのでこうなりました。もともと村民バスのバス停があったので、そのまま使っています」
なるほどー。
考えてみれば、「バス停前バス停」も苦肉の策である。
集落内にバス停を3つ作ると決まったときに、場所を判別する地名も目印も特にないとなれば、名づけに困りますよね。だから、とりあえず人に知られているスクールバス待機所や元々のバス停を、バス停の名前に採用してしまったというわけだ。結果、いま見町の集落内には「見町」「見町待機所」「見町バス停前」という3つのバス停がある。

ついでに「七戸は絵馬の街」というのもいまいちピンと来なかったので、その話もちょっと聞きました。
見町観音堂は、南北朝時代に南部政光によって創建されたらしい。その頃、南部氏によってこのあたりに京文化がもたらされ、七戸の絵馬は京都の影響を受けて派手な柄になったとのこと。もう一か所、「小田子不動堂」というところにも絵馬はあるそうで、七戸の子供たちは絵馬の絵付けなんかもするらしい。甲田さん自身も、子供の頃は絵馬を神社に奉納する物だと思っておらず、絵馬は絵付けをしてそのまま家に飾る物だったとのこと。

うーん、町で推している絵馬にとって重要な場所であるわりに、見町観音堂はあまり整備されていなかったな……。ていうか、考えてみるとそもそも「見町待機所」は「見町観音堂前」でよかったと思うのだが!?
もっとみんな観音堂を見に行こう。七戸町も、こんな巨大駐車場があるんだからもっと推していこうよ。

観音堂、神々しいですよ。

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。著書に、『逃北』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書いている。新刊『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)が大好評発売中!

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