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アーバンギャルドの中枢 おおくぼけいの音楽美学

Dig-it[ディグ・イット]

アーバンギャルドのキーボードでもあり、数多くのバンドのサポートとしても活躍しているおおくぼけい。その見目麗しいたたずまいから、ファンからはけい様とも称される。バンドブームと言われた1980年代後半〜90年代前半をティーンネイジャーとして過ごした、昭和50年生まれの麗しいミュージシャンの原体験とは?

歌謡曲、ゲーム、クラシック、フォーク、洋楽…幼少期の多様な音楽性

おおくぼけい :昭和50年、東京都生まれ。新宿フォーク、ザ・キャプテンズを経て2015年アーバンギャルドに加入。頭脳警察、戸川純avecおおくぼけい、オケミス等のユニットにも参加。近年はアイドルなどにも楽曲提供を行う

過去と未来が交錯した純文学のような歌詞と、テクノポップが融合したニューウェイブバンド、アーバンギャルド。その音楽的中枢を担うのがキーボードのおおくぼけいだ。

「初めてバンドっぽい表現をしたのは幼稚園の時。アラジンの『完全無欠のロックンローラー』のマネをして、ほうきをギターにして歌っていました。同じ頃に沢田研二さんの『TOKIO』も出てきた。パラシュートを背負った衣装のマネをしたくて、家にあったイスを背負ったりして。これが僕にとっての原体験であり、最初の表現ですね」

4歳からピアノを習い始めたけいは、貸レコード屋でさまざまな音楽と出会った。

「ピアノを習っていたので、クラシックも聴いていた。父が持っていたエルトン・ジョンのアルバムや、母親がさだまさしが好きだったのでフォークも聴いていました。小学三年の時に初めて買ったレコードはC-CBの『元気なブロークン・ハート』(1986年)。彼らみたいに髪を染めてみたくて、ピンク色の粒が入っていたフルーツシャワーのシャンプーを使っていました。これで少しは染まるのじゃないかなって思っていましたね(笑)」

今では当たり前となった打ち込み音楽だが、けいにとってその始まりはパソコンから出るゲーム音楽だった。

「ファミコンを買ってもらえなくて、代わりにMSXがあった。『マイコンBASICマガジン』(電波新聞社)や『MSXマガジン』(アスキー)に載っていたプログムを写経のように打てば、自分でゲームが作れた。その頃のゲーム音楽って、2、3音しかないのにものすごく印象に残っている。今思えば、そういうピコピコした音が、今にも続いているかもしれないですね」

筋少で人生が激変! ジュンスカで告白

音楽的に豊かな環境で育ったが、自発的に聴くようになったのは中学に入ってからだという。

「自分のおこづかいで初めて買ったのは筋肉少女帯の『サーカス団パノラマ島へ帰る』(90年)と、人間椅子『人間失格』(90年)のCD。『三宅裕司のヤングパラダイス』のなかで大槻ケンヂさんの『セニョール!セニョリータ!』っていうコーナー番組があって、好きになった。オーケンさんは『オールナイトニッポン』のパーソナリティをやっていたけれど、その頃はまだ中1で夜更かしができなかった(笑)。中2になって遅い時間帯のラジオを聴けるように。オーケンさんのトークはおもしろかったのですよね。中二病って言葉があるけれど、ちょうどひねくれ始めるじゃないですか。そんな時におとなしいけどひねくれたお兄ちゃんが、普通ではない話をしてくれたらもう好きになっちゃうじゃないですか。俺のことわかってくれているみたいな、そんな気持ちになっていました」

中学男子ならではの、甘酸っぱいエピソードもあった。

「当時は周りの女子はジュンスカが好きで、男子は筋少やXが流行っていましたね。ジュンスカのシングル『白いクリスマス』(93年)が発売された頃、僕が好きだった子がジュンスカのファンだったので、プレゼントとしてそのCDを彼女の家のポストに投函したんです。名乗るのも恥ずかしかったから、〝ミスターKより〞って書いて(笑)。本当は気づいてほしかったけれど、何も言われなかった思い出がありますね」

多感だった小学校高学年の頃には、クラシックへの興味がなくなっていった。しかし、この転機が後の進路へと影響した。

「ピアノの先生にクラシックを弾きたくなくなったと伝えたら、映画音楽の楽譜を与えてくれた。この経験があったので、ピアノをやめずに済みました。そこから映画音楽が好きになって、サントラばかり聴いていました。『ゴーストバスターズ』(84年)、『フラッシュダンス』(83年)も好きでした。あと『グーニーズ』(85年)。あのシンディ・ローパーの曲はカッコいいって思いました」

歌謡曲からクラシック、ゲーム、映画音楽と吸収していったが、そこにはある一人のミュージシャンの音楽との出会いがあった。

「中1の頃に、『ラストエンペラー』(87年)で坂本龍一さんが、アカデミー賞作曲賞を受賞しました。彼の存在は知っていたけれど、そこから好きになって音源をあさっていくなかでYMOという存在にたどり着いたんです。でも、その頃にはもうTM NETWORKを聴いていたから、TMの音色の方がその頃の〝今〞という感じがしてカッコいいと思いました。YMOのカッコよさはわかったのですけれどね」

昭和50年男になじみ深いカルチャーといえばマンガだろう。けいも例外ではなかった。

「音楽以外で大きな影響を受けたのが『少年ジャンプ』で連載されていた『BASTARD!!』(88年〜)。キャラクターや魔法の名前でメタルバンドが使われているんです(※1)。『これはなんだ!』っていう興味から、アイアン・メイデンとかのHR/HMを知りました。HR/HMへの入口は実は『BASTARD!!』だったのです。『ジョジョ』になると音楽範囲が広がっちゃうのですよね(笑)」

HR/HMとの出会いは衝撃的だった。その勢いでけいはガンズ・アンド・ローゼズのコピーをするために文化祭でバンドを組んだ。

「高校生になると、L.A.メタルの知名度が高まってきて『ユーズ・ユア・イリュージョンⅠ・Ⅱ』(91年)のアルバムが二枚同時に発売された頃が、自分のなかでのピーク。東京ドームにライブを観に行きました。コピーバンドでは、ボーカルを担当しました。メタルが好きだったので、キーボードが入っているロックバンドはカッコ悪いと思っていたから(笑)。洋楽の方がカッコよいからモテると思っていた。でも僕らが洋楽にハマればハマるほどマニアックになっていく。女子からはウケなくなっていくのですよね。しかもプログレを聴き始めたので、モテない方向に突き進んでいました」

90年代後半に台頭してきた渋谷系やグランジロックの洗礼も忘れられない。

「友達がニルヴァーナの『ネヴァーマインド』(91年)を聴かせてくれました。メタルと違って『あれ? ギターソロがない!』って驚きました。渋谷系も流行りだしていたので、コーネリアスやピチカート・ファイブも聴いていました。なかでも渋谷系の範ちゅうなのかわかりませんがアシッドジャズと言われていたユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイションが好きでしたね。でも僕は学級委員をやるような生徒だったので、クラブやライブハウスは不良の匂いがするから行ったことがありません」

ガンズに次いで、けいがライブを観に行ったアーティストは長渕 剛。

「『MTVアンプラグド』の影響で、アコギが流行ったんです。アコギといえばやっぱり長渕 剛ですよね。高校生の時は、彼が主役のドラマがいくつも放送されていたりして、人気がすごかった。全然好きじゃなかったけれど、友達に誘われて長渕のコンサートを東京ドームまで観に行きました。球場の真ん中に360度ステージがあって、ラストは『MOTHER』で締めるのですよ。熱心なファンではなかったのに、最後は歌っていましたね。やっぱり長渕のカリスマ性ってすごいって感じました。 僕の勝手な決めつけですが、同世代でアコギを手にしている人たちってみんな長渕の影響を受けているはずなのに、絶対に彼の名前は出さないのですよね(笑)」

「洋楽の方がカッコよいからモテると思っていたが、洋楽にハマればハマるほどマニアックになり女子からはウケなくなっていった」と高校時代はやや黒歴史

音楽学科への進学から プロミュージシャンへ

絶え間なく音楽に触れる十代を過ごし、本格的に音楽を学問として学ぶ道に進む。

「日大藝術学部の音楽学科に進学したのは、映画音楽が好きだったから。大学ではミュージカル研究会に入部しました。そこから演劇にハマっていきましたね。ライブハウスではなくて、いわゆる小劇場に通いました。僕が観に行っていたHIGHLEGJESUS(※2)や指輪ホテル(※3)は、アングラというよりもおしゃれで、ちょっと渋谷系っぽい雰囲気があった」

「十代の頃から、坂本龍一さんに多大なる影響を受けていた」と振り返るけい。ピアニストでもある彼にとって、坂本龍一は避けられない存在だ。

「凝った音楽を目指していた人は、みんな教授が好きだった。でも、みんなが好きって言うから…ってサブカル的な言い方ですが、なかなか教授が好きって言えない。バンドマンとして影響を受けたのは筋少ですけれど、音楽家とては坂本龍一。三柴 理(※4)と坂本龍一を足したら僕になる。どちらもクラシカルでありながら、アバンギャルドってところが共通点かな」

ところで90年代後半は就職氷河期。大学より先にある将来をどのように考えていたのだろうか。

「バンドでプロになれるとは思っていませんでしたね。音楽家として作曲家とかバックミュージシャンのような裏方になれればいいかなって考えていました。ただ20代の頃は、〝俺はアーティストだ〞みたいな驕りがあって、職業作曲家のような〝下積みは嫌だ〞って気持ちがあって、バンドを始めてインディーズで活動していた。非常にひねくれた期間をすごしていましたね」

90年代の終わりには、ゆずや19というようなストリートミュージシャンが出現した。新宿フォークというバンドを組んでいたけいは、ちょっと違うと感じていた。

「彼らの音楽はフォークと呼ばれていたけれど、さだまさしやかぐや姫のような70年代フォークを聴いていた身としては〝あれはフォークではない〞って思っていました。そんな気もちもあってしみったれた音楽をやるバンドを組んだけれど、全然売れなかった。やはり当時は売れている音楽に対して好きだとは言えなかった。20歳位の時に、新宿JAMのオーディションを受けた。演奏もよくでき、JAMのスタッフと今後について話すなかで急に〝このライブハウスは音もあまりよくないな〞とか言ったこともありました。オーディションを受けているのに(笑)。その時はまだトガッていたから」

かつて憧れたバンドのサポートメンバーに

音楽に夢中になった10代、ミュージシャンとしての下積み時代となった20代。そして30代に突入し、いよいよプレイヤーとしての才能が開花しだす。

「2009年頃から、キーボードプレイヤーとしてレコーディングやライブに呼ばれるようになってきました。GOING UNDER GROUNDや毛皮のマリーズのサポートで演奏しました。アーバンギャルドも、最初はサポートで参加でした。アーバンがもつサブカル、文学、音楽史の部分が、僕がずっともっていて活動してきた要素にすごく当てはまるんです。メンバーとして加入して、今年で10年が経ちました」

イベントなどでの共演をきっかけに、レジェンドバンドのサポートメンバーとして活動が増えていく。

「バンドブームから活躍しているミュージシャンが、去年から次々と還暦を迎えています。2024年に還暦を迎えたROLLYさん、HEESEYさん、森重(樹一/ZIGGY)さんのライブ(※5)で、バンマスを務めました。頭脳警察や戸川純さんのような上の世代の方のサポートもしているのですが、彼らとどうして話題が合うのかなって考えてみたんです。それは僕が10代の頃聴いていた彼らのようなミュージシャンが好きだと言っていた音楽を聴き始めたりしていたからなのかな」

プレイヤーとしても、数多くのバンドに参加している。彼らの印象を聴いてみた。

「大御所の方とも一緒に演る機会が多いですが、僕が知り合った頃には多分いろいろな経験をされてトガっていた部分がだいぶ丸くなっている印象もあって皆さんやさしいですね。でも音楽に対しては厳しい。縁といえばPERSONZのアルバムでピアノを弾いています。AUTO-MODという伝説のバンドのアルバムでピアノを弾いているのを、渡邉 貢さん(ベーシスト)が気に入ってくれて弾くことになったのです。オーケンさんともオケミス(大槻ケンヂミステリ文庫)というユニットに参加しているのですが、バンド同士でつながりが強いというのもありますね」

アーバンギャルドが主催している『鬱フェス』では、バンドやアイドルというような若手世代とも共演も多い。

「きれいごとみたいに聞こえるかもしれないけれど、音楽を演奏しだすと年齢とか関係なくなる。年齢でいうと、僕は最初の頃は年齢を公表していなかった。でも、先輩たちのバンドに参加していると、観に来てくれているファン層がちょうど同年代。僕のがんばっている姿を見て、応援してくれるようになった人もいる。もっと同年代の皆さん と共有したいって言う気持ちになってきた。同世代の文化も発信していきたいって思っています」

※1…ア=イアン=メイデ王国のハリス王はアイアン・メイデンとベーシストのスティーヴ・ハリスから。魔法の「七鍵守護神(ハーロ・イーン) 」は ハロウィン『守護神伝‐第一章‐』(原題『Keeper Of The Seven Keys Part 1』)など、元ネタ探しも捗る。

※2…劇作家の河原雅彦が主催していた劇団。2002年解散。

※3…羊屋白玉が作・演出を務める演劇集団。1994年結成。

※4…ピアニスト。ロックバンド特撮メンバー、元筋肉少女帯のメンバーで、現在はサポートメンバーとして参加。

※5…2024年3月に開催された『夢の還暦スーパーセッション~ROLLY、森重樹一、HEESEYの38’sスペシャル!!!』。

アーバンギャルドは昨年10月にシングル「昭和百年少女」をリリース。さらに2025年2月22日には、デビュー17周年を記念するライブ、「アーバンギャルドの昭和百年“野音戦争”」が日比谷野外大音楽堂で開催される

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