【インタビュー】新潟大学、⾼校⽣向けの「にいがた“知の革新”STELLAプログラム」を今秋始動、オンライン講義や大学での対面授業、インド研修などで科学人材育成を目指す 参加申し込み8月30日まで
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初掲載:2024年7月26日
新潟大学(新潟市西区)では9月から、高校生向けの理数教育プログラム「自然と人の共生に向け知の革新を創る基礎科学人材育成(にいがた“知の革新”STELLAプログラム)」を開始する。理数系学生の育成や高大連携を目指すもので、オンラインと対面で大学の講義を体験できる。体験用の「エントリーコース」の期間は1カ月ほどだが、選抜を経て、最先端科学に触れて応用力を育てる「マスターコース」に進むことも可能。「エントリーコース」の募集は8月30日金曜日まで、定員は100人。
令和6年度の「エントリーコース」や「マスターコース」の講義には、地震などの防災を専門とする卜部厚志教授、位相幾何学の折田龍馬准教授、経済科学部の伊藤龍史准教授など著名な講師陣が登壇。内容は受験にも役立つ基礎から、自分でテーマを見つける探求型の学びまで幅広い。
こうした内容には、科学人材育成の観点のほか、高校の教師からの要望も反映されているという。今回はプログラムの詳細や意義などについて、新潟大学理学部副学部長の髙澤栄一先生と、理学部科学人材育成事業実施事務局の近藤貴明先生に聞いた。
【関連リンク】
新潟大学 「自然と人の共生に向け知の革新を創る基礎科学人材育成(にいがた“知の革新”STELLAプログラム)」
目次
○高校生により高い学習と大学選びの視点を
○興味を持ったらまずは「エントリーコース」へ
○新潟ならではの教育とそれを実現する連携
○探究心・追求心を持つ人はぜひ参加を
高校生により高い学習と大学選びの視点を
新潟大学理学部副学部長の髙澤栄一先生
──本事業はどういった経緯で開始されることになったのでしょうか。
髙澤栄一先生(以下、髙澤):「自然と人の共生に向け知の革新を創る基礎科学人材育成(にいがた“知の革新”STELLAプログラム)」は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が打ち出した次世代科学技術チャレンジプログラムに採択された事業になります。
キーワードは「自然と人の共生」です。新潟は自然に恵まれた場所ですが、一方で自然災害も多く、生活インフラへの被害に甚大です。そうした社会的課題も視野に入れ、自然のなかで人々がどう幸せに生活できるか……そうした持続的社会の実現に向けた課題や解決方法を、高校生たちに考えてもらうことが目的です。
なお、令和6年度の同プログラムには、全国の大学などが募集し10校が採択されましたが、高校生型プログラムは新潟大学のほか、千葉大学と北九州市立大学の3大学のみになります。
──新潟大学ではこれまでにも、科学人材育成を目的とした小・中学生向けの事業を行ってきています。今回の採択は、そういった実績も評価されたのでしょうか?
髙澤:そうですね。これまで2011年から毎年のようにこうした事業をしてきたノウハウがある点への評価も大きかったと思います。
これまでと違う点は、高校生が対象ということで、高大接続が目的の一つであることです。大学と高校の勉強のしかたの違いを実感してもらうことで、高校での学習の質も高めることができると思います。
また、高校生が進学先を考えたときに、偏差値で考えて大学の中身をよく知らずに選ぶ人も多いと思います。本事業では、様々な研究をしている先生がたくさん登壇するので、自分がどういった学問がしたいのか、それをどこへ行けば学べるのか、ということを知る機会にもなります。
興味を持ったらまずは「エントリーコース」へ
プログラムは「エントリーコー ス」 「マスターコー ス」 「ドクターコース」の3段階の学びからなる(プログラムのパンフレットより)
──具体的なプログラムの内容について教えてください。
近藤貴明先生(以下、近藤):プログラムは「エントリーコース」(9月7日と23日、定員100人)、「マスターコース」(10月19日〜1月11日と3月9日、40人)、「ドクターコース」(翌年4月〜2月を予定、15人)の3段階の学びからなり、それぞれ次のコースへ進みたい場合には、受講生選抜を行う形になります。
──授業自体は、大学の講義のような形式を想像すればよろしいのでしょうか?
近藤:そうですね。オンラインか対面で大学の授業を受けるイメージです。開催日は、隔週で土曜日を想定しています。対面の場合は新潟大学五十嵐キャンパス(新潟市西区)へ来てもらって、講義や実験の授業を受けてもらう形になります。
なお「エントリーコース」については、すべてオンラインで実施します。興味を持ったらまずは参加してもらい、もし「さらに深い学びを得たい」と思ったら次の「マスターコース」の選抜に挑戦してもらい、対面での授業も受けていただきたいと思います。
──プログラムを一見すると「レベルが高そうだな」と思ってしまいましたが、「エントリーコース」についてはむしろ門戸を広く開いているのですね。
近藤:はい。おおむね隔週1回にしているのも、小・中学生と異なり、高校生が学業や部活動で忙しい点を考慮しています。また、オンラインを組み合わせているのは、新潟県は県土が広いからという理由があります。
本プログラムを構想した時点で、県内の高校で理数科目を担当している先生約170人からアンケートを取っており、そこでいただいた意見や要望を反映した形です。県内のニーズを拾えるようにしているので、遠方にお住まいの高校生にも、ぜひ「エントリーコース」に参加していただきたいですね。
──大学側の独断で決めたわけではなく、高校側からのニーズも拾っているのですね。
近藤:(授業の内容で言えば)探究学習をしてほしい、というご意見もありました。
また、最近は仕事でも不可欠になりつつあるAIについての入門の授業も予定しています。「エントリーコース」は特に、高校生が興味を持てる内容にしています。
講座一覧
新潟ならではの教育とそれを実現する連携
──理数系のプログラムですが、「マスターコース」の授業を見るとアントレプレナーシップ(起業家精神)についての授業もあり、分野横断的な面もあるようにお見受けします。
近藤:アントレプレナーシップの講義については、経済科学部の伊藤龍史准教授が担当します。やはり、大学での専門的かつ多様な学びを修めた学生が大学卒業後、社会に役立つ知識ということで、経営的な視点を若いうちから養っていく姿勢が求められます。
また、研究倫理についての授業も、将来、先進的研究成果の創出に取り組んでいく上で、若いうちに身につけておいて損はありません。実学本位の講座を取り揃えるのは、そうした大学卒業後の「キャリア」という航海の「羅針盤となる学び」を見据えたものでもあります。
髙澤:ほかにも「マスターコース」では、佐渡の歴史や芸能について人文学部の原直史先生と中本真人准教授が講義します。このように、令和6年度からスタートする本プログラムでは、分野的に偏りのない“文理融合”の総合的な学びを提供していくことを目指しています。
講座提供部局一覧
──新潟、あるいは新潟大学ならではの部分というのはありますか?
髙澤:キーワードの「自然と人の共生」にも関わってくるところで、地域特性を活かした研究ができるというところです。県内には佐渡のような自然豊かな場所やフォッサマグナといった地球の歴史を記憶する場所があり、その一方で日常生活に深刻な影響を及ぼす豪雪や、最近だと、液状化被害をもたらす地震といった自然災害も話題になります。
そういった「自然と人の共生」を考えていく上で研究の素材が溢れているなかで課題を見つけ、取り組んでもらいたいと思っています。
近藤:また新潟大学は総合大学なので、色々な学部が協力できる点も特徴です。
今回のプログラムを推進していくにあたり、新潟大学の6学部・1研究所・2センターのほか、これまでも児童・生徒の育成プログラムで協力関係を築いてきた新潟薬科大学や新潟工科大学とも連携を図ります。
薬科大には新潟大学にない薬学部の講師陣による、薬学分野の講座を展開していただきます。国内最大級の大型風洞実験装置を持つ工科大については、風・流体工学研究センター長の富永禎秀教授が講義を行います。
【参考リンク】
にいがた経済新聞「新潟大学発のベンチャーが始動、経済科学部の伊藤龍史准教授、企業へのアドバイザリー業務を提供する合同会社設立(2023年1月10日)」
新潟工科大学「富永禎秀教授が「世界で最も影響力のある研究者トップ2%」に選ばれました(2024年2月5日)」
探究心・追求心を持つ人はぜひ参加を
髙澤先生は「探究心、追求心を持つ人へぜひ参加してもらいたい」と話す
──「ドクターコース」はこれまでの講義を受ける形式とは違い、自主的に探求する形がメインになってくるのでしょうか?
髙澤:「ドクターコース」では大学4年生や大学院生のように、先生について自分なりのテーマで研究してもらいます。可能であれば、論文の執筆にも挑戦してもらいたいですね。
──来年度の「ドクターコース」では、インドへの研修が目玉の一つになるかと思います。
近藤:時期はまだ未定ですが、「ドクターコース」へ進んだ人のうち成績優秀な人は来年度、7泊8日でインドへ研修へ連れていきます。インドはIT大国で経済的な成長が大きい一方で、自然環境などの面で負の側面もあります。「自然と人の共生」がテーマの中で、そうした部分も見てもらいたいと思っています。
髙澤:新潟大学はインド理科大学院大学と世界展開力事業で連携しており関係が深い点も理由の一つです。現地ではインドの国立学校の生徒との交流を予定しています。参加者には語学だけでは得られないグローバルな力や、帰国後も持続するような交流関係を身につけることを期待したいですね。
──最後に、どんな生徒に応募してもらいたいですか?
髙澤:大学一般に言えることではありますが、色々なところへ関心を持って、自分で突き詰めて研究できる生徒さんや、もっと上を目指したい、学びを深めたいという追求心がある人に来てもらいたいですね。
本プログラムでは「自然共生に向けた理学力」「AI・RRI活用力」「グローバル展開力」の3つの力の獲得を目標に掲げています。このプログラムで、興味を持った分野を研究し、さらにその成果を世界へ発信できる人を目指してほしいと思っています。
新潟大学
【関連リンク】
新潟大学 「自然と人の共生に向け知の革新を創る基礎科学人材育成(にいがた“知の革新”STELLAプログラム)」