ダ・ヴィンチが名画「最後の晩餐」に残した仕掛け。見るだけで「裏切り者」が分かる理由
「なんだか良かった」だけで終わってしまう美術鑑賞に、物足りなさを感じている方へ。書籍『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』(KADOKAWA)は、「絵画をもっと深く味わってみたい」と思う皆さんにおすすめしたい一冊です。「オフィーリアは何を描いているの?」「モナ・リザの魅力って?」...そんな疑問も、この本を読めば氷解します。東京大学で美術史を学んだ著者が、絵画鑑賞の「コツ」を丁寧に解説。物語や歴史の知識をひも解くことで、名画がより一層、鮮やかに見えてきます。この本を手に、美術鑑賞をさらに有意義な体験に変えてみませんか。
※本記事は井上 響 (著)、 秋山 聰 (監修)による書籍『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』から一部抜粋・編集しました。
テーブルを囲んでの食事と袋を持った男
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《最後の晩餐》
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》 1495-98年、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院、ミラノ(イタリア)
一つのテーブルにいる十三人の男たち。彼らの前には食事が置かれています。だけれども、誰も食事に目を向けることなく、お互いに話したり、中心の人物の方を向いたりしています。
なぜなら「この中に裏切り者がいる」そんな爆弾発言がされた直後だからです。
中央に描かれる人物はイエス・キリスト。キリスト教で救世主とされる人物です。彼には十二人の直弟子がいました。そして彼は、布教活動を弟子と共に行っていました。信仰する人の数も増えてきており、順調に見えたその活動の途中、とある晩、イエスは言います。この中に裏切り者がいると。弟子たちはこの一言を聞くと各々の反応を見せます。動揺する者、自分ではないと主張する者、誰なのか探そうとする者。
私が裏切り者なのでしょうか。弟子たちは自分のことなのかと考え、問いかけたりします。
この絵はそんな爆弾発言の直後を描いた《最後の晩餐》という絵画です。弟子たちが困惑し、恐れているのが拡大すると分かります。
そして、この絵の中に裏切り者が描かれています。その人物がどこにいるか、分かるでしょ
うか? 実は制作者ダ・ヴィンチは分かるようにこの絵を描いています。
裏切り者は、キリストから体を離そうとしている青と緑の衣服を纏った男です。ではなぜ、
彼が裏切り者と分かるのか。それは聖書の記述にヒントがあります。聖書によれば、弟子の一人は、ただ裏切ったわけではありません。イエスと敵対している勢力であるユダヤ人たちに、金で彼はイエスを売ったのです。つまり金銭と引き換えにイエスを裏切ることにしたのでした。
この記述から、裏切り者の弟子は、伝統的に銀貨の入ったと思われる袋と共に描かれること
が多いのです。
そしてこの絵でもまさに、青と緑の衣服を着た男一人だけが、袋を持っているので、彼が裏切り者の弟子ユダだと分かるのです。
マールテン・デ・フォス《最後の晩餐》 制作年不明、国立西洋美術館、東京(日本)
別の絵でもこのルールは成り立ちます。こちらは上野の国立西洋美術館にある絵ですが、誰が裏切り者なのか分かりますでしょうか?
そう、中央手前に描かれた男ですね。
拡大してみると、この男がしっかりと銀貨の入った袋を握りしめていることが分かります。もちろん銀貨の袋の描かれていないユダもいて必ずこの方法で判別できるわけではないのですが、銀貨の袋が描かれていれば、それはユダになります。
さて、こうしてざわめく弟子たちの中、イエスは裏切り者のユダを指して言います。
「しようとしていることを、今すぐするがよい」
そしてユダはその場から出ていくのでした。
その晩、イエスが祈った後、ユダは敵対するユダヤの兵士たちを連れてきてイエスを引き渡すのでした。そして最終的に、イエスは磔にされ亡くなります。
自分の死を、そして弟子の裏切りを語った、弟子たちと最後にとった食事が最後の晩餐と
いう場面なのです。そんな食事の場面を描いたのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後
の晩餐》なのでした。
主題
最後の晩餐
主題を見分けるポイント
机を囲んで13人で食事をしているか、そのうちの一人が銀貨の袋を持っているか、手前に一人だけ描かれている人物=ユダがいるか
鑑賞のポイント
ユダの描き方