コトー・デュ・ヴァンドモワ - 知られざるロワールのアペラシオン
フランスのワイン産地といえば、ボルドーやブルゴーニュ、シャンパーニュなどが有名であるが、ロワール渓谷のAOPコトー・デュ・ヴァンドモワは、栽培面積がわずか125ヘクタールの小さなアペラシオンで、フランス国内でもほとんど知られていない。地元の品種を使い、テロワールの個性を反映したこのワインを知ってもらおうと、地域の生産者たちは積極的な取り組みを続けている。
伝統を守り革新を続ける少数精鋭の生産者たち
コトー・デュ・ヴァンドモワの生産者は8軒の個人栽培家と1軒のワイン協同組合(会員3軒)のみ。これらの栽培家の多くは他の農業との兼業で生計を立てているが、ワイン造りには熱心で、伝統的な手法と現代的な技術を取り入れた醸造を行っている。2024年11月18日に、パリ市内の「オー・クロワートル・ウヴェール」にて、プロフェッショナル向けの試飲会が開催され、全生産者のワインが紹介された。
AOPコトー・デュ・ヴァンドモワのブドウ畑は27カ村に広がっている
AOPコトー・デュ・ヴァンドモワの年平均生産量は5000hl。赤ワインが50パーセント以上を占め、それ以外は「グリ」と呼ばれるロゼワインと白ワインがほぼ半々の割合となっている。
赤ワインの主要品種はピノー・ドニスで、最低40パーセント使用しなければならない。補助品種としてカベルネ・フラン、ピノ・ノワール、ガメイが認められている。一方、「グリ」と呼ばれるロゼワインはピノー・ドニスのみが認可され、直接圧搾して醸造することが義務付けられている。白ワインの主要品種はシュナンで、補助品種としてシャルドネが使用される。活力のある辛口白ワインが主体だが、遅積みによる甘口ワインを造る生産者もいる。
この地域の土壌は全体的に粘土質(粘土12~14パーセント)で、特にピンク色の小さな燧石が多く含まれており、場所によっては石灰岩が露出しているため、ワインにミネラル感と独特の風味を与えている。ブドウ畑は南向きの斜面にあり、ロワール川から約1.5kmの範囲に広がっている。ロワール川に守られた独自のミクロクリマがあり、年間降雨量は650mmと少なく、この気候条件がブドウの生育に理想的な環境を作り出している。
千年以上の歴史を持つピノ・ドニスの伝統と継承
コトー・デュ・ヴァンドモワのワインを大きく特徴づけているのは、1000年以上前からこの地方に存在するといわれる黒ブドウ品種ピノー・ドニス(Pineau d‘Aunis)である。9世紀にはアンジュー地方ですでに存在していたという記録が残っている。ピノーと名がつくが、ピノ・ノワール(Pinot Noir)とは全く関係がない独自の品種だ。20世紀の半ばころまで、ロワール地方全体で1800haのピノー・ドニスが栽培されていたが、その後、徐々に引き抜かれ"高貴な品種"といわれるカベルネ・フランやピノ・ノワールに入れ替わり、栽培面積は約500ヘクタールにまで減少した。
現在もアンジューやトゥーレーヌなどの地区で補助品種としてブレンドに用いられているが、ピノー・ドニス100パーセントのAOPワインを生産するのはコトー・デュ・ヴァンドモワのみである。この貴重な品種を最適に栽培し、かつ保護する目的で、1997年にロワール・エ・シェール県のナヴェイユにあるモントリューの上部に、ピノー・ドニスの実験農園が設立された。1995年から1996年にかけて、ロワール・エ・シェール県、メーヌ・エ・ロワール県、アンドル・エ・ロワール県、サルト県の四つの県から、350系統のピノー・ドニスの穂木を採取し、グルヴェサックを台木として接ぎ木を行い、1996年と1997年に、系統ごとに7株ずつ植樹された。この実験農園では、それぞれの系統の糖度、酸度、房数などを記録し、土壌、台木、気候、病害への耐性、樹勢、収量、ブドウの官能特性、ワインの特性などのパラメーターに基づいて、将来的な品種改良や栽培技術の向上に活用している。
ピノー・ドニスのワインは、コショウや丁子を思わせるスパイシーなアロマがある一方で、フルーティーでフレッシュな心地よさがある。一般に若いうちに飲むワインとされているが、醸造法や樹齢などによって、構造のしっかりした熟成向きのボトルもあり、多様な楽しみ方ができる。「グリ」と呼ばれるロゼワインも、単なるフレッシュで飲みやすいロゼの域を超えて、ピノー・ドニスの個性が表れた味わい深いワインとなっている。
手の届きやすい価格とパリから近い恵まれた立地とアクセスの魅力
価格面でも魅力的で、赤ワインが1本10ユーロ前後、最も高い特別キュヴェで約20ユーロ。ロゼや白ワインは10ユーロ以下のものが大半を占め、コストパフォーマンスは抜群である。また、「知られていないワイン」を飲む楽しさもある。近年、その品質の高さから注目を集め始めており、特にアメリカ市場で人気が高まっている。
パリからTGVでわずか41分という好立地も、この産地の魅力の一つだ。ワイナリー訪問やテイスティング、地域の伝統的な料理とのマリアージュなど、ワインツーリズムの可能性も広がっている。