“GPIFに依存する構造”で年金のギャンブル化が加速する可能性
12月3日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、GPIFの利回りを増やすシミュレーションについて意見を交わした。
厚労省は「GPIFの利回り0.2%上げる」なんて言ってない!
厚生労働省は12月2日、2025年度から2029年度まで5年間の公的年金運用目標(実質的な運用利回り)を、現行の1.7%から1.9%に引き上げる方針を示した。賃金や物価の継続的な伸びが想定される中、これまでで最も高い目標とした。
年度内に正式決定し、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に指示。GPIFはこれを目安に、運用のポートフォリオ(資産構成)などを決める。
(寺島アナ)「好調な運用成績を反映したということですが、“資産の利回り目標を現在よりも0.2ポイント引き上げる”というこの方針。田中さん、これはどうご覧になりますか?」
(田中氏)「これは元々のニュースソースを見ないといけないと思います。厚労省の社会保障審議会の資産運用部会が出してきたペーパーで、過去の運用実績を今後も続けていったらどのくらいの資産の運用実績を残せるかの“バックテスト”というものをやったんですよ。その中で仮に0.2ポイント引き上げた方が年金財政にとってプラスになると問題提起しただけなんです。それを見て株式市場が過大評価して“日本株の運用ウェイトを増やすんじゃないか?”という憶測で昨日株価が上がったりもしたんですよ。それでこのニュースが大きくクローズアップされたんですが厚労省の担当者は驚くでしょうね。あくまで過去の実績をベースにして、しかも日本株の比率を増やすなんてことは全然前提にしてないんですよ。資産の結果を言っただけで思惑が先行して株価が上がって、このニュースが大きくクローズアップされただけなんですよ」
年金積立金の運用について、現在を見ると国内債券・外国債券・国内株式・外国株式、それぞれ25%ずつとなっている。
かつては国内債券を中心とした資産構成だったが、株式・外国資産の比率を高めていて、近年の株高・円安が運用の追い風となってきた。
GPIFの運用は近年、好調に推移してきた。運用利回りの目標が引き上げられればポートフォリオ(資産構成)の構成比率が変更される可能性もある。
(寺島アナ)「GPIFが株式への投資の配分を増やすかもしれない、ということですが、逆に言えば当然リスクも出てくるということですよね?」
(田中氏)「説明があった通り、構成比率が25%ずつなんですよ。その国内株式投資の比率を25%からより多く増やすんじゃないか?というニュース記事の解説でしたよね?でも厚労省の年金運用部会は全く言ってないんですよ。完全にニュースを深読みしすぎちゃった人たちが投機的な動きに勝手に結び付けちゃっているんです。だから運用比率は25%で変わりませんけど、利回りを高く目指しますから。そういったことがどこまで可能なのか?たとえば昨年度は実質的な運用利回りが巨額なものが出てるんですが、でもその前の年はマイナスなんです。この20年くらいを均せば運用利回りはかなり好調なんですけど、年によっては色んな要因でマイナスになったりプラスになったりしているので、それはその時々の運用次第ですね」
田中氏は、運用割合を増やしたとしても良いことだけではないと指摘。
(田中氏)「仮に日本株の運用割合を25%から増やすとすると、株式市場に与える影響はプラスとマイナスの要因が両方出てきます。バランスよく運用しないといけないので、日本株が上がったから万々歳じゃなくて、上がると下がったものを買い増して、上がったものを売るんです。そうすると日本株全体が上がり基調のとき、逆にGPIFは日本株を売却しますから、それによって日本株は上値を押さえつけられちゃいますよね。実際に去年の春くらいに、それで国内株式がかなり上昇したんですけど国内株が売られたんですよ。それによって日経平均が大体1100円くらい上値を押さえつけられちゃって下落した試算も出ているんです」
田中氏は、なぜ“GPIFが日本株の運用割合を増やす”というシミュレーションをやったのか、その背景を考える。
(田中氏)「このニュースの最大の肝、なんで運用の割合0.2ポイント増やすシミュレーションをしたかというと、“年金財政の失敗をいかにGPIFの運用益で補うか”という話なんです。年金財政の運用は失敗しているんですよ。その根源はマクロ経済スライドを20年間まったくやらなかったことです。これから少子高齢化で現役世代が少なくなるなかで、今の引退世代の年金を支えないといけないわけです。その負担をなるべく少なくするために経済の成長に合わせて徐々に年金の保険料を減額し、さらに年金給付も20年間かけてゆるやかに減らしていく。それを小泉政権のときに決めたのに、デフレだったから20年間まったくやらなかった」
田中氏は、今後やらないといけないマクロ経済スライドの構造に問題があると指摘。
(田中氏)「国民年金なんて30年超かかっちゃうんじゃないですか?厚生年金も20年くらいかかります。これをまたやるんですけど、構造的な問題が解決してない。マクロ経済スライドは相変わらず景気が悪くなってデフレになったら、あるいは政治的な配慮でストップする。そうじゃなくてマクロ経済スライド自体は景気が多少変動しても着実に減らしていかないと。本来、GPIFの運用利回りは年金財政の一割を負担するくらいの話なんですけど、引き上げを続けていったらGPIFに過大に依存する構造になって、年金のギャンブル化が加速する状況になってしまっても長期的に考えるとおかしくないんです。だからちゃんとマクロ経済スライド、あるいは年金財政の再検証をしないといけません」
〈出典〉
年金運用目標、1.9%に引き上げ 25~29年度、GPIFに指示へ―厚労省 | 時事通信社(https://www.jiji.com/jc/article?k=2024120200520&g=eco)
GPIFの利回り0.2%上げ案 日本株比率に上昇観測 | 日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA29B0O0Z21C24A1000000/)