【ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い】『指輪物語 追補編』のエピソードから生まれたオリジナルストーリーのアニメ映画
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメ映画『ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
神山監督ならではの手腕が発揮された作品
『ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い』は実写映画『ロード・オブ・ザ・リング』のスピンオフ的な作品です。ワーナーの本社アメリカが全世界で配給するのですが、監督は『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズなどでおなじみの神山健治監督。世界公開の作品を日本のアニメ監督が作るというのはそうないことなので、非常に画期的といえます。
全世界で公開するということもあり神山監督は公開前に、ワールドプレミアやコミコンでのプロモーションなどで、世界各地を回っていました。
そんな大きなプロジェクトですが、そもそものワーナーからの発注が、いわゆるANIME、日本風のアニメーションのスタイルでやってほしいというものだったそうです。
ただスケジュールがそこまで潤沢にあるわけではなく。さらに、馬も甲冑も出てくるので手描きでやるのは相当にハードルが高い内容です。しかも今、日本のアニメ業界は慢性的人手不足で、アニメーターさんを集めるのが大変なんです。
どうやったら短期間でこんな複雑なアニメを作ることができるのか、神山監督が考えたのは、最低限のクオリティを担保するためにレイアウトと第1原画といわれる最初の作画の工程を3DCGにすることでした。
このCGをガイドにし、そこからアニメーターさんが膨らませて手で描く。そうすれば、クオリティの担保にもなるし、描くのが難しい題材についてもかなり助けになる。
例えば鎧に入った細かなマークなども一から手で描くと大変ですが、CGでガイドが入っていればそれを参考に描けばいいから、手順としては軽減さます。馬の動きも描ける人は限られていますが、CGである程度の動きを作ってあればできる。なのでエンドテロップには3DCGのスタッフがたくさん出てきます。
もちろん一方で、キャラクターの柔らかい表情や、ちょっとした雰囲気という部分に手描きの良さはすごく出ています。神山監督が過去の作品で3DCGも手描きも経験しているからこそ、可能になった制作方法だと思います。
原作を膨らませたオリジナルストーリー
『ロード・オブ・ザ・リング』の原作小説『指輪物語』には原作のストーリーとは別の『追補編』というものがあります。
原作者のトールキンが、自分の創造した『指輪物語』の世界について、本編では深く触れなかった歴史や設定などをまとめた資料集です。その作中で、昔ローハンにヘルムという王様がいて、その娘が無理やり辺境の領主の息子と結婚させられるようになる。それが原因で関係がこじれ戦いが起き、ヘルム王もその過程で死んだという歴史が書かれています。
このヘルム王の娘をヘラと名づけ主人公にし、彼女が自分の国や国民を守るために戦う姿を描いたのが今回の作品です。『ロード・オブ・ザ・リング』の脚本なども手掛けたフィリッパ・ボウエンさんを中心とした海外の脚本家と神山監督が組んで、物語を作り上げました。『追補編』に記された10ページほどのエピソードから生み出したオリジナルストーリーということです。
例えばウルフという辺境の領主の息子とキャラクターと主人公のヘラの間に因縁があったというのにも神山監督が出したアイデアが採用されています。
日本人の監督が、ちゃんと自らのクリエイティビティを発揮して、世界配給の映画を監督する。これもまた日本のアニメが世界に出ていくプロセスのひとつだと捉えることができるかなと思いました。ぜひ見ていただければと思います。