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【「劇団渡辺」山崎馨代表、蔭山ひさ枝さんインタビュー】 7月公演で解散。21年間の足跡を振り返る。「劇団としては恵まれていたんだろうな」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。2004年に静岡大演劇部卒業生ら3人で結成し、静岡市を拠点に活動を続けた「劇団渡辺」が7月公演を最後に解散することになった。山崎馨代表と創立メンバーの蔭山ひさ枝さんに、決断の経緯と劇団の歩みを語ってもらった。((聞き手・写真=論説委員・橋爪充、写真=劇団渡辺提供〈演目〉)

劇団渡辺の山崎馨代表(左)と創立メンバーの蔭山ひさ枝さん

帰る場所が「劇団渡辺」でなくてもいいんじゃないかと

-4月1日に解散を発表しましたね。この日を選んだのは何か意味があったんですか?

山崎:SNS上などでエイプリル・フールに何かやるというのを、結構前からやっていたんです。ふざけてやってきた面もあったんですが、今回は「(うそか本当か)どっちなの」というところをちょっと残しつつ発表したくて。

-4人の連名で解散発表がなされました。皆さん、いろいろお話しされたと思いますが、決め手は何だったんですか?

蔭山:2019年に演出担当だった渡辺亮史代表がいなくなって1回休業し、再開したわけです。2024年に(創立メンバーの)大石(宣広)が亡くなった時も「頑張ってやっていこう」みたいな感じだった。でも、改めて演劇とどう付き合い続けていくかを相談した時に、「劇団渡辺」を名乗り続けていくメリットがだんだんなくなってきてることを感じて。 劇団を残すことに固執していて逆に動けてないんじゃないかな、みたいな。

-なるほど。

蔭山:あちこち客演させていただく機会があっていろいろ考えて。もう帰る場所、帰属する場所が劇団渡辺じゃなくてもいいんじゃないかと。

山崎:(2019年に)演出担当者がいなくなって。劇団で演出家がいないって、ありえない状態ですよね。そしてメインの役者(大石)もいなくなった。ただ劇団が残ってるだけ、みたいな状態になりつつあるなとは思っていたんです。それで、年末年始ぐらいのミーティングで、「この名前に縛られ続けるのをやめようか」という話になりました。

-拠点としていた「人宿町やどりぎ座」を2024年に閉じたことも大きかったんでしょうか。

蔭山:集まる場所がなくなってしまいましたもんね。劇場については支配人として頑張ってきたつもりなんですけど、やっぱり続けられなかった。そのことが私個人としては大きくて。

山崎:やっぱりモチベーションが下がってしまいましたね。公演を打つ場所もなく、みんなが集まる場所もなく。全員が集まるタイミングが本当になくなっちゃってて。

「人形の家」(2023年、静岡市葵区の人宿町やどりぎ座〈撮影・原賀琢也〉)

生活の1番に演劇を置くっていうのがルールでした

-2004年の立ち上げのいきさつを教えてください。

蔭山:大学時代に私と大石、渡辺の3人で、卒業後も演劇をやりたいとなったんです。当時SPAC(静岡県舞台芸術センター)のスクール生制度があったんですが、25歳以上という制限があって書類で落とされまして。それで、演劇をやりたかったから市内の劇団を見回したら、面白い劇団にはすでに面白い女優さんがいたんですよ。

-それで自分たちでやろうと。

蔭山:割と安直な感じで同期3人(蔭山、大石、渡辺)でそういう話をして、「よしやろう」みたいな感じになった。それでまず「劇団渡辺」としての実験公演を2003年夏にやったんです。三島由紀夫の「班女」とシチュエーションコメディーみたいな演目の2本を静大の演劇部の部室でやりました。

-その方向性が今に至るんですね。

蔭山:古典をやりたい人と、シチュエーションコメディーみたいなものをやりたい人がいたので、しばらく両方やろうという話になった。それがずっとこの劇団のコンセプトとして残った形です。

-旗揚げ当時の劇団はどんな雰囲気だったんですか?

蔭山:生活の1番に演劇を置くっていうのがみんなのルールでした。「バイトがあるから稽古に行けません」はナシにしようと。稽古の時間が決まってからバイトのシフトを決めるみたいな感じでした。稽古は週3回やっていました。

「劇団渡辺版 不思議の国のアリス」(2006年、南部図書館視聴覚センターMAVIC)


-山崎さんは 2007年の加入ですが、どんな印象だったんですか?

山崎:やっぱり「劇団渡辺」っていう名前はでかいんですね。ただ、ある意味強すぎたっていうのもある。演劇を主体としていないと入れない。稽古が平日の日中が基本だったこともあり、演劇だけをやる人間が集まっている、みたいな見られ方がありましたね。

-入団のいきさつは?

山崎:自分はテレビの世界に行きたくて、2004~2007年はいろいろオーディションを受けていたんです。そんな中で2007年の「県民参加体験創作劇場」(SPAC主催)に参加したら、演出が劇団渡辺の渡辺で演目が「椿姫」だった。公演が終わった後に、渡辺から稽古来ないかって声かけてもらったんです。

路上とライブハウスで俳優のスキルが磨かれた

静岡市葵区の青葉シンボルロードでの「ストリート・ショウ」(2008年)


-劇団渡辺の公演や活動の中で特に記憶に残っているものは何でしょうか?

山崎:自分は俳優としてある程度の対応力はあると思っていて。アドリブやレスポンスはそこらの俳優よりは速いんです。なぜそれができるのかと言ったら、やっぱり「ストリート・ショウ」と(ライブハウスの)「フリーキーショウ」での公演が大きいですね。2007年から3年ぐらいやっていたのかな。

蔭山:初期はストリートやってから、フリーキーショウに出ていました。

山崎:青葉シンボルロードの一角にのぼりを立てて。お客さんにお題をもらって即興で演じる、みたいなのをやってたんですよ。俳優としての基礎、スキルがめちゃくちゃ鍛えられましたね。

蔭山:フリーキーは毎週水曜日にやらせてもらっていて。

山崎:午後7~ 8 時に台本なしでストリート・ショウをやって、午後8~ 9 時にフリーキーで台本があるような演目をやっていた。全部、思いつきだったんですよね。自分たちを鍛える、みたいなところはありました。漫才、ショートコントもやったし。もちろん演劇をやる時もあった。

「班女」(2008年、静岡市葵区のフリーキーショウ)

-蔭山さんは、この劇団の歩みの中で印象に残ることは何ですか?

蔭山:自分たちの稽古場を持つのがスタート時の目標の一つだったんですが、割とすぐに(倉庫を改装した劇場)「寿町倉庫」(静岡市駿河区)に入ることができた。公民館で稽古して午後5時になったら出なくちゃならない、みたいな状態から比べると明らかにクオリティーが高いものができるようになったんです。

-自由に使える稽古場の確保、というのは皆さんの頭の中にずっとあったんでしょうか。

蔭山:(SCOT演出家の)鈴木忠志さんがトークの時に毎回言ってるんですけど、「稽古するぞ」って思った時に場所を借りてるんじゃもう遅い、みたいな話です。あと30 分稽古やったら全然違うものになるっていう時に「帰ってくれ」と言われるような場所じゃ稽古にならないと、鈴木さんはいつも言っていて。だから自分たちも「あとちょっと稽古したい」というときに場所があるっていうのをすごく大事にしてたんです。

-舞台芸術に情熱を注げる原動力は何だったんですか?

山崎:演劇をやり始めてからは、お客さんが目の前にいて、何かあれば自分を見てくれるっていう感覚の楽しさを知ったわけです。これはもう、今も変わらず最高だなって思っています。

蔭山:私はいろんなことが続かないんですけど、演劇だけは続いている。見るのも好きなので、いろいろ見ますよね。それが面白いと悔しい。私ももっと面白いことやりたい、となる。ずっとそれが循環している。素晴らしいな、ここは負けちゃうなって思う時がやっぱりあるので。そうすると自分の燃料になるんです。何で演劇を続けられるかと言えば、燃料が絶えないからだと思います。

「羽衣」(2013年、静岡市駿河区のグランシップ前広場)

-これで解散ということですが、公演を楽しみにしていた人もすごく多いと思うし、静岡市の繁華街で劇場があることで町としての文化の底上げにも貢献していたと思います。21年間という時の流れを振り返って、どんなことを感じますか?

蔭山:やっていた時は恵まれてないなと思ってたんです。コンクールに出ても微妙な賞しか取れないし。でも振り返ってみると、海外の人に見てもらえる場所に出られたり、東京、大阪、愛知でやったりもして、いろいろな人とつながりを持てて。劇団としては恵まれていたんだろうな。

山崎:個人的にはこの劇団に関わって1年で、人によっては神のような存在でもある鈴木忠志さんの作品に出させてもらったりして。やっぱり、恵まれてるなって。関わったタイミングが良かったんでしょうね。

-昨年8月、「やどりぎ座株式会社」を設立されました。今後はどういう活動を考えているのですか?

蔭山:会社では、私たちの俳優業みたいなところと、企画公演、フェスティバルの企画をメインにしていこうかなと思っています。

山崎:劇団としてはなくなるかもしれないけれど、活動の場は演劇なので同じ場所にはいるよなという感じです。

<DATA>
■劇団渡辺「劇団渡辺版 四川の善人」
原作:ベルトルト・ブレヒト
構成・演出:劇団渡辺
出演:蔭山ひさ枝、山﨑馨、山本瑞穂子、絢、形而マサ子、山下浩平、山田清顕、吉見亮、貴島豪(ゲスト)
会場:ギャラリー青い麦(静岡市葵区呉服町2-2-22 呉服町ビル1F)
公演日時:7月17日(木)午後8時、18日(金)午後8時、19日(土)午後2時と午後7時
観覧料:前売 一般3000円、U251000円
     当日 一般3500円、U251500円  善人(前人)チケット5000円 
※予約、問い合わせは問い合わせは劇団のメールアドレス(watanabe.theatrical.company@gmail.com)へ。

「ペール・ギュント」(2018年、人宿町やどりぎ座)

「芝生の上のさかさま姫」(2022年、駿府城公園。ストレンジシード静岡2022)

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