「ニコラス・ケイジ節が炸裂してます」[Alexandros]川上洋平、アリ・アスター製作のドリームスリラー『ドリーム・シナリオ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、『ミッド・サマー』で知られるアリ・アスターが『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ監督と組んだ『ドリーム・シナリオ』。ニコラス・ケイジ演じるごく普通の暮らしをしていた大学教授が何百万人もの人々の夢の中に現れ、一躍有名人となるが、やがて夢の中の自分が悪事を働き始めて大炎上するというブラック・ユーモアたっぷりのドリーム・スリラーを語ります。
──『ドリーム・シナリオ』はどうでしたか?
かなり楽しめました。「新しいものを見せていただきありがとうございました」という感想です。
――人々の夢の中に現れた自分が悪事を働き始めて窮地に追い込まれるという設定が斬新ですよね。
そうですよね。ニコラス・ケイジ、また新たなハマり役を見つけましたね。夢がテーマなだけに層がいくつかあるのですが、まずは何も考えずに楽しむのもあり。その後情報を入れつつ、2回目を観るとまた違った楽しみ方ができると思います。SNS時代の「自分が不特定多数の人の夢に現れる」という物語をベースにしつつ、ユングの自我と無意識の考え方にかなり影響を受けているみたいです。クリストファー・ボルグリ監督のインタビューを読むとそこらへんが明確に話されていますね。ボルグリ監督の考え方として、映画は不特定多数の人間が集まって共有する「夢」みたいなもので、「人々がアイデアを持ってるんじゃなくてアイデアが人々を所持している」っていうユングの概念、実は無意識が人々をコントロールしてるんじゃないかっていうことも映画全体の下敷きになっているそうです。
──ニコラス・ケイジ演じる大学教授のポールはそのコントロールできない夢に翻弄されるという。
そう。なんだか小難しそうだけど、なんとなくそういうことを知っておけばわかりやすいんじゃないかと思いました。夢を扱った映画っていうと『インセプション』がありますが、あれは夢をコントロールしようっていう映画で。『ドリーム・シナリオ』は夢にコントロールされる映画だとシンプルに捉えています(笑)。主人公のポールは娘に「夢は自分が思いついたものが出てくる自分が所持しているものなんだよ」みたいなことを話すんだけど、皮肉にもどんどんそれとは逆の展開になっていく。なかなかのブラックユーモアでしたね。
──しかも、ネットでよくミーム化したり、『マッシブ・タレント』でニコラス・ケイジ役を演じたことのあるニコラス・ケイジがそれを演じるというのが良いですよね。
そうですよね。「これはニコラス・ケイジじゃないと」っていうシーンもちらほらあって。昔から好きでしたが、近年はより一層独特の役者になってきましたよね。ヒロイックな役もできるけど、『ドリーム・シナリオ』みたいにすごく情けない役もできるし。
■クリエイターとしては皮肉を感じざるを得ない
──クリストファー・ボルグリは約一年前にこの連載で取り上げた『シック・オブ・マイセルフ』の監督ですが、『シック・オブ・マイセルフ』は過剰な承認欲求の話で。『ドリーム・シナリオ』のポールも人々の夢の中に登場した当初は有名人となった自分に陶酔していて、SNS時代の承認欲求を描くことに惹かれる監督なんだなと。
ね。評価っていうのは結局周りがするものだから自分ではコントロールできなかったりする。クリエイターとしては皮肉を感じざるを得ないですね。『ドリーム・シナリオ』でおもしろいなと思ったのがスウォームインテリジェンスの話が出てきたシーンでした。群知能を指す言葉なんだけど、簡単に言うと、蟻とか鳥はよく集団で活動しているけど、単体が意志決定を行わなくても、集団が個体として行動を創発しているという考えで。これが主人公のポールの研究として登場しているところがなんともこの映画に繋がっているなあと思ったわけです。ポールはたまたま夢に出てくる対象として選ばれたけど、それは蟻とか鳥の集団の行動形態を基にした何かしらのアルゴリズムによるものなんじゃないかっていう。後半にAI社会風刺みたいな描写も出てきましたもんね。
──いろいろと示唆的でしたよね。
小難しいですけどね(笑)。僕もすべてて理解したわけじゃないけど。不思議だったのが、ポールはいろんな人の夢の中に出てくるわけだけど、みんなが同じ夢を見ているわけじゃなくて、それぞれの夢によってポールは違うことをしてるんですよね。ポールが夢に出てこない人もいる。その辺はどういう概念に基づいているのか探ってみたいところではありました。
■アリ・アスター臭がほのかにする映画でもある
──今作にはアリ・アスターが製作で携わっていますが、『シック・オブ・ライフ』を絶賛した流れでタッグを組むことになったとか。
『ボーはおそれている』に比べるとわかりやすいですよね。映画として親切。「名誉挽回」って思いました(笑)。それでもアリ・アスター臭がほのかにする映画でもあるから流石でしたね。
──ボルグリ監督の次回作は『ドリーム・シナリオ』に引き続きA24とアリ・アスター製作の『THE DRAMA(原題)だそうです。
良いですね。相性良いと思います。
──ゼンデイヤとロバート・パティンソンが主演という。
今をときめく、じゃないですか。ニコラス・ケイジさん的な人が僕は好きですけど(笑)。
■夢に不安が投影されることは多いかもしれない
──川上さんは夢は見る方ですか?
見ますよ。夢を見る人ってタイプが2種類あるなと思っていて。その日にあったことがそのまま夢に出てくるタイプの人と、全く関係ない夢を見る人。僕はどちらかというと後者。たまにその日のニュースにまつわる夢を見たりするけど基本関係ない夢が多いかな。何か楽しいことがあって「今日こんな夢見れたらいいな」みたいな夢はほぼ見れない(笑)。経験した良いことがそのまま夢に出てくる人は羨ましいです!
──願望が夢に出てくるパターンもありますよね。
僕の場合、目的の場所まで辿り着かないことが多いです(笑)。欲しいものが手に入りそうなのに入らないとか。飛行機で旅行に行こうとするんだけど、搭乗ゲートになかなかたどり着かなかったりとか。もしかしたら本当はそういう願望が深層心理としてあるのかも。覚えているのが、最初の武道館ライブの一ヶ月前くらいに武道館ライブにめっちゃ遅刻する夢を何度か見ましたね(笑)。起きたら開演時間になっていて顔面蒼白みたいなことになるっていう。そういう絶望的な夢はたまに見ます。
──心配事は結構出てきますよね。
そう。自分が持ってる不安が投影されることは結構多いかもしれない。
──これまで見た一番怖い夢っていうと何ですか?
そうそう! ちょうど一昨日ぐらいに見た夢が本当に怖くて、起きてからしばらくずっと怖かったんだけどさ。
猟奇殺人犯がいる世界に入り込んでしまう夢で。不思議なことにそれは映画の世界なんですよ。自分がその映画に入り込んでいるという不思議な設定なんです。自分は映画の中の殺されるキャラクターということがわかった上で電車に乗っていて。まず向かいの並走している電車でめちゃくちゃえぐい殺人事件が起こっているのを見て、向こうの電車もパニック、こっちの電車もパニックになってみんなで逃げ回ってるっていう。そうしたら俺が乗ってる電車が止まって、駅員から追い出されて、みたいな映画っていうか夢を見ました(笑)。すごくリアルでしたね。そういうニュースも映画も最近見たわけじゃないと思うんだけどなあ。
──それは怖いですね。
怖い映画はしょっちゅう見てるけど。でも『ドリーム・シナリオ』にもそれに近いえぐい描写があったから、インセプションされてたのかもしれない(笑)。
――なるほど(笑)。
『ドリーム・シナリオ』はとにかくおもしろかったので、『インセプション』とかとはまた違った夢の楽しみ方ができると思います。アリ・アスター臭もあればホラー映画臭もあって。あとやっぱりニコラス・ケイジ節が炸裂してます。情けないぐらい笑える。
――良い顔しますよね。
そう。やっぱり不思議な魅力のある役者さんです。
取材・文=小松香里
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