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考古に求められた美術 ― 東京国立近代美術館「ハニワと土偶の近代」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

古代の日本でつくられた彫像であるハニワ(埴輪)や土偶。考古学における研究に留まらず、特に近代以降の日本では、美術の分野にもさまざまな影響を与えてきました。

明治時代から現代にかけて、ハニワや土器、土偶に向けられた視線の変遷を探る展覧会「ハニワと土偶の近代」が、東京国立近代美術館で開催中です。


東京国立近代美術館「ハニワと土偶の近代」会場入口


会場の冒頭で紹介されている土器は、展覧会会場の東京国立近代美術館の敷地から発掘されたものです。ここに遺跡があったことは、あまり知られていないと思います。

土器は、地下収蔵庫の新設にともなう発掘調査で出土したものですが、そもそも東近美の足下に「土の中の収蔵庫」があった、ともいえます。


《東京国立近代美術館遺跡出土品》縄文時代・弥生時代 国立歴史民俗博物館


展覧会は序章の「好古と考古 ― 愛好か、学問か?」から。古物を愛する行為は近代以前にもあり、江戸時代後期には好古家と呼ばれていました。

考古学は明治期に西洋からもたらされた概念で、この時期は「好古」と「考古」、ふたつの「こうこ」が重なり合った時代でした。

蓑虫山人は、ミノムシのように生活道具一式をかついで全国を放浪した明治の画人です。学会に発掘報告をおこなう一方で、趣味人的な図も描きました。


蓑虫山人《陸奥全国古陶之図》1882-87年頃 弘前大学 北日本考古学研究センター


第1章は「「日本」を掘りおこす ― 神話と戦争と」。近代国家としての日本が形成されると、ハニワは日本における歴史の象徴として、特別な意味をもつようになります。

都路華香の《埴輪》は、ハニワ作りの土師氏の祖と伝わる野見宿禰がハニワを制作している図です。この絵が描かれた数年前には明治天皇の墓である伏見桃山陵が造営され、千数百年途絶えていたハニワ作りが復活。彫刻家の吉田白嶺によるハニワが奉献されました。


都路華香 《埴輪》 1916年 京都国立近代美術館


考古遺物であるハニワそのものの美が注目されるようになったのは、1940年前後からといえます。

神武天皇の即位を起点に皇紀2600年とされたこの年には、さまざまな国家イベントが計画され、「仏教伝来以前」の素朴な日本の姿として、ハニワの美に注目が集まったのです。


第1章「「日本」を掘りおこす ― 神話と戦争と」


戦中期には、国粋主義者だけでなく、抽象美術を志した自由美術家協会の作家たちもハニワへの関心を高めています。

単純な抽象形態で構成されたハニワは、抽象絵画への統制を逃れるための手段としても有用でした。


難波田龍起《埴輪について》1943年 世田谷美術館 / 矢橋六郎《発掘》1937年 岐阜県美術館


第2章は「「伝統」を掘りおこす ― 「縄文」か「弥生」か」。 終戦を経て、1947年5月に帝室博物館は国立博物館と改称。1951年には東京国立博物館で「アンリ・マチス展」と「日本古代文化展」が開催されました。

この時はまだ国立近代美術館も開館前で、西洋のモダンアートと日本の古美術を東京で同時に鑑賞できるのは、国立博物館だけでした。


(左から)《国立博物館ニュース 第53号》1951年10月 東京国立博物館 / 《国立博物館ニュース 第48号》1951年5月 東京国立博物館


森山朝光は高村光雲の孫弟子です。戦中には建国神話の神々などの作品を制作していましたが、敗戦のため拠りどころとしていたモチーフを喪失。《陽に浴びて》では、建国の神々ではなく、動物ハニワを担いだ名もなき古代人をかたどりました。


森山朝光《陽に浴びて》1958年 茨城県近代美術館


1954年に国立近代美術館で「現代の眼:日本美術史から」が開催。過去の美術を現代の眼で見直す狙いで、初回は谷口吉郎がディスプレイを担当しました。

展示のハイライトはハニワ群像のインスタレーション。ただ、スポットライトを使ってハニワを抽象美術として見せたい展示側の意図は、一部の鑑賞者には不評でした。


第2章「「伝統」を掘りおこす ― 「縄文」か「弥生」か」 展覧会「現代の眼」シリーズのポスター


「日本の伝統」のなかで、何を評価して何を批判するのか。岡本太郎は1952年の「縄文土器論」で、縄文こそ理想像で、弥生以降の文化は打破すべき封建的な日本であると結論づけました。

建築界でも「縄文的なるもの」としての荒々しさに注目が集まり、キーワードとしての「縄文」は大きな意味を持つようになります。


岡本太郎《顔》1952年 川崎市岡本太郎美術館


第3章は「ほりだしにもどる ― となりの遺物」。考古学を離れて愛されていったハニワや土偶のイメージは、大衆へと浸透していきました。

1966年の特撮映画『大魔神』を皮切りに、特撮やマンガなどのジャンルで考古遺物から着想したキャラクターが量産。それらをモチーフにした品々は、もはや当たり前になりました。

そしてその状況は、縄文時代や古墳時代の文化が、日本人のアイデンティティの礎であると、無自覚・無意識のうちに植え付けられているともいえます。


ハニワと土偶関連サブカルチャー資料


ハニワや土偶はフィクションではなく確かに存在したものですが、その受容の流れを見ていくと「昔つくられたもの」だけではない、複雑な思惑も透けて見えてくるようです。

本展と時期をあわせて、東京国立博物館でも特別展「はにわ」が開催されます(10/16〜12/8)。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年9月30日 ]

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