鉄さびが世界を変えるかも!?
政治も、経済も、スポーツも、生活情報も。新聞を読まなくても今日のニュースがわかる、自分の視点が持てる!首都圏で一番聴かれている朝の情報番組。
毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。今日は、鉄さびが世界を変えるかも?という「科学 シルマナブ」面の記事に注目しました。
特に雨の多いこの時期、うっかり放置してたら錆びちゃったということ、ありますよね。ちょっと迷惑な存在である「鉄さび」。(赤さび、とも言われますね。)これは、鉄と酸素が結びついた酸化鉄ですが、同じ酸化鉄なのに(酸化鉄は酸化鉄でも)、とっても役に立つ、すごい酸化鉄が作り出された、という記事。
ちょっとだけ構造が違う、しかし性能はすごく違う!
このすごい酸化鉄「イプシロン酸化鉄」の合成に成功した、東京大学理科学系研究科・大越慎一教授にお話を伺いました。
東京大学理科学系研究科 大越慎一教授
酸化鉄の中でも赤さびと言われるのが、これがアルファ層という結晶構造に対して、我々はそれと違う結晶構造、イプシロン型の構造をした酸化鉄を今回見つけた、と。それが非常に大きな保磁力、磁性材料であるということが分かって、すなわち強い磁石であると、いうことが分かって、色々な応用が期待されます。
どうしても磁石の場合は、希少な元素を使うことが多いのですが、この材料であれば、そういった元素が必要でなく、ホントに鉄と酸素から作ることができる、そういった材料です。
その通りです。赤さびは磁石ではないんですけども、ちょっとだけ構造が違う、それを小さいサイズに閉じ込めて作ったらそれが安定な構造だった、と。まあ、灯台下暗しというのか、ひょうたんから駒というのか、なんと言っていいか分からないんですけども、工夫すると、考えると、今まである素材でも、面白い、新しい物性が生まれてくる可能性があるということを秘めてるということだと思っています。
我々が知ってる、いわゆるサビと同じなのに、強い磁石なんです。鉄と酸素の比が2:3になる組成は、赤さびと同じ。同じブロックを使っても組み方を変えると出来上がりも違う、という感じ。
ガラスでコーティングして、結晶サイズを成長させないようにしたら、イプシロン酸化鉄が出来ました。そして、それが非常に大きな保磁力(磁石であり続ける力)を持っていることで、色々なモノへの応用、利用が期待されているのです。
(こちらが、イプシロン酸化鉄です。確かに、赤さびと色味が似てますね。)
イプシロン酸化鉄、いったい何に使われるの?
では、具体的にどんなものに使われるのか?再び大越先生のお話です。
東京大学理科学系研究科 大越慎一教授
一つの応用は記録材料です。特に、磁気テープ用の次世代の材料としての可能性が高いということで注目されています。磁気テープについては、色々なバックアップデータ用として、非常に市場が大きく、今、展開しておりまして、皆さんあまり普段見ないかもしれませんけれども、重要なデータを長期間に渡って保存する方法として有効利用される可能性がありまして、その材料の候補として挙げられているということです。
例えば100年くらい記録していくということが、情報としては必要とされておりますので、保険、それから金融のような重要な情報はバックアップデータとしては電気代のコストも安く、CO2排出量も少ないと言われている磁気テープの記録が注目されていると。小さいサイズまで作ることができるので、記録密度が一段とあがります。えーと、結構変わります。具体的に数字を言うのはアレなんですけども、まあ10倍とか、そういった量は増えてくと。
磁気テープっていうと、カセットテープとかビデオテープが身近ですよね。保険や金融業界の他にも、グーグルなどでもバックアップデータ用には磁気テープが使われてあり、ニーズが高まっているんです。
そこにイプシロン酸化鉄!磁気テープは面積は決まっていますから、粒子が小さくて、しかも強い磁石であれば、より多くのデータを記録できるものになるということ。
(イプシロン酸化鉄で作られた、磁気テープ。)
そして、もう一つ大事な用途、役割が、電磁波吸収材料としての性能。
これから世の中がもっと進化していく中で、例えばカーレーダーやWi-Fiの次のもの(WiGig)、自動運転システムなどが使う電磁波は、30~300GHzの高い周波数で、ミリ波と呼ばれます。
そうした高周波の電磁波がたくさん飛び交い混信の恐れが!
それを防ぐため余計な電波を遮蔽する吸収材が必要なのですが、ミリ波を吸収する材料がなかった。しかしイプシロン酸化鉄なら吸収可能!(すでにフィルムが製品化。)
また、5G、6G、7G、となっていくと、今と比べて1000倍以上の情報が瞬時に伝送されることになるので、例えば部屋の中で扱っていた重要な情報が外から一瞬でスキミングされることもありうる。
そこで、どうしても遮蔽する、吸収する材料は必要なのです。
(そして、大越先生が持っているこちらが、イプシロン酸化鉄の電磁波吸収材のフィルムです。)
「鉄と酸素だけ」で、最強磁石「ネオジム磁石」レベルの磁石へ!
ただの劣化物と思っていた鉄さびが、ちょっと変わると、こんなに有用とはビックリ。しかし、以前、このコーナーでも取り上げたこともあるネオジム磁石が、現在、この世に存在する磁石の中で最強、と聞きました。それには適わないですか?と大越先生に聞いてみました。
東京大学理科学系研究科 大越慎一教授
ネオジム磁石が強いというのは本当です。
で、ネオジム磁石と我々の材料(イプシロン酸化鉄)、保磁力は同じなのですが、磁化の大きさが、ネオジム磁石にまだ適わないんですね。で、その磁化の大きさを大きくするような方法を、もし我々が実現できれば、今のネオジム磁石と同等の用途に応用することが可能になる、と。すなわち、「鉄と酸素だけ」から、強いモーターとか、そういった磁石が作ることが出来るじゃないか、ということで日々研究しているところです。
もうこれで実現できたら、磁性材料の分野では最後のパラダイムと言われている、海外の方にそう言っていただいているような材料ですので研究者としても醍醐味です。そうですね、特に希土類、希少な元素になりますと、国と国との関わり合いとかも関係して参ります。そういう意味で、鉄と酸素だけから出来ることは、非常に重要なことに繋がるんではないかなという風に期待してるところです。
ネオジム磁石は小型でも強力。スマホ、イヤホン、ドローン、モーター、などで大活躍。しかし、ネオジム磁石はレアアースを使った磁石。
中国がレアアースの供給を制限する、制約を加える、というニュースはよく聞きます。
鉄と酸素だけから合成することが出来る、ネオジム磁石くらい強い磁石ができれば・・・これはすごい!大越先生が25年以上研究してきたイプシロン酸化鉄に、世界が注目しています。
鉄と酸素、鉄サビ。身近なものが大きく世界を変えると聞くとワクワクしますね!
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材・レポート:近堂かおり)