トライアスロンが未来の教育になる理由|SCOグループと日本トライアスロン連合が見据える今後
泳ぐ、自転車を漕ぐ、走る。トライアスロンを構成する要素は、「誰もがやったことがあるもの」でありながら、その競技には“過酷”で、“厳しい”イメージを抱く人も多いのではないでしょうか。
Jリーグ・モンテディオ山形など、さまざまなスポーツを支援する株式会社SCOグループ(以下、SCOグループ)は、この度公益社団法人日本トライアスロン連合とのパートナーシップを発表しました。以前から、トライアスロンでパリオリンピックに出場した高橋侑子選手、92歳でトライアスロンの完走記録を持つ稲田弘さんなど、個人のスポンサーをしてきたSCOグループにとって、トライアスロンの魅力とはどのようなものなのか?
代表取締役社長 玉井雄介さん(以下、玉井)に、昨年ホノルルトライアスロン出場の感想を伺うとともに、日本トライアスロン連合 マーケティング・事業局 局長の坂田洋治さん(以下、坂田)も含めてトライアスロンの“魅力”と“未来”についてお話を伺いました。
トライアスロンの魅力とは?“挑戦性”と“多様性”が魅力の競技の裏側
ーー競技として、トライアスロンにはどのような魅力があるのでしょうか?
日本トライアスロン連合 坂田)私たちは“挑戦性”と“多様性”という2つの観点でトライアスロンの魅力を捉えています。
“厳しいスポーツ”と捉えられるトライアスロンですが、完走のためにはスイム、バイク、ランという異なる要素を組み合わせて、それぞれのスキルを最大限に活かす必要があります。厳しいスポーツだからこそ、このスポーツに取り組むすべての人をリスペクトしていて、「No losers, Only winners」=「完走した人はすべて勝者である」というフィロソフィーを大切にしています。自分の限界に挑戦して克服する、それによって得られる成就感と自己成長を感じていただけることが“挑戦性”を持つスポーツとしての魅力ですね。
それだけではなく、現在では小学1年生から92歳の稲田弘さんまで、幅広い競技者層は“生涯スポーツ”として多様な方々に親しんでいただけていることの証であり、この競技の魅力だと考えています。最近では、他人との時間を共有したいという社会的な欲求を満たす手段としてトライアスロンを活用していただくこともあります。
ーートライアスロンは魅力的であると同時に、最初の一歩を踏み出すのには勇気がいるのではないかと感じています。
坂田)トライアスロンに取り組む方は皆、「トライアスロンは素晴らしいスポーツだ」と感じています。だからこそ、知人や友人を誘ってこのスポーツを広めたいという気持ちが皆さんそれぞれにあり、「仲間から誘われて始める」というケースが非常に多いですね。
初めてのホノルルトライアスロンに向けて
ーーSCOグループの玉井社長は、2024年のホノルルトライアスロンに挑戦され、見事完走しました。
SCOグループ 玉井)もちろんトライアスロンという競技のことは知っていましたが、いわゆる“体力お化け”の人たちのスポーツだと思っていました(笑)。友人から誘われて、「2024年のホノルルトライアスロンに出よう」と決意しましたが、その決断には、稲田弘さんの影響も大きいです。当時私は45歳で、91歳での完走したゴールシーンを見たときに、「自分もやれるのでは」と思わされました。むしろやらなければならないと。
ーー大会に出るまでの過程では、不安はありませんでしたか?
玉井)当時の私は25mも泳げなかったので、スイムへの不安はありました。高校時代に体育の授業でフルマラソンを走ったり、自転車も趣味で100キロを完走したことがあるなど、バイクとランには“経験”があったので、逆に「スイムがなんとかなれば大丈夫」と思ってトレーニングに取り組みました。
坂田)玉井さんのように、3種類の中でなにかはできるけど、なにかは不安という方はたくさんいらっしゃいます。さらに、取り組む過程のなかで3種目における課題感も変わってきます。そうした点も続けていく上での魅力になりますよね。
玉井)私はいまランが課題です(笑)。
ホノルルトライアスロン完走後の玉井雄介さん(写真右から2番目)とSCOグループのメンバー
ーーそうして挑んだホノルルトライアスロン、ゴールしたときの率直な感想を教えてください。玉井)ゴールした瞬間、すべてが報われた感覚になりました。レース中は、「なんでこんなこと始めたんだ」と何度も思いましたが、完走したあとは不思議なことに「次はどこのレースにでようか?」という心持ちになっているんです。
いろいろと教えてくれたトライアスロンの先輩から、「レースはご褒美だから!」と言っていただいたことの意味を本当に実感しました。やはりトレーニングは苦しいものです。ですが、このゴールの価値を味わうと、次の目標がないとハリがなくなってしまいますし、特別な感情になります。「No losers, Only winners」という言葉に、本当にこの競技の価値や素晴らしさが含まれていると思いますね。
社員一人ひとりの“生き方”への影響・化学反応
ーーホノルルトライアスロンには、玉井さんだけでなくSCOグループから3名の社員も参加されました。
玉井)代表執行役員の藤本は、私と同じくスイムに不安を抱えながら参加を表明してくれました。準備期間も短い中、朝早くからスイミングチームの練習に参加するなどの努力を重ねて、レースでは見事に完走。そのときに彼が言った、「努力は裏切らないということを久々に感じることができた」という言葉がとても印象に残っています。
さまざまな壁がありながらも努力を積み重ねられたからこその感動があったのだと思います。
ーー企業や組織づくりとして、こうしたトライアスロンが及ぼす影響はありますか?
玉井)組織的な影響というよりも、この厳しい競技に取り組み、完走するということがそれぞれの個人にどのような影響を及ぼすのか?その化学反応はどうなるのか?という点なのかなと思います。
この挑戦も自分一人だったらできなかったでしょうし、一緒に挑む仲間、応援してくれる仲間がいたからこそ完走に導かれたのではないかと思っています。本当にプライスレスな体験で、定性的なものではありますが組織にも何かしらのよい影響になっているのではないでしょうか。
私は、社員一人ひとりが「生き方」をスポーツの応援やそれぞれの挑戦から学ぶことで、それが営業やプレゼンの場面でも情緒的な価値として活きてくると考えています。素晴らしい無形の資産ですよね。
ーー挑戦している人、やり遂げた人はその人の放つなにかが違ってきますよね。
トライアスロンを応援する意味とは?
ーーSCOグループでは、高橋侑子選手や稲田弘さんのスポンサーもされています。
玉井)自身も体験したことからよくわかりましたが、この素晴らしいスポーツへの恩返しという意味合いが強いです。高橋選手はとあるきっかけがあって応援することになりましたが、パリオリンピックにも出場するほどの影響力のある選手であり、今後も長く応援したいと思っています。稲田さんに関しても、ご高齢でのトライアスロンへの挑戦は感動するものであり、それを世界中に届けていくためにも私たちができるサポートをしたいと思って始めました。
高橋侑子選手
ーーこのたびは日本トライアスロン連合とのパートナーシップも発表されました。
玉井)いつかオリンピックディスタンスの世界大会で優勝するような日本人が出てくればいいなという想いがあります。そのためには、お金のある人たちだけが楽しむものではなく、子どもたちのすそ野を広げていく必要がありますよね。
こうした普及の面を考えると、やはり統括団体としっかりと手を組む必要があります。都道府県のトライアスロン各団体とともに全国的にトライアスロンを普及させていきたいです。まだまだトライアスロンには、ジュニアのチームがない都道府県もあるので、そこのムラをなくしながら、トライアスロンの競技人口が増えていくような協力体制を築ければと思っています。
坂田)一般の方々も含め、競技者の多くは東京などの大都市に集中しています。それは普及活動に営む統括競技団体としても課題に思っており、各地域の都道府県でそれぞれ大会やすそ野を広げていく普及事業には重点的に取り組んでいきたいと思っています。
全国に広げていくことで、若い世代の有望選手の発掘にも繋がっていきますし、“次世代を担う子どもに対する教育”という面でも効果を発揮していけるのではないかと思っています。
ーー子どもたちがトライアスロンを体験することには、どのような意義があるのでしょうか?
玉井)子どもたちがこの素晴らしいスポーツを経験することは、大袈裟かもしれませんが“国力が上がる”ことにつながるのではないかと思っています。トライアスロンを経験することでより考え方が変わっていくということは、私の体験から踏まえても効果が高いのではないかと感じています。
そのためには、普及と同時に日本のトップ選手がしっかりと稼いでトライアスロンを生業にできるような構造を作ることが大事です。海外では、eスポーツと絡めたトライアスロンが人気だと聞いています。日本でもインドアでのトライアスロンが開催できるようになれば、スポーツビジネスとしての可能性も広がっていきます。スイムはプールを使いながら、バイクやランはテクノロジーの力を使いながらインドアで行うことで、広告の価値が上がったり、“観るスポーツ”としてトライアスロンを捉えてもらえることにも繋がります。最近では、ゴルフでもインドアの大会に世界のトッププロが出場し、賞金も大規模なもので開催されましたよね。こうした新しい可能性に対しても日本トライアスロン連合さんを応援することで実現に近づいていけばいいですよね。
坂田)先日私たちのスタッフもイギリスで開催されたインドアトライアスロンに視察に行きました。現在、トライアスロンに関わる人のほとんどは“する”人たちです。“観る”という点で関わる人を増やしていくことによって、トップ選手たちが賞金で稼いでいけるようになりますし、日本でも実現したいという想いを強く持っています。
ーー今後の展望について教えてください。
玉井)パートナーになることで、トライアスロンのすそ野を広げていくこともそうですし、私たちにとってプラスになるような取り組みになればと思っています。身近で言うと、トライアスロンを頑張る私の姿を見て、うちの息子が水に顔をつけることを怖がらなくなりました。
こうした“身近から感じる素晴らしさ”というのが、家族だけでなく地域社会にも広がっていくと嬉しいですね。未来の子どもたちに向けて、トライアスロンのすそ野を広げていくことに貢献できればと思っています。
ーーありがとうございました。