Anly x Style KYOTO管弦楽団による「Style 京to琉」が魅せた、美しくドラマティックなグルーヴ『第2回定期演奏会』コンサートレポート
6月29日(土)、京都・京都劇場にてAnly x Style KYOTO管弦楽団によるオーケストラ・バンド「Style 京to琉」による『第2回定期演奏会』が行われた。昨年4月末の初ライブから約1年が経ち、再び京都の地に集結したAnlyと30名超のオーケストラメンバー。SPICEでは、今年の4月にAnlyと全演奏曲のアレンジを手がけるアレンジャー・湖東ひとみに、ライブに向けた進捗と意気込みをインタビューした。その時ふたりが話していたように、ますますバンドらしく団結力が増した演奏で、よりエネルギッシュな幅広い音楽で魅了した、素晴らしい公演となった。そんな『第2回定期演奏会』の模様をレポートしよう。
『「Style 京to琉」第2回定期演奏会』2024.6.29(SAT)京都・京都劇場
まもなく本格的な夏がやって来ようという6月の最終土曜日。開場時間の少し前、京都駅の人混みをすり抜けて京都劇場に向かうと、会場入口には既に入場待ちの列ができていた。
ステージには今回も、アーティスト・Keeenueが描き下ろしたキービジュアルのバックドロップが吊るされ、AnlyがセレクトしたBGMとしてアメリカのロックバンド・The Band CAMINOの音楽が流れている。初演の京都公演を終えた半年後、初の東京公演も行われたが、京都での公演は2回目とあって、会場内には昨年よりもリラックスした雰囲気が漂っていた。
定刻になり、オーケストラメンバーがステージに上がる。コンサートマスターの西江辰郎が登場して音を出すと、空気が引き締まる。やがて指揮者でマエストロの米田覚士と、黒い衣装に身を包んだAnlyもスタンバイし、いよいよライブが幕を開けた。
1曲目は、昨年AnlyがStyle 京to琉のために書き下ろした「音燦鱗型 -Dress Code-」。静寂の中、響き渡るオーボエの音色。そこに重なるフルートとピアノ。まるで横笛のように聴こえるフルートの音が和の雰囲気を感じさせる。じわじわ高まるアンサンブルを操る米田の指揮は羽のように軽く、しかしながらダイナミック。Anlyはのびのびと歌声を解き放つ。2番はパーカッションのビートが演奏を支え、バンド的なアプローチを感じさせて新鮮だった。
早くも琴線に触れる演奏で感動を生むと、カホンの音が鳴り響いて「COFFEE」へ。Anlyは「Style 京to琉でーす! みなさん来てくれてありがとう!」と笑顔で挨拶し、「Clap your hands!」とクラップを促す。すると奏者以外のオーケストラメンバーも一緒にクラップ! クールでグルーヴィな音の波に身体が揺れる。楽曲後半にAnlyが響かせた素晴らしいロングトーンには大喝采が贈られた。
そして前回もアレンジがカッコ良いと評判だった「KAKKOII」。前回はバイオリンがイントロを担ったが、今回は木琴が担当。丸い音の粒が、軽やかに空間を跳ねていく。この曲最大の見せ場は、オーケストラメンバーによる足踏み&クラップだ。通常のオーケストラでは観られない迫力の演出に、客席も歓喜してクラップで応える。サックスやホーン隊、ピアノによるジャジーで渋いアレンジは最高にカッコ良く、余裕を感じるAnlyの歌い方も最高だった。
MCでAnlyは「2回目を開催できて本当に嬉しいです」と感謝を述べ、「Style 京to琉のライブに初めて来た人ー?」と客席に尋ねる。すると大勢の手が上がり、嬉しそうに「初めてなのにあんなたくさん手拍子してくれてたんですか? すごい!」と笑顔を浮かべる。「京都と沖縄にルーツとソウルを持つ人たちが集まって、音楽を奏でていこう。ここを拠点に色んな場所に行けたらいいね、という想いで結成したバンドです。末長くよろしくお願いします」とStyle 京to琉を紹介し、マエストロの米田に会話を振る。
昨年9月に行われた初の東京公演以来、Style 京to琉には2度目の参加となる米田は、Anlyと同い歳。京都でのライブは初めてだそうで、京都の老舗中華そば専門店・新福菜館で食事をしたり地下鉄に乗ったことを明かして場を和ませた。
本編に戻り、ここからはドライブソングである「Moonlight」「4:00am」「Round&Round」を連続で披露。昨年9月の東京公演で初披露された「Round&Round」は、オーケストラメンバーがクラップをパートごとに輪唱のように繰り出すという演出が組み込まれており、まさにステージをドライブするようにエネルギーが駆け巡っていく様子には舌を巻いた。美しくドラマティックなグルーヴで会場を包み込んだ後は、お待ちかねの新曲「夢幻泡影 -Linne Drive-」へ。
この曲もドライブデートをイメージしたという楽曲で、「夢幻泡影(むげんほうよう)」は仏教用語で「この世はとても儚いね」という意味だが、「Linne Drive」はAnlyの造語で「輪廻転生をドライブしていく」という意味だと説明する。Anlyはシンパシーを感じた人との間に前世を思い浮かべる時があるとして、「世の中はとても儚いけど、人生という旅の中で、ひとつひとつの出会いがこんなに深く結びついているように感じられるって素敵だよね。来世も同じ星に生まれて出会えると良いなという曲です」と楽曲への想いを述べた。どこか切なさを感じるメロディーラインを、訴えかけるように力強く歌い上げるAnly。管楽器と弦楽器のアンサンブルから、ダイナミズムを伴って大きくなるスケールに、客席も心地良く飲み込まれていった。
MCではオーケストラメンバーを指名してのトークタイムも。恒例(?)となったコンサートマスターへの「好きな食べ物は何ですか?」という質問に西江は「ミニトマト」と回答。「ふっくん」ことバイオリンの福岡晃大は、親しみやすいキャラをAnlyから見抜かれる。4〜5月に行われたAnlyの全国ツアー『”いめんしょり" -Imensholy Tour 2024-』の京都公演をプライベートで観に行ったというフルートの和久井穂波は、「音燦鱗型 -Dress Code-」イントロの横笛のような音色についての裏話も明かしてくれた。
ここで、音楽の幅を広げるという意味での初の試みも。Anlyが高校生の時に歌っていたというイタリア歌曲から『歌劇ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」を、ピアノ・高倉圭吾の伴奏で披露した。聴こえてきたのは普段のAnlyとは全く違う、オペラのような歌声。天に昇るような高音は、あまりに美しく優しく、心が洗われるようで、客席は驚きとともに圧倒されて釘付けに。歌い終わると言わずもがな、ものすごい大拍手と大歓声が巻き起こった。その余韻を引き継いだまま演奏された「月下美人 -Queen of the Night-」は美しさを増大させて、それぞれの胸に素晴らしい情景を映してくれた。
「Angel voice」は、Style 京to琉のルーツである京都のわらべ歌2曲と沖縄の民謡が織り込まれた楽曲。オーケストラの壮大な音の塊にAnlyの澄んだ歌声が重なり、慈愛に満ちた素晴らしい演奏にぐっと心が締め付けられる。ここにきて、よりAnlyの歌に磨きがかかっているようにも思われた。
「今伝えたいメッセージが詰まった曲」という言葉が添えられた「CRAZY WORLD」はダイナミックでパワフル。<狂ってるこの世界に僕は飲み込まれない>というパンチラインや早口ボーカルが、オーケストラの波に乗って力強く届いてくる。芸術性の高い「Tranquility」を経て、2度目のオーケストラメンバーとのMCでは、今回初参加となる、コントラバスの石川徹とバイオリンの萩原合歓(ねむ)、パーカッションの鰐渕陽介に楽器歴などを聞き、「これからもよろしくお願いします!」と絆を深める。
さらに、もう1曲の新曲「無無無無 -Nonsense Club-」を披露。「コロナ禍あたりから価値観のすり合わせが起きている気がしません? 正義と思っていたけど人を傷つけていた……みたいな。人のことを理解したり、マイノリティを考えることはとても大事だけど、色々考えてたら頭が爆発しそうだなと。二言で言うと「だるっ」と思ったんですよ(笑)。まともな人間でいなくていい時間があってもいいんじゃないかと思って、何もかも忘れて4分だけバカでもよくない?という曲を作りました」と明るく曲紹介。SNSでも「Style 京to琉のパーティーソング」と表現していたように、軽快なイントロがクラップを導き、パワフルでキュートなサウンドに客席は身体を揺らす。Anlyは<踊ってみせて>でくるんと回転し、自由に動いてステージ後方に絡みにいったり、ステージの縁に腰かけたりと、この時間をエンジョイ。クラップとAnlyの歌声のみになったパートは、彼女の魂が響いてくるようで印象的だった。
グルーヴィな「We'll Never Die」を経て、今回初披露の「好きにしなよ」へ。肯定してくれる歌詞の包容力と、身体の奥底から揺るがされるアイリッシュ音楽の美しくてパワフルな旋律が心地良い。客席と練習したコール&レスポンスもバッチリ決まり、最高の一体感が会場をひとつにした。
いよいよ本編最後の曲。「沖縄では6月23日は慰霊の日といって、戦争で亡くなった人を弔う日なんですね。来年は戦後80年。1人ひとりが色々考えないといけないなと思いつつ、亡くなった人のことを思うとこの歌が浮かんできて。今日こうやって、音楽を聴いたり奏でたり、指揮を振ったりできるのは、おじいちゃんおばあちゃんたちが生き抜いてきてくれたから」と語り、「星瞬~StarWink~」で壮大に締め括った。昨年もこの曲が本編の最後に奏でられたが、今回は前回の幸福感とはまた違った印象で、鎮魂歌として会場を満たしていったのだった。
盛大な拍手からアンコールを求めるクラップに変化すると、カムバックしたAnlyは今回初めて作ったStyle 京to琉のグッズを紹介。リサイクル資源を使ったり、日本文化へのこだわりが光るアイテムばかりだった。そして「みなさんもっとお土産持って帰りたい?」と、撮影OKにして「カラノココロ」を投下。惜しまれる中でラストを飾ったのは「Welcome to my island」。リラックスした雰囲気で客席とコミュニケーションを取りながらクラップで盛り上げる。<タクトを握りしめて>では、米田と交代して指揮台に上がったAnlyが指揮をする演出も。Anlyを見つめるオーケストラメンバーの表情からは、深い信頼と愛情が感じられた。
カーテンコールではオーディエンスもオーケストラメンバーも総立ちになり、ステージを去ったAnlyと米田を呼び戻す。終演のアナウンスが流れても鳴り止まない客席からの歓声と拍手が、この日のライブが大成功だったことを示していた。
終演後、会場のロビーで行われた打ち上げでオーケストラメンバーに感想を聞いてみると、話を聞いた全員が口を揃えて「Anlyさん大好き!」と言っていた。みんなが「1回共演すると大好きになる」「愛がある」「第1回目からみんなの気合いを上げてくださった」「人の心を動かす人」「ここまでメンバー1人に対して気を配ってくれるのは経験がない」と言うのは、やはりAnlyの人柄に他ならない。メンバー全員の顔と名前を覚え、1人ずつ手書きでメッセージを贈っていたAnly。その気持ちに感動したヴィオラの後藤彩子とバイオリンの三輪めぐみの発案で、メンバーからAnlyにメッセージを書いた付箋をハート型に窓に貼ったサプライズも。
湖東のアレンジについても「素晴らしくて、オケも映えるから弾き甲斐があった」「楽曲タイトルの要素がアレンジに入っているし、弾いてて楽しい。ワクワクする」「各楽器にスポットを当てて、それぞれが引き立つ良い音域で書いてくださる。愛を持って書いてくださるのがわかる」「ソロ聴いて! と言いたくなる」と前のめりに話してくれ、湖東の深い愛情が楽譜を通してメンバーに伝わっていることがよくわかった。
Style 京to琉をキッカケにAnlyと楽曲のファンになったメンバーも多く、フルートの和久井のほかにも、全国ツアーに足を運んでいた人が続出。今回の演奏やStyle 京to琉については「みんなAnlyさんの曲を好きになって、1人ひとりの身体に曲が入っているから、誰かが頑張ろうとしなくても自然に音が生まれる」「去年を経て、今年は熟成感がある。Style 京to琉は同じ価値観を共有できる場所。みんな、Style 京to琉が好きだから集まってる感じがある」「みんながパワーアップして年に1回帰ってくるような感覚は、世代を超えて感じる」など、それぞれにとってのStyle 京to琉が特別な場所になっていると、充実した表情で話してくれた。そしてマエストロの米田は「みんなが一瞬でAnlyさんに惹かれて、Anlyさんのカラーに染まる。今日は前回に増して独特の魅力を感じた」と話してくれた。
公演を重ね、Style 京to琉の土台が築かれると同時に、こんなにも愛されるオーケストラ・バンドに成長していることが本当に素敵だ。オーケストラメンバーも心待ちにする次回公演、開催は未定ではあるが、次なるアナウンスが楽しみでならない。
取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ