Yahoo! JAPAN

日本版デロリスを演じ続ける森公美子が語る、ミュージカル『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』の魅力

SPICE

森公美子 

2024年夏、ブロードウェイ・ミュージカル『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』来日公演が東京と大阪で上演される。

ウーピー・ゴールドバーグ主演で大ヒットしたコメディ映画『天使にラブ・ソングを…』(1992年)を原作に、物語の舞台を1970年代後半のディスコブーム全盛期のフィラデルフィアへと移し、アラン・メンケンの珠玉の音楽で彩った本作。日本版も2014年に初演されて以来、繰り返し上演されている人気作だ。今回の来日公演は実に7年ぶり、3度目の上演となる。

この『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』(以下、『シスター・アクト』)の日本版に主演・デロリス役で出演し続ける森公美子に、本作の魅力を聞いた。森は時々目に涙を浮かべながらも、時代とともに移り変わる魅力と、変わらない魅力の双方を熱く語ってくれた。

ーー森さんは日本版『シスター・アクト』で長年デロリスを演じ続けていらっしゃいますが、日本初演時を振り返ってみていかがですか?

森公美子        撮影:源賀津己

2014年からずっとデロリスを演じさせていただいて「もう10年も経つんだ!」と改めて思いました。初演を作り上げているときはどうなるかわからなかったけれど、稽古をしていく中で「これは化けるな」とみんなが思った瞬間があったんです。

吉原光夫さんが演じていたギャングのカーティスがデロリスを撃とうとするシーンがあるでしょう。リハーサルのときに、銃を向けているカーティスがポロポロ泣いているの! 何泣いてるのよ〜と思って後ろをパッと振り返ると、そこではシスターたちも泣いていて……(思わず涙ぐむ森さん)。ハンカチくださ〜い(泣笑)。そのときに「あ、これは絶対いけるな」と思いました。

私たちにとっては“シスター”があまりにも遠い存在だったので、実際に修道院にも行ってシスターの生活を教えていただくこともありました。劇中、食事のあとにシスターたちが踊るシーンがあるんですけれど、本物のシスターのみなさんからは「エンターテインメントと言われても、シスターはそんなことはしません。机にお尻は乗せません」と大反対されちゃってねえ(笑)。これには演出の山田和也さんも「じゃあそれは諦めます。でも机を回すくらいはさせてください」ということで、楽しくお片付けをするというシーンになったんですよ。

ーーとてもパワフルでハッピーな作品ですが、演じる上での大変さはどんなところにありますか?

私にとっては年齢のこともありますからねえ。劇中のナンバー「サンデイ・モーニング・フィーヴァー」のときなんて、私と春風(ひとみ)さんの二人はハアハア言いながら歌って踊って、最後には「もう無理〜!」って(笑)。脚を上げるラインダンス的なものもあるので、そういったシーンは特に大変ですね。

森公美子        撮影:源賀津己

ーー海外で『シスター・アクト』を観劇された経験もあるそうですが、日本版との違いはどのように感じましたか?

私は昔、ロサンゼルスでアメリカのナショナルツアーを観たんですけれど、さっき話したお片付けのシーンもかなり楽しいシーンとして仕上がっていましたね。とにかくエンターテインメント感が強い『シスター・アクト』でした。後半のオハラ神父がそれはもういやらしく「それじゃあ寄付金の総額を見てみようか〜」って、「この人どうしたの?」というくらい別人になっているのがとっても面白くて、会場も沸いていました(笑)。

物語序盤のシスターたちのコーラスがものすご〜く下手だったのも印象的(笑)。みんな自由に好きな音で歌っているから曲になっていないんです。日本版もそれを引き継いでいるんですよ。でも、今回の来日公演のコーラスはかなりお上手に感じましたね。資料映像を拝見したのですが、以前より洗練されたシスターになっているのかもしれません。

ーー今回上演される来日版の資料映像をご覧になってみて、どんな印象を受けましたか?

『シスター・アクト』はデロリスとシスターたちの人種的な側面も扱うお話なんですけれど、それが時代と共に変わってきているように感じました。今回のシスター・メアリー・ロバート役は本国の方ではないですし、本当にいろんな国の方が出演しているんです。

日本版では、人種的差別を乗り越えた人と人との繋がりということが伝わるように、再々演あたりまでデロリスの見た目も今とは違っていましたし、人間の肌の色や人種という大きな括りの問題ではなく、もっと個人的なところがクローズアップされているんだなと。例えば、デロリスの無知からくる発言や振る舞い、お行儀の悪さなどが特出して見えてくるようになってきているのだと思います。

そういう意味で今回の『シスター・アクト』は今の時代に寄り添った作り方をしていて、お芝居も変わってきているんだなあって。最近は日本版でも、デロリスが抱えている問題は肌の色ではなく、もっと彼女の根幹にあるんだと掲示されたような気がしましたね。

森公美子        撮影:源賀津己

ーー今回の来日公演は新演出かつセットも豪華になっている点が見どころだそうですね。

そう、ステージのセットが豪華で素晴らしいんです! 警察署、ギャングたちの部屋、エディの部屋まで立派になっていたのでびっくりしました。修道院長が「デロリスだけは許せない!」と歌う院長室もブラッシュアップされていて、きっと大きい劇場用に作られたセットなんでしょうね。今回の来日版が上演されるのは東急シアターオーブとオリックス劇場、どちらも大きいでしょう? それでも「あの大きな修道院の柱をどうやって出すんだろう」と思うほど。日本版は小さい劇場でも上演できるセットになっているので、そこは大きな違いですね。

あとシスターたちがよく踊るんですよ。シスター・メアリー・パトリック役に私のような人も出ていたので「いつでも代われるわ」と思っていたら(笑)、すごくパワフルに踊られていて! そして衣裳チェンジも多い印象です。私が長年「いつかできたらいいなあ」と思っていたことが実現していたので、これは日本版スタッフにも改めて言いたいですね。どのことを言っているのかは、今回の来日公演を観てのお楽しみに!

日本版は独自のオリジナル演出で作っているので、来日公演はある意味本物の『シスター・アクト』に触れる機会になると思うんです。ですから海外で作られたバージョンを観た上で、いつかまた上演されるかもしれない日本版にも触れていただけたら嬉しいですね。

ーー最後に改めて、森さんが思う『シスター・アクト』の素晴らしさを教えてください。

作品の中でデロリスは成長して人生観がものすごく変わるのですが、彼女だけでなく周りにいる修道院長やシスターもどんどん変わっていくんですね。シスターたちにとっては神様のためだけに歌っていた賛美歌が、デロリスとの出会いを通してもっと多くの人々のために歌えるようになっていく。そんな風にシスターたちの世界が広がっていくんです。

この物語には“チェンジしていく”ということが根幹にあります。誰しもが今までの自分から何か脱ぎ捨てるものがあって、それはエディやオハラ神父にも言えること。残念ながらギャングたちだけはそういうことに関わっていないんですけれども(笑)、みんなが何かしらステップアップしていく姿が描かれています。人の心の成長が感じられるストーリーになっているんですね。この作品には「神様って本当にいるのかもしれないな」という気持ちにさせてくれる、不思議な力があるんですよ。

森公美子        撮影:源賀津己

取材・文 = 松村蘭(らんねえ)

【関連記事】

おすすめの記事