ユニークな住まいで見つけたアイデア!自由な発想で暮らしを楽しむ【千葉県】
個性あふれる住まいには、毎日をもっと楽しくするヒントがいっぱい。今回は、独自の視点で作られた魅力的な住まいを訪ね、その背後にあるオーナーの思いやこだわりをお届けします。
1.【市川市】緑の借景と庭が一体化!ジョージアン様式の邸宅
JR武蔵野線市川大野駅から徒歩8分の閑静な住宅街に、燦然と輝くジョージアン様式の大邸宅がありました。一角には、日本で唯一の正式ライセンスを持つ赤毛のアンのコンセプトカフェ「アトリエ&カフェ 赤毛のアン」があります。理想の住まいを手に入れたオーナーの野中紀子さんに、家づくりにかけた思いを聞きました。(取材日)2025年1月21日
建て替えのきっかけは東日本大震災
ジョージアン様式とは、イギリスのジョージ1世から4世の時代(1714年-1830年)の建築様式。
レンガ造りで重厚な印象を持ち、左右対称(シンメトリー)のデザインが特徴です。
野中さんが以前住んでいたのは和風の住宅。
ポーセリンペインティングという陶器の絵付け講師として活躍していた野中さんは、いずれ自宅をリフォームして、絵付けの教室とカフェを併設する夢を持っていました。
和風の家も好きでしたが、建て替えるなら全く違う雰囲気にしたい…と考えていた2011年、東日本大震災が起こります。
自宅の建物は無事でしたが、地盤が液状化して建て替えを余儀なくされました。
野中さんのお宅の裏手は小高い丘のようになっていて、緑が生い茂っています。
ここには中世に大野城という城が築かれていたそうで、平将門の出城があったという伝説も。
この緑を借景にして映える家…ということで、家族で相談した結果、ジョージアン様式が選ばれました。
理想のハウスメーカーを選ぶため、妥協せず情報収集
建て替えをするに当たって参考にするため、さまざまな家を見て回りました。
フランス、イタリア、イギリスなどの海外から国内各地まで巡り、気になる家があれば写真を撮ってストックしていきます。
そうするうちに、自分がどんな家を好むのかが見えてきて、候補が絞られてきたと言います。
自分の理想がはっきりしたら、それに近い家を建ててくれそうなハウスメーカー探しへ。
気になるメーカーの家に住んでいる人を訪ねて家を見せていただいたり、話を聞いたりしました。
その後、自分の理想とする外構や内装の提案を持ってくる好相性の設計士と出会い、ほぼ毎週のように打ち合わせ。
要望を伝え、すり合わせを重ねていきました。
こうして準備期間は3年にも及びましたが、妥協なき追求により2014年、思い描いた理想通りの家を手に入れることができたそうです。
この家のここが好き!お気に入りポイント
「以前住んでいた日本家屋が暗かったので、『明るい家にしたい』という考えがありました」。
採光のため窓を大きくし、内部は全て吹き抜けに。
「吹き抜けにすると部屋数は少なくなるのですが、部屋数よりも明るさを重視しました」とのこと。
野中さんに、愛する家のお気に入りポイントをいくつか挙げていただきました。
お気に入りポイント1「顔」
正面から見た、家の「顔」に一目ぼれしました、という野中さん。
「好みの問題ですが、私はシンメトリーに美を感じます」
お気に入りポイント2「格子窓」
ジョージアン様式に特徴的な、上げ下げ式の格子窓が端正なレンガの外壁に映えます。
お気に入りポイント3「おしゃれ倉庫」
ガーデニングに必要な道具を入れる物置が必要でしたが、市販品では雰囲気に合うものがなく、結局住宅メーカーに依頼し、家屋と同じタイルを使って作ったそうです。
「どんな倉庫にしようか考えに考え、決定するまで何年もかかりました」という力作。
一幅の絵画のように…庭も含めて「作品」の一部
建物だけでなく庭も含めて「理想の住まい」と語る野中さんに、庭づくりのコンセプトについても聞いてみました。
「イギリスの家屋なので、それに合う植物を…と考えると、どうしてもバラは外せません。市川市民の花でもありますし」。
バラをメインに据え、どのような庭にするかを施工業者と相談したり、自らもガーデニングの資格を取って勉強したりして、構想を練っていきました。
庭を含めた家の写真が一枚の作品となるよう、意識して庭づくりをしています。
野中さんは「いちかわオープンガーデン」の活動にも参加し、市内のガーデナーや花好きな人たちと情報交換しています。
オープンガーデンとは、個人宅や施設の、手入れの行き届いた美しい庭を、広く一般に公開して見てもらう取り組み。
ガーデニング好きな人々の交流の場にもなっています。
「志していた絵付けの講師として独立し、家で教室を開くことができていること、大好きなものに囲まれて生活できていること…。全てに対し、家族や応援してくれる人に感謝しています」という野中さん。
ただ、「建てたはいいけれど、これからどうやって維持していこうかという悩みもありますね。好きなことを突き詰めるって実際には結構大変です」と笑います。
最後に、野中さんにとってこの家はどんな存在か聞いてみました。
「この家を建てなかったら、こうして取材を受けることもなかったでしょうし、オープンガーデンの友達にも出会えなかったでしょう。家のおかげでさまざまな出会いが広がりました。そう、家が自分を変えてくれたんです。建ててよかったんだと思います」
2.【四街道市】里山の中にある築150年以上の古民家は自宅であり人が集う交流の場
明治初期に建てられた築150年以上の歴史を持つ古民家。
そこに暮らすのは、岡田さん夫婦と一匹の猫。
四街道市吉岡地区は、歴史的な景観と千葉の原風景が広がる自然豊かな場所で、岡田さんの暮らす古民家は、林や畑が広がる里山の中にあります。
林を抜けると見えてきたのは立派な佇まいのお屋敷。
「家って住む人が主なので、暮らす人が住みやすいように何度もリフォームしました」と話すのは岡田はる美さん。
茅葺の屋根は瓦の屋根に、土間のあった場所は居室に、そして住居の一部を建て直し、使い勝手の良いダイニングキッチンへと改装されています。
その一方で、当時のままの状態で残されているものも。
繊細な木工技術が用いられた欄間や25畳の客間、その客間に隣接する縁側には大正ガラスの戸があり、歴史を感じられます。
「実際に生活するスペースは住み心地を考えてリフォームしましたが、変える必要のない場所はあえてそのまま残しています。昔の建築がどのようなものだったのか知るきっかけにもなりますし。歴史ある建物なので後世に残していきたいですね」。
そう思いを語るはる美さんを悩ますのが、「維持の難しさ」だと言います。
現在は年に数回、ボランティアの人が来て掃除を手伝ってくれているそうですが、「とにかく維持していくのが大変…。古民家を残していきたい、その思いに賛同して、お手伝いいただける方がいましたら、ぜひお力を貸してほしいです」と切に願います。
母屋の前には、築130年以上の土蔵と蔵があり、当時使っていた湯殿も残されていました。
「土蔵と蔵の違いって分かります? 土蔵は貴重品などを入れておく場所で、蔵は穀物などの貯蔵庫なんですよ」。
現在、土蔵は物置として、蔵は読書アドバイザーもいる「蔵の図書館」として活用されています。
その蔵の図書館をのぞいてみると、とってもおしゃれな雰囲気。
並べられている本は、絵本に図鑑、ビジネス書、歴史書など幅広く、そのほとんどが寄贈されたもので、「2番目に好きな本を持ってきてもらっているんですよ」とはる美さん。さらに、それぞれの本には寄贈した人のメッセージが書かれたカードも付いており、本を介して人とのつながりを感じることができます。
※開館日はホームページで確認ください
築150年を超す母屋に築130年以上の蔵…古きを残しつつ、今の暮らしにアップデートされた岡田邸ですが、もう1つユニークな面があります。
それは「人が集まるコミュニティの拠点」であるということ。
はる美さんが暮らすこの里山は、Y・Y・NOWSON(ワイワイノウソン)という、里山の魅力を体感できる場所(団体)であり、はる美さんは村長でもあります。
YYは四街道・吉岡のことを指し、NOWSONは今どきの農村という意味。
里山の保全や地域・世代を超えた交流の場の提供を目的に、2014年に4つの市民団体により設立されました。
畑を耕したり、キャンプを楽しんだり、自然の中で遊びを通じて学びを得たり、個人から市民団体まで、さまざまな人が訪れ、このY・Y・NOWSONをフィールドにイベントやワークショップなどを行っています。
「こんなことをやりたい、と相談されたらどうぞやってみては、と言っちゃうんです(笑)」。
里山だけでなく、自宅の古民家もイベント時には開放しており、「改築した1階のキッチンは、Y・Y・NOWSONのイベント時には、5、6人のスタッフがお料理作りに励みます。私以上に家の中を熟知している人もいますからね(笑)」。
自宅の敷地内に加え、プライベートな部分は分けているとはいえ住居にも人が出入りする環境…そこに対して思う所はないのか尋ねてみると、「抵抗はないですね。みんなこの場所が好きで、大切に思ってくれる人たちばかりですし、何かしらつながりがあるから、全く知らない人というわけでもないですしね。この場所をみなさんが利用することで、里山の循環に役立てば、そう思っています」と話してくれました。
営利目的はなく、純粋に里山を残していきたい、そんな思いで運営しているY・Y・NOWSONは、はる美さんにとって「自分の知らない世界を広げてくれる場所」でもあると言います。たくさんの人との出会いがあり、そのつながりを通してさまざまな経験ができるのも岡田邸ならではの魅力です。
最後に、家で一番好きな場所を聞いてみると「日の当たる縁側も、客間の奥座敷からのぞむ築山も好きですけど、蔵も畑も山も、それらすべてが一体となったこの場所が好きです」と優しい笑顔で答えてくれました。
日本画家・田中一村の千葉での創作拠点でもあった岡田邸
母屋にある25畳の客間は、日本画家・田中一村が創作活動をしたこともある場所。ふすまには白梅・紅梅などの作品が描かれ、それらの襖絵を含む貴重な作品の数々は、鹿児島県奄美市にある田中一村記念美術館と一部は千葉市美術館に寄託され、保全管理されています。