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【蔡さんコラム】「なぜ古民家なのか—直感と計画の狭間で」(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)

にいがた経済新聞

「MAHORA西野谷」

「なぜ古民家なのか?」とよく聞かれる。日本の田舎暮らしを思い描くと、そこには趣のある古民家があり、四季折々の風景とともにゆったりとした生活が広がる。実際に妙高で10年間暮らしてみると、そのイメージは現実のものだった。春は山菜採り、夏は川遊びや虫取り、秋は紅葉と収穫、冬は雪遊び。古民家は、そうした土地の風土や文化と切り離せない存在だ。歴史や建築の美しさだけでなく、住む人々の暮らしが織り込まれた空間としての魅力がある。

一方で、地域の人々の視点は異なる。ある地元の方から「茅葺きの古民家は、昔は貧しさの象徴だった」と聞いた。経済成長期には、家を修繕しないと嫁を迎えることができなかった時代もあった。しかし、時代が変わり、今では古民家を再生し活用することが一つのライフスタイルとなっている。もはやブームではなく、人々が選び取る生き方になりつつあるのだ。

直感と計画のバランス

「なぜ古民家なのか」と問われると、理屈よりも直感の部分が大きいと感じる。しかし、直感だけで進めるわけにはいかない。古民家を活用するには、必要な資源やパートナーを整理することが重要だ。特に大切なのは「人」と「資金」。まず、どのようなパートナーが必要かリストアップし、その後、具体的にアプローチを進めた。当時の自分は、宿泊業の経験者、建築設計の専門家、すでに古民家を運営している方などをリストアップした。

資金面では、自己資金、融資、補助金の3つの選択肢を検討。最初は農林水産省や観光庁、文化庁などの制度を調べたが、最終的には総務省の地域経済循環補助金にたどり着いた。その後、簡単な事業計画書を作成し、それを基に銀行へ相談。地方銀行だけでなく、日本政策金融公庫の起業支援など、利用可能な制度を幅広く検討した。とにかく最初から完璧を求めないこと。まず行動に移し、そこから修正する。行動しながら得た知見を活かし、柔軟に対応することが大切だと実感した。

仲間を集める—パートナーシップの重要性

宿泊業の経験がなかったため、古民家再生の先行事例を研究し、興味のある古民家を実際に訪れ、宿泊しながら観察した。その中で、良いと思う部分を自分の宿に取り入れ、合わない部分は排除しながら、理想の形を模索した。その結果、参加型の古民家宿兼交流スペースというミックススタイルにたどり着いた。古民家は、時間をかけて育てていくもの。宿も同じように、文化複合施設として成長していくイメージを持っている。

また、工学部の建築学科の学生とつながり、風土建築専門の教授を紹介してもらった。教授に相談したところ、「夢がある」と共感を得ることができ、実際に妙高まで足を運んでもらう機会も生まれた。日常のちょっとした会話から思いがけないチャンスが生まれることも多い。そうした一期一会の大切さを改めて感じた。

コーゼーションとエフェクチュエーションの併用

コーゼーション(因果推論)とエフェクチュエーションは対極の概念ではない。状況に応じて使い分けることが重要だ。明確な目標、市場分析、予測される成果が求められる場面ではコーゼーションが有効だが、予測不可能な状況では、エフェクチュエーションを用いて最小限のリスクを取りながら進めるほうが適している。

古民家再生事業においても、まずは事業計画書を作成し、役所や銀行に相談する。補助金の活用を検討しながらも、最悪の場合補助金なしでも始められる計画を立てる。そして、外部の人々に説明する際には、古民家再生の目標を明確に示し、マーケティングや市場分析を活用して説得力のあるプレゼンテーションを行う。このように、コーゼーションとエフェクチュエーションをバランスよく活用することで、より良い結果を生み出せると考えている。

これから地方で古民家再生を考えている方にとって、少しでも参考になれば嬉しい。

蔡紋如)(サイ・ウェンル)

台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。

【関連サイト】
MAHORAホームページ

第1回
第2回

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