V・ファーレン長崎を相手にアウエーで奮闘も惜敗。ジュビロ磐田に求められる“クルークス頼み”の回避と新たなオプションの構築
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田はアウェーでV・ファーレン長崎と対戦したが健闘およばず、0−1で敗れた。“アタッキング・フットボール”を掲げるジョン・ハッチンソン監督は「選手は良いプレーをしてくれたが、結果が伴わなかった。引き分けが本来なら妥当な結果だと思うが、これもフットボール」と語っており、悲観的な様子は見られない。
昨シーズン3位の長崎は優勝と昇格を争う最大のライバルになることが予想される。下平隆宏監督が2年目で、ここまで積み上げたベースに、新加入のMF山口蛍がキャプテンとして活力をもたらしている。
ハッチンソン監督が新たなスタイルを構築中の磐田にとって長崎は難敵だったが、内容面では前向きになれる要素が多かったと言える。
クルークスの左足
その中で、4−2−3−1の右ウイングを担うジョルディ・クルークスが、明確なストロングポイントになっていることはポジティブな部分と不安の両方を内包している。
磐田の攻撃はポゼッションがベースになる。相手FWのプレッシャーがあっても、センターバックからボランチに付ける縦パスはかなり使えるようになっており、中央に相手を引きつけてからサイドへと展開。外側から前にボールを運んでいる。
右サイドのクルークスに出れば、右サイドバックの川口尚紀のサポートを得て、高い確率でクロスに持っていける。ただ、クルークスの左足はかなり警戒されているので、縦にえぐっての右足クロスか左足のサイドチェンジが選択肢になりやすい。
長崎戦は対面する相手の左サイドバックが昨シーズンの同僚である高畑奎汰だったこともあり、カットインからの左足という選択肢を徹底的に消された。
それでも前半7分には、右外でボールを受けたクルークスが中に切り込みながら左足でサイドチェンジし、ファーポストのやや外側で受けた松原后が左足でシュートを放つなど、ビッグチャンスをつくった。
クルークスは「あそこで1-0にできていれば」と残念がったが、クルークスが磐田の武器として相手に警戒される中でも、いくつかの選択肢がチーム内で共有されるようになっていることは収穫だ。
クルークス頼みからの脱却
その一方、やはり磐田の課題になるのがクルークス以外の攻撃オプションだ。
1−0で勝利した鳥栖戦は左センターバックのリカルド・グラッサからのロングパスに反応した左ウイングの倍井謙が、ディフェンスの背後に抜け出して相手GKの頭上を破るゴールを決めた。しかし、長崎戦は右のクルークスからのボールを除くと、なかなか有効な攻撃を繰り出すことができなかった。
クルークスに繋ぐ攻撃のプロセスの一つとして、縦パスを受けたFWマテウス・ペイショットが右ワイドに振るなど、再現性のある形をいくつかチーム内で共有できているのは良いことだが、ある種の“クルークス頼み”になるとチームは難しくなってくる。
ボランチの上原力也はビルドアップのところで、キャンプから積み上げてきたものに自信を深めながらも、チャンスがクルークスからのクロスばかりになってしまうところは危惧しているようだ。
上原は「クロスも1つの手ですけど、それ以外にもコンビネーションからのシュートとか、中央からの突破とか。そういう相手に脅威を与えるものが、ジョルディのクロスにプラスしてチームに必要になってくる。試合を重ねるごとに間違いなく対策もされるので、そこの戦い方は1つ1つ積み上げないといけない」と語る。
攻撃のバリエーションの構築を
長崎戦のように先手を取られて追いかける状況になると、交代選手の活用も含めて攻撃のバリエーションはさらに大事になる。
長崎戦はクルークスを攻守にサポートしていた川口がアクシデントで植村洋斗に交代してから、それまでほどクルークスをうまく生かせなくなった。遠征に帯同していた角昂志郎が体調不良でベンチを外れ、攻撃の選択肢が1つ少なくなったことも痛手だった。
ハッチンソン監督が「連動してプレスをかけるところは非常に良かった」と振り返ったように、磐田は強豪相手の敵地戦でも十分に戦うことはできた。だが、長崎戦はそういう試合を勝ち切っていく強さ、そして点を取るための豊富なバリエーションの構築が必要であることも認識させられる試合だった。