中谷潤人の敵は井上尚弥だけ?「夢の対決」実現へ思い出される国内外の過去の名勝負
ダウン経験もない無敗のクエジャルに3回KO勝ち
プロボクシングのWBCバンタム王者・中谷潤人(27=M・T)が24日に東京・有明アリーナで行われた同級6位ダビド・クエジャル(23=メキシコ)との防衛戦で3回3分4秒KO勝ちした。
クエジャルは、中谷が初めて迎えた自分より長身(174センチ)のボクサーファイター。試合前まで28戦全勝(18KO)のパーフェクトレコードを誇る強豪で、老舗ボクシングサイト「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンド9位にランクされる中谷も簡単に勝てる相手ではないと思われた。
しかし、蓋を開ければ約9分で仕事を完了。左フックを浴びて右耳の鼓膜が破れていたというから、やはり簡単な相手ではなかったが、結果的には簡単に勝ってしまった。ダウン経験すらなかった新鋭に初黒星をつけたことには大きな価値がある。
これでデビュー以来無傷の30連勝(23KO)。試合後はリングに上がったIBF同級王者・西田凌佑(28=六島)に「やりましょう」と対戦を呼びかけた。
IBFはルール順守に厳格で、期間内に指名試合を行わなければベルトを剥奪することもある。西田は同級3位ホセ・サラス・レイエス(メキシコ)との指名試合を行うよう指令されているため、次戦で中谷との統一戦が実現するか流動的ではあるが、両者が対戦に前向きな現状を考えると実現へのハードルは高くないだろう。
とはいえ、バンタム級で頭一つ抜けている中谷には、もはや敵がいないと言ってもいい。西田に負けるとは思えず、WBC1位のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)もスーパーフライ級時代は強かったが、すでに34歳とピークを過ぎている。2位の井上拓真(大橋)、3位の那須川天心(帝拳)も中谷を上回る強調材料はない。
中谷を負かすとすれば、来年にも対戦が噂される4団体統一スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)以外に見当たらず、スーパーファイト実現を待つしかなさそうだ。
薬師寺保栄vs辰吉丈一郎は視聴率52.2%
長いボクシングの歴史上でも、日本人同士の大一番はそう多くない。古くは、1970年に激突したWBAジュニアライト級王者・小林弘とWBAフェザー級王者・西城正三の現役世界王者対決があった。タイトルはかけずに10回戦のリングに上がり、小林が判定勝ち。ベルトの移動はなくても、お互いのプライドがぶつかり合った夢の対決だった。
1994年にはWBCバンタム級王者・薬師寺保栄と同級暫定王者・辰吉丈一郎が激突した。放映権を持つテレビ局が違う系列だったこともあり交渉がまとまらず、興行権は入札の末に薬師寺陣営が落札。名古屋で行われた「世紀の一戦」は薬師寺が判定勝ちした。
両者ともファイトマネーは1億7000万円と報じられ、テレビ中継の視聴率は東海地区が52.2%、関西地区が43.8%と驚異的な数字をマーク。当時の辰吉はカリスマ的人気を誇っており、日本中がテレビにかじり付いた一戦だった。
2000年にはWBAライト級王者・畑山隆則が「平成のKOキング」坂本博之と対戦。2階級制覇のスピードスター・畑山と日本屈指のハードパンチャー・坂本の息詰まる攻防は、畑山の10回TKO勝ちで決着がついた。
シュガー・レイ・レナードと酷似する?井上尚弥の今後
海外ではライバル同士の夢の対決が何度もあったが、状況が似ているのは1981年9月に対戦したシュガー・レイ・レナードとトーマス・ハーンズの世界ウェルター級王座統一戦。WBC王者レナードは3カ月前に1階級上のWBCスーパーウェルター級王者アユブ・カルレを倒して2階級制覇を達成し、再びウェルター級に戻してWBA王者ハーンズとの統一戦に臨んだ。
井上は年内にWBAフェザー級王者ニック・ボールへの挑戦が噂されており、仮に5階級制覇を達成してからスーパーバンタム級に戻して中谷と戦うことになれば、レナードの足跡と符合する。
しかも身長178センチのレナードに対し、185センチと長身のハーンズという構図は、165センチの井上と173センチの中谷という構図に似ている。世界中が注目するスーパーファイトという点でも同じだ。
1981年の統一戦は、ハーンズのフリッカージャブを浴び続けたレナードが左目を腫らしながらも14回TKO勝ち。当時32戦全勝(30KO)だったWBA王者に初黒星をつけた。
井上尚弥vs中谷潤人は、そんな過去の名勝負も思い起こさせるビッグマッチ。両者が今後も勝ち進み、是が非でも実現してほしい。
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記事:SPAIA編集部