平成ぎゃるそん ① 10代の安室奈美恵がカリスマになり女子高生がこぞって真似た時代!
平成ぎゃるそん(平成ギャルSONG)vol.1
TRY ME 〜私を信じて〜 / 安室奈美恵 with SUPER MONKEY’S
作詞:鈴木計見
作曲:HINOKY TEAM
編曲:DAVE RODGERS
発売:1995年1月25日
1995年に起こった「ギャル文化」の爆発
歴史の流れを俯瞰で見たら、部分部分ぐにゃりと曲がっていて、この時はそのカーブに当たったのではないかなと思う時代がある。古いものが強制的に廃れ、新しいものが生まれる。そこに発生する戸惑いと混乱。
2020年から今、まさにそれを感じるが、遡ると少しカオス感が似ている “歪の分岐点” 的な時代があった。1995年からの世紀末!特に1995年は経済悪化の加速、阪神大震災にオウム問題など、社会が全方位暗くなっていた。かと思えば、Microsoft Windows 95など、新たなツールが登場し、まさに “混沌” ――。
私も当時、思ったものだ。“ついていけない!本当にノストラダムスの予言が当たって地球が終わるんじゃないか” と。バブルのヤラカシの引っ込みがつかず、かといってどうすればいいかわからない。そんな風に諦めと模索で大人がマゴマゴしている狭間、突如天下を取ったのが “ギャル” である。
聖地は渋谷センター街、スパイ顔負けにポケベルを駆使
聖地は渋谷センター街。1995年はまだポケベルが主流で “14106 = 愛してる” など数字を駆使して連絡を取り合っていたJK。ううむ…スパイ顔負けじゃないか!
制服にラルフローレンのカーディガンを巻き、短いスカートを補うように足元はボッハボハに大きなルーズソックス。黒く焼けた肌にほっそいほっそい眉。錆びたような茶髪と顔色がすこぶる悪映えするメイク!頭にはなぜかハイビスカスが飾られ、これまたハイビスカスが描かれたアルバローザの買い物袋を手に巻きつけている。全身で “私の楽園は私自身” と言っているようで、目が痛い眩しさだった。
ギャル文化の加速は、当時メディアの最先端だった雑誌文化、『Cawaii!』(主婦の友社)や『egg』(ミリオン出版)の創刊も大きい。けれど、何より強烈な着火剤は、♪デッデーデーデデッ…… というイントロに乗り、激しく歌い踊った安室奈美恵だった。彼女は息切れ一つせず、新時代を連れてきた!
そうよTRY ME
あなたをみてる 私を信じて
安室奈美恵の登場、パンツスーツで「媚び」を蹴散らすように踊る!
「TRY ME 〜私を信じて〜」での安室ちゃんの大ブレイクに、当時私は本当にびっくりした。SUPER MONKEY’Sでデビューした頃から、沖縄出身のハイレベルな女性ダンスグループという認識はあって、彼女たちのサードシングル「愛してマスカット」が好きだった。
しかし、「TRY ME 〜私を信じて〜」はちょっとレベルが違った。ヒナが孵化したというより、タマゴがパーンと割れ、ブワッサー!と極楽鳥が回転しながら出てきたような感じ。安室奈美恵はガンガンに踊っても息切れしない、声がブレない。衝撃的だった。
私はこの曲をかなり長い間、小室哲哉の作詞作曲だと思いこんでいた。ロリータの「Try Me」のカバーなのだが、当時、小室哲哉自身も “僕が書いたみたい。この子と縁がありそう” と思ったそうだ。この流れ、もはや運命!そして1995年11月、小室哲哉がプロデュースした「Body Feels EXIT」をリリース。これが爆発的に売れた。その姿はカワイイよりカッコいい、いやもう “戦闘的” ーー。
キュート見せの演出はほぼゼロ、逆に鎧のようにパンツスーツを着て、近寄ってくる男や大人を蹴散らすような激しいダンスと歌唱で威圧する。メイクもモテどころか “死に顔メイク” などと言われる色の薄い個性的なメイクだ。無残に崩れていく縦社会、大人が弱くバカに思え、時代がどうなるか分からないギリギリの1995年。“媚びずとも自立できる魅力と才能” を見せつけた10代の安室奈美恵がカリスマとなり、女子高生たちがこぞって彼女を真似たのは、もう分かりすぎるほどわかるのである。
「Body Feels EXIT」と1996年の流行語大賞に入った「閉塞感」という言葉
翌年の1996年には “アムラー” “ルーズソックス” “援助交際” とコギャル文化のキーワードが流行語大賞トップテンに入っている。女子高生のパワーと感性は社会経済を回したけれど、同時に若さゆえのコントロールできない危なっかしさもあった。私はテレビや雑誌越しに観ていただけだったけど、それでも本当に危なく怖かった。けれど、底光りする “儚い強さ” があり、目が離せなかった。
バックグラウンドなんてどうでもいい。今が楽しければいい。自分には “若さ” という価値がある――。最高じゃないか!けれど「Body Feels EXIT」を聴いていると、メロディーは力強いが、歌詞は不安で震えていた。
こんなに夜が 長いものとは
想ってもいない程 寂しい
膝をかかえて
動けなくたって
1996年の流行語大賞にはもうひとつ、こんな言葉もランクインしている。それは “閉塞感” 。彼女たちが本当に欲しくて手を伸ばしたのは、楽しさより “この苦しい時代からの出口、別の世界への入り口” だったのかもしれない。
あの時代の強さと儚さを体現していた「Dreaming I was dreaming」
安室奈美恵は2年後の1997年に婚約・妊娠を発表するのだが、休養前、最後に発表されたシングル、「Dreaming I was dreaming」がすごく寂しいメロディーで、ハッピーな休養の前になぜ?と当時本当に驚いたものだ。けれど、今となると、あの時代の強さと儚さを体現していたとも言える。“全部夢みたい。できるなら、もっといい夢を見たい” そんな風にーー。
決していいことばかりではない、むしろ負のパワーを憎しみで渦巻く時代は幾度も巡り巡ってくる。だからこそ、世紀末にもがき個性を輝かせたギャルたちの生命力と、彼女たちの鋭く不安定な感性を支えた “歌” についてもっと知りたくなるのだ。今の私はJKどころかアラフィフのオバハンだが、情報過多ですべてが怖く、膝を抱えて震えてばっかりだ。だからエネルギーをもらおう。
「Body Feels EXIT」は小室哲哉の造語らしいが、それがまたいい。“雰囲気” でなんとなく分かるのも、ギャルっぽいではないか。
“Body Feels EXIT”
“身体で 感じろ!”
閉塞的な時代の “出口” を見つけるにはそれしかない。