魅力的な新潟の日常風景を伝える「週刊潟色」のパステル画。
読者のなかには新潟で暮らしている人も多いと思います。皆さんは新潟についてどんなふうに思っているでしょうか? 「何もない」「魅力に乏しい」「不便」という声を聞くことも多いですよね。そんな新潟の魅力を伝えるために、新潟の風景を描いて発信している「週刊潟色(しゅうかんがたしょく)」という作家がいます。JR新潟駅前のギャラリーで開催されていた個展にお邪魔して、「週刊潟色」として活動する石川さんから新潟への思いを聞いてきました。
週刊潟色
石川 岳斗 Gakuto Ishikawa
1999年新潟市西蒲区生まれ。長岡工業高等専門学校卒業後、神奈川県の鉄道会社で整備士として勤務。2020年頃から「週刊潟色」としての活動をはじめる。趣味は幼少の頃から続けているスキー。
離れてみて気がついた新潟の魅力。
——あっ、これはもしかして新潟縣護国神社前の坂を描いた作品では?
石川さん:そうです。よくわかりましたね(笑)
——なんとなく見覚えのあるような風景ばかりですね。
石川さん:新潟の日常的な風景を描いたパステル画なんです。
——どうりで。石川さんは新潟で活動しているんですか?
石川さん:新潟市西蒲区で生まれ育ったんですけど、現在は神奈川県の鉄道会社で整備士として働きながら暮らしています。
——へぇ〜、鉄道には昔から興味があったんですか?
石川さん:小学低学年の頃からものづくりが好きで、ブロックやペーパークラフトで電車を作って遊んでいました。ペーパークラフトは展開図を作るところから自作していたんです(笑)
——市販品を組み立てるだけでは満足できなかったんですね(笑)。絵もその頃から描いていたんでしょうか?
石川さん:絵はもっと前からです。保育園の頃から暇さえあれば、チラシの裏に電車や昆虫の絵を描いていました。
——そうだったんですね。どうして「週刊潟色」の活動をはじめたんですか?
石川さん:都会暮らしに憧れていたものの、いざ都会で暮らしてみたら新潟の魅力に気がついたんです。「今までいい所に住んでいたんだな」と改めて思いましたね。
——新潟のどんな所が魅力的だと感じたんでしょう?
石川さん:人間と自然の関係がちょうどいいバランスに思えました。便利過ぎず不便過ぎずというか……。新潟に住んでいる人のなかには、もっと発展してほしいと思っている人も多いのかもしれませんが、建物があふれたり交通網が発達することだけが発展ではないような気がします。
——新潟から離れて暮らすことで、そう感じるようになったわけですね。
石川さん:そうなんです。その素晴らしい魅力を表現したいという気持ちが高まって、自分の生まれ育ったなかで見てきた風景を描きはじめました。あふれ出した強い思いを絵にぶつけたという感じですね(笑)
——そのうちSNSで公開するようになったんですね。
石川さん:県外の人が「新潟は何にもない所だ」「新潟のどこがいいのかわからない」というのを度々耳にしていたので、そうした人に向けて新潟の魅力を発信したいと思うようになったんです。新潟で暮らしている人にも魅力を再認識してほしいという気持ちがありました。ただ作品を投稿するだけじゃなくて、描いた場所で感じた匂いや音、感情などをコメントするようにしていたんですよ。
——SNSで作品を公開してみて、反響はですでした?
石川さん:「いいね」で評価していただいたり、コメントをいただいたりして、思っていた以上に反響があったんです。そこでより多くの人に新潟の魅力を知ってもらえるよう、関東や新潟のギャラリーで作品を発表するようになりました。オーダーもいただけるようになったので、オンラインで作品の販売もおこなうようになったんです。
新潟の魅力を伝えるために描くパステル画。
——新潟を象徴するようなランドマークや有名な観光スポットではなく、その辺の風景を切り取ったような作品ですよね。モチーフの風景はどのように選んでいるんですか?
石川さん:歩いてみると「ここ、いいな」と思う場所に出会うんです。そんな直感で選んでいるんですけど、新潟らしい日常風景を描いていることが多いんですよね。
——だから見覚えがあるような風景ばかりなんですね。写真ではなくて絵にこだわるのはどうしてなんでしょうか?
石川さん:描いていて楽しいというのはもちろんあるんですけど、写真よりも雰囲気を表現できるんじゃないかと思っています。
——なるほど。画材にはパステルを使っているんですね。
石川さん:最初は色鉛筆で描いていたんですけど、風景画の参考にもらったパステル画の作品集を見て、パステルに興味を持ったので試しに使ってみたんですよ。そしたら自分が表現したいと思っている新潟の色や光の表現に最適だったので、それ以来パステルで描くようになりました。
——確かに水や光、空のグラデーションがよく表現されていますよね。パステル画は独学なんですか?
石川さん:そうなんです。誰かに教わったわけではないからこそ、オリジナリティのある自分の色を出せているんじゃないかと思っています。
——なるほど。描くときに心掛けていることはあるんでしょうか?
石川さん:「もっと派手な色を使ってインパクトを出そう」とか「もっと綺麗な色にして映えを狙おう」とか考えて盛るようなことはせず、その場の雰囲気をそのまま正直に表現するようにしています。
——例えばどういうものを表現しようとしているんですか?
石川さん:水や土、夕餉の支度などの匂い、鳥のさえずりや虫の声などの音、そうしたものを含めた空気感です。人の姿が描かれていなくても、人が暮らしている生活感のある風景を表現できたらと思っています。
——では、今後どのように活動していこうと思っていますか?
石川さん:自分なりに作品のクオリティを高めていきたいのはもちろんですけど、パステル画だけではなく新潟の魅力を伝えていけるような人になりたいですね。
——ありがとうございました。最後に新潟で暮らす人に向けてメッセージをお願いします。
石川さん:なんでもないと思って眺めている新潟の風景が、実は特別な風景であることに気づいてほしいですね。便利に新しくなっていくだけが発展や進歩じゃないと思うので、今ある素晴らしいものを大切にしていくことを忘れないでほしいです。
週刊潟色