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風間トオルのひょうひょう湘南物語「湘南はどこもいいじゃないですか」

さんたつ

【散歩の達人】風間トオルさん湘南物語_1

中学時代、七里ケ浜に置いていかれた翌朝に、初めて見たサーフィン。愛犬と暮らした鵠沼の家では、“丸見え”だった手作り露天風呂。モデルのほか、ドラマや映画俳優としても活躍する風間トオルさん。明るい「ビンボー魂」から危機一髪体験まで、ひょうひょうと語ります。

GIRINO(ジリーノ)

風間トオル

1962年神奈川県生まれ。19歳からモデル活動を開始。俳優の浅野ゆう子さんに誘われ、ドラマ『ハートに火をつけて!』で俳優デビュー。代表作に主演映画『大誘拐』や『わが愛の譜 滝廉太郎物語』、2011年から出演しているドラマ「科捜研の女」シリーズなど。著書に『ビンボー魂 おばあちゃんが遺してくれた生き抜く力』(中央公論新社)がある。

「海の中に沈んで、海底で藻の状態になるのが一番好き」

——鵠沼にお住まいだったとか?

風間 海に遊びに来たときの拠点で、10年間ほど、家を借りていた時期があります。ゴールデン・レトリバーのロコちゃんを飼い始めたので、海に連れてきたら、はしゃぎようが激しくてね。

これはきっと、海が楽しくて喜んでるんだ! と思い、住まいを鵠沼に移したこともあります。

その家のベランダから見える富士山に落ちる夕日がすごくきれいで、自分で露天風呂を作ったんです。友達から浴槽をもらい、床をフローリングにして、外から見えないよう囲いも作って。最高のロケーションでお風呂を楽しんでいたら、隣のマンションの上から丸見えでした。ワハハ。

——(笑)。サーフィンは中学時代に始められたそうですね。

風間 きっかけは、先輩が海にナンパしに行くと言うので、同級生とついて行ったんですよ。そしたらナンパが成立して、俺たち二人は七里ケ浜に置いていかれて。

夕方だったんで、「せっかくだから野宿して、朝の海を見たいね」って。翌朝はすごい晴天で、日の出も見られて、うわあ〜気持ちいい、置いていかれてよかった〜! って感動しました。そのとき、サーフィンをしてる人がいたんです。やってみたい! と思って、後日、人からボードを借りて湘南に行き、友達と順番で使って、1日で波に乗れるようになりました。

レストラン『GIRINO(ジリーノ)』にて。

——モデル時代にも、よく海へ?

風間 そうなんです。最初は、モデルという仕事自体、知らなくて。表参道のレストランの厨房(ちゅうぼう)で働いていたときに、たまたまサーフ雑誌『Fine』の編集部の方が撮影で来られたんです。撮影用のドリンクを頼まれたので出て行ったら、そこで編集の方にスカウトされて。その人が沖縄出身で、すごく優しいしゃべり方だったんです。その方じゃなかったらやってなかったかもしれない。「撮影後にはサーフィンをしても良いし、ギャラも出ますし、ごはんも出ます」と。これはいいなあと思って。その頃から、撮影で鵠沼によく来ていましたね。

でも、波乗りをするようになったのは、純粋に海が好きだったから。それも海の中に沈んで、海底で藻の状態になるのが一番好きですね。

——藻になる……。

風間 ダイビングで、餌を撒(ま)いて魚を呼ぶことがあるんですが、それが俺は苦手で、離れたところで見ていたんです。そしたら、そのまま沈んでったんですよ。海底に着いて、仰向けになったら、自分の吐く息の泡と魚たちが真上を泳ぐ姿が美しくて、……これが一番いいじゃん! って。海藻の間に入ると、体が整っていく感じがしてね。今も時々、このあたりで素潜りをしますよ。普段着と海水パンツでも全然いけますから。

——ぜひ挑戦してみたいです。

風間 肺に息が残ってると浮いてきちゃうんで、息をゆうーっくり吐き切るようにしながら海底へ行き、横になり停滞、そこで息を止める。もし岩があったらつかまって。最初は浅瀬で練習するのがいいですね。あ、でも溺れてると思われないように、そこは気をつけてください。

危機一髪だらけの人生。知見と念力で乗り切る

——海で、危ない目にあったことはありますか?

風間 サーフィンで沖に流されたことがありますね。その時は千葉の海でしたが、台風が近づいていたせいか、洗濯機に入ってるみたいに、海がぐるぐる渦を巻くんです。洗濯機って最後、底に吸い込まれるでしょ? あの感覚。もがいてもどうにもならない。この先、どうしようかなあと。

とりあえず渦に引き摺(ず)り込まれないよう板を外したら、あっという間に板が底に吸い込まれました。そこからは遠くのテトラポットを見ながら浮かんだり泳いだり。岸に辿(たど)り着いたのは4時間後でしたねえ。

——よくぞご無事で。家にお風呂がなかった幼少時代に洗濯機の中で、ご自身も洗濯(入浴)していたそうですが、その経験が役立ったのか……。当時を振り返るといかがですか?

風間 子供の頃から体を動かすのが好きで、いろんなことを思いついては試してました。でも、貧乏という実感はなかったんです。よその家とは違うけど、不自由とは感じてなかった。母は5歳の時に出て行き、父もその後、いなくなりましたが、祖父母との三人暮らしは、安心感もあったし、自由で心地良くてね。それに、家出をしても誰もたぶん探しに来ない。おいしいものが食べたいと言ってもお金はないから仕方ないなあって。当たる相手がいないから、ひねくれようもなかったです。

——その分、創意工夫をこらし、毎日が自由研究のように。

風間 そうですね。多摩川で食べられる草花を探したり、何時頃、団地のどこに行けば太陽が当たって暖かいとか、すべり台に寝そべって空を見たとき、銭湯の煙突の横に太陽が見えたらそろそろ何時とか、知ってましたね。

——生きぬく知恵と力を感じます。

風間 海以外でも、何回も死にかけてますけど(笑)。印象深いのは、撮影で行った先で、原住民のお父さんから火縄銃を向けられたこと。俺が先頭だったんで、目の前に銃口。言葉も通じないし、両手を上げても、意味がわからないだろうから、動かないことが正解だと思い、じっと彼の目だけを見てました。彼の背後に子供が隠れてて、向こうもこちらを恐れてる。だから、「自分たちは何もしないよ」と心でメッセージを送り続けました。そしたら、スタッフの1人がタタタタって走って逃げたんですよ。動いた!打たれる!と思ったけど、お父さんに目で「大丈夫だから」と伝え続けて。そしたら、ふっと銃を下げてくれたんです。思いが伝わったのかなあ。

——念力ですね。逃げたスタッフの方はそのあとどう……?

風間 気まずいだろうねえ〜。一応、「あれはまずいよ(苦笑)」とは言いましたけど。でも、その次の日も危なかったんですよ。撮影が休みだったので、1人で川に遊びに行ったんです。飛行機でもらったネックピローを浮き輪にして川の流れに身を任せてたら、急に流れが速くなって。岩にしがみついて見たら、すぐ先にすごい滝があってぎりぎりでした。これは自業自得ですね。

「湘南はどこもいいじゃないですか」。

——やっぱりちょっと、ご一緒できそうにないです。いろいろ怖すぎます(笑)。最後に安全な湘南の楽しみ方をご教示ください。

風間 材木座や逗子はウインドサーフィンができるし、湘南の自然の風景が残っていていいなと思うのは、辻堂から平塚、茅ケ崎あたり。海風が吹いた時に蓄積した砂が、そのまま固まったような山があったり、そこに雑草が生えていたり。特に辻堂は砂がきれいで、粒の大きさが違う気がしますね。人の手があまり入ってない砂浜で、潮風を感じながら自前のおにぎりを食べるのが最高ですね。気づくとそういうところにたどり着いてます。でも、どこでもいいかな。海があればどこでも。

——今後やってみたいことは?

風間 抱負とかは、ないんですよね。なるようにしかならないですから。ただ今日、一生懸命にできなければ、明日はないと思ってるので、今を全力で楽しく生きようと。

—— そして、海に来たら全力で藻と一体化を。

風間 ですね(笑)。

二宮『GIRINO』でじっくりお話を伺いました

海を間近に見渡せる完全予約制のレストラン。コースは4000円と5500円の2種類のみ。抜群のロケーションで食事がゆっくり楽しめる。時間などの詳細含めて電話で予約を。

GIRINO(ジリーノ)
住所:神奈川県二宮町山西35-174/定休日:0463-73-8001/アクセス:JR東海道線二宮駅から徒歩10分

取材・文=くればやしよしえ 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2025年7月号より

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