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テニスプレーヤーとして、1人のアスリートとして目指す“世界”への貢献|元プロテニスプレーヤー 土居美咲が考える“自身の持つ価値”とは?

Sports

全豪オープンのジュニア大会でのダブルス準優勝を皮切りに、17歳からプロテニスプレーヤーとして世界を舞台に戦い続け、ウィンブルドンでのシングルス・ベスト16、2度のオリンピック出場など、第一線で活躍した土居美咲さん。

2023年10月の引退表明後「テニス以外の世界も見てみたいと思った」という土居さんは、日本財団HEROsの活動の一環として、能登半島地震の被災者支援や子供たちに自身の経験を伝える活動、また小型重機の免許取得も行うなど、さまざまな活動に取り組んでいます。

引退して一年。土居さんの“いま”に迫ります。

2024年11月5日~15日にかけて行われた『2025 DUNLOP ROAD TO THE AUSTRALIAN OPEN JUNIOR SERIES IN YOKKAICHI(以下、Road to the AO)』(四日市テニスセンター)の大会アドバイザーを務めた土居美咲さんへのインタビューです。

引退後、能登半島地震の復興支援から考えたこと

ーー引退されてから約1年。当時は「いろいろなことをやってみたい」ともおっしゃっていましたが、この1年間いかがでしたか?

土居)日本財団『HEROs』で活動させていただくなど、これまでやってきたこととは違うことにチャレンジしつつ、テニス関連でも大会アドバイザーを務めさせていただくなど、話していた通り“いろいろなこと”をしてきたかなと思います。

現役をやり切って、気持ち的にもリラックスすることをテーマとして考えていたので、自分にできることをバランスよくやれているのではないかと思います。

ーー『HEROs』では、能登半島地震の復興支援の活動に積極的に参加されています。

土居)引退するタイミングで知人に声をかけていただき参加することになりましたが、これまでなかなか機会のなかった災害支援に対してアスリートとして関われることに以前から魅力を感じていました。

実は能登の地震が起こる前から『HEROs』としての災害支援のための活動は動き出していましたが、実際に震災があって被災地に赴き、自分の目で見て、災害におけるさまざまなフェーズについて身をもって知ることができました。夏には豪雨も重なり、心のケアなども含めて人の助けがまだまだ必要な状況です。HEROsの仲間たちが継続的に行ってくれていますが、私も時間が合う限り現地に行きたいなと思っています。

ーー小型重機の免許もHEROsの方々と一緒にとられていましたね。

土居)最初に、「クレーンの免許取るよ」という話を聞いたときには、正直理解が追いつきませんでした(笑)。
ちょうど免許を取りに行ったのが3月11日で、「アスリートがクレーンってどういうこと!?」と地震など災害への備えや支援に対して被災地以外の方々に関心を持ってもらえるよい発信になったのではないかと思います。

フランスでは試合中もマイボトル!?テニス界のサステナビリティ意識

ーー現役時代から、こうした社会貢献にも意識は向いていたのでしょうか?

土居)実際のところ、あまりなかったですね。毎週試合がやってくるなかで、なかなかそこまでの余白が自分の頭になかったというのが正直なところでした。

ーーそうですよね。そんな中でも気になっていたことや、引退して「そういうことか」と気づいたことはありますか?

土居)フランスの大会では、何年か前から選手の飲み物はペットボトルではなく、マイボトルになりました。大きな大会だけでなく、地方の大会でもそのようになっていたことが印象に残っています。
また、サステナビリティと聞いて改めて思い出したのは、ラケットのストリングを張り替えた際にいただくビニール袋がいつの間にかなくなっていたことです。私自身も、ビニール袋がついていたことにも違和感を持っていなかったですし、なくなっても「なくてもいいんだ」と感じていました。このように、環境のことに関しては“知ることで気づく”ことが多いなと感じているので、こうしたことは自分としてもたくさん知っていきたいと思っています。

アスリートがもたらす影響力とは?

ーー引退されてから、子どもたちと関わる活動も増えていると思います。元アスリートということが周囲の人々に与える影響力について、どのように感じていますか?

土居)現役時代は、本当に一日一日を一生懸命に過ごしてきました。その過程の話が誰かに影響を与えるとはあまり思っていなかったですし、そこに価値があることに少しビックリしましたね。

ーー子どもたちや将来のテニスプレーヤーを目指す若者たちと関わる際、土居さんの経験の中で何をよく伝えていますか?

土居)自分自身が大変なときに、「自分だけじゃない」と思えることの大切さを伝えています。「私はメンタルが弱い」と思ってしまうテニスプレーヤーはたくさんいるのですが、私自身は「全員が不安を抱えているし、みんな苦しんでいる」と思っています。トップレベルの選手も試合で緊張することもあるよという話をすると、みなさん驚きますね。他人は輝いて見えてしまうものですが、その人も必ず大変な時期を乗り越えての今であり、自分と同じ人間だと考えるようになれればいいと思います。

ーー小さな頃から世界を目指し、さまざまな経験をしてきた土居さんのお話だからこそ納得する部分もありますよね。10代の頃から世界大会に出場したり海外に出ることは、土居さんにとって大きな経験になりましたか?

土居)初めて海外に出たタイミングでは、“全然通用しない”ということを知りました。実は私、小さな頃は「サーブが得意」と言っていたのですが、海外の選手には明らかに力強いサーブを打つ選手がたくさんいます。それを知ることで「じゃあ自分の武器は何か?」と考えるきっかけにもなりました。
14歳以下の大会で5〜6週間遠征に行き、ヨーロッパのクレーコートで必死に戦いながら「どうやったら勝てるのか」を考え、食らいついていた経験は、自分にとってとても大きなものでしたね。

ーー今回アドバイザーを務めた『Road to the AO』の大会のように、小さなうちから世界にチャレンジできる環境が整うことについてどう思いますか?

土居)“世界を経験する”ということは、すごくいいことだと思います。世界と戦う、あるいは世界を目指せる環境で戦うことから、“挑戦する心”を持ち続けられるようになってほしいですね。プロになってからも必要なマインドですが、若い頃から「強い選手にどうやったら勝てるんだろう」など、一生懸命自分で考えてチャレンジする気持ちを持っていてほしいなと思います。

ーー知ることで考え、チャレンジできるようになるというのはすごく意義深いことですよね。

土居)壁があるからこそ乗り越えようとしますよね。少し高い壁があり、頑張ろうとするための刺激を得られる機会はあった方がいいです。今回の『Road to the AO』も全豪オープンジュニアに繋がるチャレンジの機会ですし、国内で開催されることも私の時代にはなく、出場するには海外の試合に出てランキングを上げる必要があったので、純粋にいいなと思います。

Road to the AOの優勝者。国際大会優勝者には、全豪オープンジュニア本戦のワイルドカードが与えられます。

「自分の武器を見つける」ジュニアに向けたメッセージ

ーー世界を目指すジュニア世代に向けて、メッセージはありますか?

土居)強い相手と対戦したり、さまざまな経験を積み重ねながら「自分はここで勝負するんだ」という“自分の武器”を見つけてほしいです。プロになると、試合に勝ち切ることは大変で、そうしたときに信じられるものがあるということは大きなことです。

日本人選手は、すべてがいいレベルでまとまってしまう選手も多く、そうした武器をつくることは少し苦手なのではないかと感じています。一般社会においてはいいことかもしれませんが、突き抜けたものを求めているこの世界においては、武器を見つけて武器を伸ばすことが重要です。

私自身、弱点を補うのではなく、自分の武器であるフォアハンドを強化するための練習が全体の8割ほどを占めていました。相手からはバックハンドを狙われましたし、未だに苦手なのですが、得意のフォアハンド、フットワークを突き詰めていくことで、「フォアハンドを振り切ればポイントが獲れる」という自分の拠り所ができ、厳しい状況でも自分を信じることができました。

ーー引退して1年。これまでの経験をもとに、これからやりたいことは見えてきていますか?

土居)そこまで明確なものはまだ持てていません。ですが、少しずつテニス界にも自分がやってきたことを伝えられたらいいなと思っています。テクニックを伝えるということよりも、私が通ってきた“道のりを伝える”ということですね。グランドスラムを戦ってきた経験など、そうしたことを伝える機会を今後も作っていけたらと思っています。

ーーありがとうございました。

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