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「責任感は増しつつ、等身大で。」23歳で️“中堅”となった知名祐里の現在地…女子バスケWリーグ・シャンソン

OKITIVE

記者会見で、一つひとつの質問に丁寧に答える
好プレーを見せた味方に対して、笑顔で駆け寄る知名祐里=1月11日、沖縄アリーナ(長嶺真輝撮影)

パッと花が咲いたような鮮やかな笑顔でまわりを明るくしたかと思えば、大きな瞳を見開き、キリッとした顔つきでチームメイトに指示を出す。コート上でコロコロと変わる豊かな表情は、見る者を魅了する。 女子バスケットボールプレーヤーの知名祐里のことだ。Wリーグプレミア(1部相当)のシャンソン化粧品シャンソンVマジックに所属する。那覇市出身。1月11、12の両日、沖縄アリーナでENEOSサンフラワーズと対戦し、2年ぶりに地元へ凱旋した。 沖縄県立西原高校を卒業と同時に入団し、今季で5シーズン目。「求められる部分は年々大きくなってきています」。学生の頃から変わらないムードメーカーとしての魅力はそのままに、司令塔を担うポイントガード(PG)として、プレー面ではより地に足がついてきた印象だ。 弱冠23歳にして️“中堅”プレーヤーとなった知名の現在地とはーー。

沖縄アリーナのコートに立ち「一つ夢が叶いました」

ボールをコントロールする知名

11日に行われた1戦目。初めに出番が巡ってきたのは第1クオーター(Q)の残り約3分の場面だった。「メンバーチェンジ、知名が入ります」。アナウンスに反応した地元沖縄の観客が、ひときわ大きな拍手で迎えた。 「自分がコートに入る時は、全力で、100%でプレーしようと思っていました」 試合終了後の会見で発した言葉通り、すぐに存在感を見せる。 ボールプッシュして味方のトランジション3Pシュートにつなげたり、中央からペイントタッチして自らフローターシュートを決めたり。第2Qもそのままコートに立ち続け、ピック&ロールからボールをコントロールし、ゴールへ飛び込んだビッグマンにパスを合わせてイージースコアを演出する場面もあった。 4位シャンソンが堅いチームディフェンスを貫き、71ー52で3位ENEOSを下したこの一戦。知名は18分44秒の出場時間で3得点2リバウンド3アシストを記録した。最大の持ち味であるボールマンへの激しいプレッシャーも随所で見せた。 「祐里ナイス!」「知名いけ!」 試合中、客席からは背中を押す声援もたびたび飛んだ。ENEOSのホームゲーム扱いで開催されたが、知名にしてみれば生まれ育った実際の「ホーム」の地。自身も地元ならではの温かみを感じたようだ。 「アウェーゲームでしたが、観客に背中を押してもらい、私はホームのような感覚で試合ができました。とてもありがたかったです。『沖縄は温かいな』と思ったし、『ただいま』という思いでした。地元のみんなに応援されている、支えられているということをより実感できた『ホーム開催』でした」 コメントの最後に「ホーム開催」と言ったのは、無意識だったのだろう。居心地の良さも手伝ってか、試合中、会見中ともにトレードマークの笑顔が輝いていた。 沖縄アリーナは帰省の度に足を運び、男子Bリーグで強豪の地位を固めている琉球ゴールデンキングスのホーム戦を観戦する「憧れの場所」だ。Bリーグのオールスターゲームや男子FIBAワールドカップも開催され、地元のバスケ熱の盛り上がりを「うらやましい」という気持ちで県外から見ていたという。「いつかこの舞台に立ちたいと思っていたので、一つ夢が叶いました」と満足げに語り、コートを駆けた18分間をかみ締めた。

主力定着を印象付けた昨季、セミファイナルで「輝き」

ハードなディフェンスは学生時代からの武器の一つだ

身長165cmのPGである知名。高校時代は“スピードスター”として鳴らした。堅守速攻を掲げる小柄なチームにあって、速攻の先頭を走ったり、鋭いドライブでディフェンス網を破ったりしてオフェンスをけん引。高校3年時には、西原高校を全国高校総合体育大会で県勢23年ぶりとなるベスト8に導いた。 ルーズボールに躊躇なく飛び込むハートの強さ、味方を生かすアシスト能力もあり、シャンソンから声が掛かって高卒でWリーグ入り。ただ、フィジカルの弱さやビッグマンとのプレーに慣れていない中で、すぐに国内最高峰リーグに適応するのは難しく、デビューした2020-21シーズンから2年間の出場時間は少なかった。 それでも3年目からはベンチスタートのPGとしてゲームコントロールを担うことが増え、4年目となった昨季の2023-24シーズンは主力定着を印象付けるターニングポイントとなった。開幕からローテーション入りを果たすと、このシーズンで優勝を飾った富士通レッドウェーブと対戦したプレーオフセミファイナルで大きな輝きを放つ。 第2戦は無得点ながらチームトップタイの6アシスト。勝負所の第4Qはフル出場を果たし、71ー70というギリギリの逆転勝利に貢献した。最終第3戦は試合こそ72ー93で敗れたが、23分2秒の出場で6得点3リバウンド2アシストに加え、両軍最多の4スティールを記録した。

求められる部分は「年々大きくなってる」

自身としても、成長を実感している部分があるのだろうか。 「正直、自分の中では1年目からやってきたことはあまり変わっていません。ただ、監督から求められる部分は年々大きくなってきています。その分、責任感を持ってやらなきゃいけないという部分はあるので、自覚を持ってプレーしたいと思っています」 所属年数が増えれば、当然チーム内での立ち位置は変わっていく。「責任感」の重さが増したことによる変化が最も顕著に表れているのが、ゲームコントロールの部分だろう。 筆者は2年前のWリーグ沖縄開催の際も知名のプレーを会場で取材したが、当時に比べて闇雲なドライブは明らかに減った。アシストとして数字に残るプレー以外にも、味方にアシストが付く前のパスや、声での指示出しによる存在感も増加。PGとして、コート全体をより俯瞰で見られるようになってきた印象だ。 今シーズンは塩谷心海と森美月という大卒の同級生が入団し、自身と同じく高卒で入る後輩も増えてきた。「まだ年齢は下の方ですが、Wリーグ歴は少し長めなので、自分が伝えられることは伝えていきたいです」と言う。目標は「切磋琢磨しながら、チームとして良くなっていく」こと。同世代の存在が、いい刺激になっている。 一方で、自らの課題にも目を向ける。 1戦目は、若手主体となった終盤の時間帯に相手のオールコートディフェンスに手を焼き、ターンオーバーの数がチーム最多の三つ。「ゲームクロージングの時間帯でドタバタしてしまったので、自分がしっかりボールを保持して、チームメイトを落ち着かせる必要がありました。そのあたりのコントロールは課題です」と振り返る。得点力の部分も含め、まだまだ伸びしろはありそうだ。

バスケットを通して️後進に「伝えたいコト」は…

記者会見で、一つひとつの質問に丁寧に答える

全国的にもバスケ熱の高い県で知られる沖縄。男女とも競技人口は多いが、男子はキングスという球団自体や県勢プレーヤーの存在感が大きい一方、Wリーグでは現在、知名の他にチームの主力を張る県勢は日本代表歴のある安間志織(トヨタ自動車アンテロープス)や伊波美空(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)らに限られる。 ただ、県立高校から直接Wリーグ入りし、試行錯誤をしながら着実に足跡を残し始めている知名の経歴は、沖縄の後進に夢を持ってもらうのには十分なものではないだろうか。自身も、それを望んでいる。 「Wリーグには愛知県とか関東圏の強豪校出身の選手が行くイメージがきっとあると思います。でも、『この小さい島の沖縄から出た私が頑張ってるよ』というところを見せて、沖縄でバスケットをやってる子たちに少しでも『プロを目指したい』と思ってもらえたら、すごく幸いです。バスケットをやっていない子でも、自分たちの試合を見て『勇気や元気をもらったよ』と言ってくれ方もいます。バスケットを通して、いろんなことを伝えていけたらいいなと思っています」 質問した記者の目を真っ直ぐと見据え、自分の言葉で、実直にそう語った。18歳で飛び込んだ国内最高峰リーグで自分のポジションを確立しつつある23歳は、少しずつ自信をまとい始めているように見える。 今年の抱負について聞かれると、ニコニコしながら「今までもずっとそうですが、楽しんでバスケットをすることです」と回答。「その方がいろんな事を伝えられるし、上手くなれると思います。自分が一番楽しむ。自分が好きで始めたバスケットなので」。そう続けて、また表情が華やかな笑みで満ちた。 責任感は増しつつも、背伸びはせず、等身大でバスケットボールと向き合い続ける知名祐里。次に沖縄でプレーする時には、選手としても、一人の大人としても、一段と深みが増していそうだ。

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