伊藤蘭【最新ライブレポ】哀愁のシンフォニーで紙テープ復活!アンコールでは趣里と初共演
いつも以上にファンの熱度が高まった伊藤蘭ツアーファイナル
2019年の奇跡のソロデビュー以来、毎年コンサートツアーを展開している伊藤蘭。2024年から2025年にかけて行われてきた『伊藤 蘭 〜Over the Moon〜 コンサートツアー 2024-2025』のツアーファイナルが、1月25日に有明の東京ガーデンシアターで開催された。昨年5月にEXシアター六本木で行われたスペシャルライブ以来の紙テープ解禁ということもあり、いつものコンサート以上にファンの熱度が高まっていた。
開演30分ほど前、伊藤蘭のコンサートは初開催となる広い会場を訪れると、周辺はキャンディーズ時代からとおぼしきファンで溢れかえっていた。最近では様々な場面で最年長になってしまうことが多い自分もここでは若造なので、入場後は控え目にロビーを歩く。頃合いを見計らって席につくと、左隣は男性2人連れ、右隣は仲の良さそうなご夫婦で、周りで1人客は自分だけのようだった。ちょっと孤独感。しかし、みんなが目指すところは一緒なので連帯感も感じられるのだ。
この日の紙テープ投げ解禁は「哀愁のシンフォニー」の歌唱時のみと予めアナウンスされていた。自分は中学生時代に滑り込みでキャンディーズのコンサートを観られた幸福な人間なのだが、それが1978年4月4日の後楽園球場での『ファイナル・カーニバル』で、最初で最後の機会だった。その際、「哀愁のシンフォニー」のサビで夥しい数の紙テープが球場の天空に美しく舞うのを見て呆然としていると、隣にいた大学生らしき知らないお兄さんが何も用意していなかった自分にそっと紙テープを渡してくれた。それを有り難く受け取り、2番のサビで一所懸命投げたことを思い出す。
もしかするとその時の大学生が隣にいらっしゃる友人連れの1人か、ご夫婦の旦那さんかもしれない、その可能性は限りなく低いが決してゼロではないぞ、などと考えていたら開演前から胸が熱くなってきた。そんな中、開演予定時刻の17時を5分ほど過ぎたところでコンサートがスタートする。
序盤から「アン・ドゥ・トロワ」、「やさしい悪魔」などのキャンディーズナンバーが
撮影:近藤みどり
黒のライダースジャケットで颯爽と登場した伊藤は、セカンドアルバム『Beside you』からの「ICE ON FIRE」「恋するリボルバー」、サードアルバム『LEVEL 9.9』からの「なみだは媚薬」の3曲を披露した後にMC。“ランちゃーん!” の歓声があちこちから飛ぶ。観客に若い人たちの姿が見られるのも嬉しい。
序盤から早速キャンディーズのナンバーへ。リアレンジによる「アン・ドゥ・トロワ」に「やさしい悪魔」、そして「銀河系まで飛んで行け!」と、吉田拓郎による提供楽曲のパートとなる。拓郎節とキャンディーズの相性はバツグンだ。
バンドメンバーが紹介された後、ジャケットを脱ぐとシルバーに輝くワンピース姿となり、『LEVEL 9.9』から「FUNK不肖の息子」「明日はもっといい日」「Shibuya Sta. Drivin’ Night」の3曲が披露された。MCを挟み、スタイリッシュな令和のシティポップ「Shibuya Sta. Drivin’ Night」で伊藤に新境地を拓かせてくれた安部純による新曲「風にのって~Over the Moon」とそのカップリング曲「大人は泣かない」が歌われて一旦休憩となる。
撮影:吉原朱美
エッジの効いた初期のシングル曲「危い土曜日」
後半はいよいよ会場がより一体化するキャンディーズゾーンに突入。かつてのバックバンド、MMPのナンバー「SUPER CANDIES」が演奏された後、赤いフリンジのワンピースに身を包んだ伊藤が登場し、大歓声の中、エッジの効いた初期のシングル曲「危い土曜日」と「その気にさせないで」で始まった。続いての「わな」はミキのメインボーカル曲だったことからずっと歌われてこなかったが、今回のツアーで初めて披露された。伊藤のソロバージョンはキャンディーズ版とはまた違った趣があっていい。
ここで一旦MCを挟む。全曲メドレーだとあっという間に終わってしまうので、惜しみつつ歌われている感じがなんとも愛おしい。「わな」の歌詞に紅茶を入れるくだりがあり、そこを拾って名前は出さないまでも水谷豊を想わせた話は客席に和やかな笑いをもたらしていた。そしてまた3曲、「ハートのエースが出てこない」「年下の男の子」「暑中お見舞い申し上げます」。あの頃のフレッシュさがまったく損なわれていないことがとにかく凄い。ランちゃん特有の魅力的なしゃくり歌唱も健在なり。というか今の方が新鮮かも。
イントロから待ちきれない人々が早くも紙テープを投げ始める「哀愁のシンフォニー」
撮影:近藤みどり
いつまでも聴いていたい当時の想い出話を挟んだ後に、代表曲のひとつ「春一番」、そして待ちに待った「哀愁のシンフォニー」である。待ちきれない人々が早くもイントロから紙テープを投げ始める。サビを迎えると、熟練のファンたちが綺麗な弧を描きつつ一斉に投入。アリーナ席から見上げると、2階3階からも続々と放たれてたちまち足もとが色とりどりの紙テープで埋めつくされた。客席からの眺めでも感動してしまうくらいだから、ステージ上から見る光景はさぞかし圧巻なのだろう。
作詞・なかにし礼 × 作曲・三木たかしコンビが唯一キャンディーズに書いたシングルA面曲である「哀愁のシンフォニー」は、アイドルパフォーマンス的にも歴史に残る1曲となった。華々しいテープ投げを煽る要因となった馬飼野康二のアレンジも忘れてはならない。MCで感謝の弁が述べられた後、キャンディーズコーナーのラストとなる「微笑がえし」でステージは一旦幕を閉じる。
アンコールでサプライズゲストの趣里が登場
撮影:吉原朱美
アンコールの声と手拍子を受けて再びステージに現れた伊藤は、ターコイズブルーのワンピース姿が麗しかった。『LEVEL 9.9』からの「美しき日々」が歌われたところで、予想し得なかったサプライズゲストが呼び込まれる。なんと愛娘である女優の趣里が駆けつけたのだ。思いも寄らぬ母娘の初共演を目の当たりにして、会場は興奮のるつぼと化した。もちろん自分もその1人で、その場に居合わせられたことを心から感謝した。あちこちから “趣里ちゃーん” の大歓声。それまでわりと静かだった隣の夫人が “趣里ちゃーん! 可愛い!” と急に叫び出したことで事の重大さをより実感させられた。
伊藤に促された趣里は、NHKの朝ドラ『ブギウギ』の記憶も新しい中、ドラマで演じた笠置シヅ子の「買物ブギー」と「ラッパと娘」を熱唱。見事なパフォーマンスに会場中が魅了されている様子が窺えた。
最後に2人で歌われた「春になったら」を聴きながら、自分も思わず涙腺が緩んだ。ツアーファイナルを飾るに相応しい最高のステージを魅せてくれた伊藤蘭。長年のファンでいられたことを誇らしく思えた夜だった。本当に勝手な思いなのだが、ファンにそれを抱かせてくれるアーティストはなかなかいない。嬉しいことにこれからもずっと歌い続けてゆくことを宣言されているので、今年もさらなる活動が期待される。47年前の後楽園で必死に紙テープを投げていた中坊も間もなく還暦になりますが、まだまだついて行く所存であります。