変容し続ける街をとらえる。宮本隆司「本気にすることができない渋谷」が12月6日まで六本木『タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム』で開催中
宮本隆司「本気にすることができない渋谷」が、2025年12月6日(土)まで、六本木『タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム』で開催されている。大規模な再開発が進む東京・渋谷の都市空間をとらえた最新シリーズから36点が展示される。
とらえられた一瞬に見る渋谷の「real」と「unreal」の狭間
建築物を中心に、都市の変貌・崩壊と再生の光景を独自の視線で撮影する写真家・宮本隆司氏。建築解体現場を撮影した「建築の黙示録」(1986年)や香港の高層スラムを撮った「九龍城砦」(1988年)など、その作品は国内外において高い評価を受けている。
本展では大規模な再開発が進む東京・渋谷の都市空間をとらえた最新作のシリーズより36点が展示される。
展覧会担当の土川一志さんは「この展覧会では、建設中のビルや渋谷の街を歩く人々など、『街のかたち』と『人の気配』を、まるで渋谷の雑踏を壁いっぱいに再現したかのように、高低差をつけて展示しています。無機質な構造物と日常の動きが並ぶことで、渋谷という街の多層的な表情が立ち上がります。写真は一瞬を切り取っていますが、その中に時間の流れや変化を感じられるのが魅力です。光や建物の細部に目を向けながら、『現実』と『非現実』のあいだにある不思議な感覚をぜひ楽しんでみてください。平日午後の早い時間帯は比較的ゆったり観覧できます」と見どころを語る。
「渋谷」はどこへ向かうのか
変わりゆく渋谷の様相を2020年から2025年にかけて写真に収めてきた宮本氏。本シリーズでは、コンクリート躯体や鉄骨など改修工事が進められるなかで剥き出しとなった構造体をシャープにとらえた作品と、渋谷の街中を往来する多様な人々のポートレートを写したスナップ写真が対を成すように構成されている。
「わたしには、いまの渋谷を表すことばが見つからない。そこで、このとらえどころのない渋谷を〈本気にすることが出来ない都会〉ということばにつなげてみた。スクランブル交差点を囲む建物から発する大音響と広告画像の氾濫。押しよせ流れくる群衆を刺激し現実離れした様相を露呈しつづける、本気にすることができない渋谷。渋谷の都市改造は、未知なる新たな都市の生成を実現するのだろうか」(宮本隆司)
タイトルにある「本気にすることができない」という表現は、T・S・エリオットの長編詩『荒地』に登場する一句「Unreal City」を、吉田健一が「本気にすることができない都会」と翻訳したことに由来。群衆や大型広告、工事現場といった喧騒がもたらす「本気にすることができない」現実の渋谷は宮本氏の写真において時が止められ、静止したイメージとして固定化する。実体験するのとは異なる次元の「real」と「unreal」の狭間にある渋谷が現れる。
開催概要
宮本隆司「本気にすることができない渋谷」
開催期間:2025年11月1日(土)~12月6日(土)
開催時間:12:00~19:00
休館日:日・月・祝
会場:タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル2F)
アクセス: 地下鉄日比谷線・大江戸線六本木駅から徒歩8分、地下鉄南北線六本木一丁目駅から徒歩8分、地下鉄大江戸線麻布十番駅から徒歩8分
入場料:無料
【問い合わせ先】
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム☏03-6432-9212
公式HP https://www.takaishiigallery.com/jp/exhibitions/photography-film/
取材・文=前田真紀 画像提供=タカ・イシイギャラリー
前田真紀
ライター
『散歩の達人』『JR時刻表』ほか雑誌・Webで旅・グルメ・イベントなどさまざまなテーマで取材・執筆。10年以上住んだ栃木県那須塩原界隈のおいしいものや作家さんなどを紹介するブログ「那須・塩原いいとこ、みっけ」を運営。美術に興味があり、美術評論家で東京藝術大学教授・布施英利氏の「布施アカデミア」受講4年目に突入。