居酒屋の中に居酒屋が⁉ 日野市豊田『ななや』と『まいど』、名店が入れ子状になったビルでほろ酔い【たまらんB面】
東京都の西側、多摩地域全30市町村を歩き回って徹底調査する【多摩のA面/たまらんB面】。1カ所めは「日野市」。中央線の「豊田止まり」でおなじみ豊田は、JR車両基地やメーカーの拠点もある“働く人の街”。その駅近くのビルに……「居酒屋に内包された居酒屋」が!?各市町村の気になる話題・心ひかれるスポットを深掘るサイド。【日野市のB面】をレポートします。
【多摩のA面/たまらんB面】とは
東京都の西側、23区以外のエリアにあたる多摩地域。このエリアに越してきて日が浅い筆者が、30市町村を1つずつ歩き回って調査!1つの市町村ごとに街の見どころを紹介する【A面】と、気になるテーマを深掘りする【B面】の二部構成でレポートします。
日野市 DATA
面積……27.55平方㎞
人口……18万8477人
豊田駅北口で発見。居酒屋の中を通って入る居酒屋……どういうこと⁉
中央線に乗って立川駅を過ぎ、日野駅の1つ隣が「豊田駅」。JRの車両基地や大手メーカーの拠点が多い、知られざる“働く人の街”です。
夕どき、豊田駅北口にある飲食店街の一角。ビルの1階にある焼き鳥居酒屋『まいど 豊田店』の前には行列ができます。この人気店の魅力は、のちほどじっくりお届けするのですが……!
その店先に、気になる看板が。
『日本酒場 ななや』。
……「『まいど』入口を入って左側の階段をお上がりください」?
一度、他の居酒屋を経由しないと入れない居酒屋とは……摩訶不思議。
でもたしかに2階部分に、『日本酒場 ななや』という独立したお店が存在します。じつはこのお店、立地もメニューも唯一無二、豊田きっての人情酒場なのです。では早速!
小部屋がまるごと、『日本酒場 ななや』というお店になっているではありませんか!
ちなみにこのフロア、『ななや』部分の向かいは『まいど』の団体用2階席になっている。『ななや』は『まいど』に内包された“居酒屋の中の居酒屋”とも言えます。
そして、お店の中はこんな感じ。
「おかえり〜」と出迎えてくれるのは、1人でこの店を切り盛りする女将のななさん(常連さんは、それに「ただいま〜」とレスポンス)。
店名『ななや』は、かつての愛猫・ななちゃんから名付けたそうです。いつしか女将さん自身も「ななさん」と呼ばれています。
居心地良すぎる小部屋!『日本酒場 ななや』で酒と肴に歓喜
『日本酒場』とつくだけあって、四季折々の日本酒と、おばんざい風の和食がメイン。
日本酒、多い時は40銘柄ほどの取り揃えとのことですが、これは冷蔵庫の写真をドーンと見ていただくのが早いでしょう!
春の限定酒「緑川 霞しぼり 生」を筆頭に、季節の美酒がぎっしり。各地の酒屋さんから寄せられるホットな入荷情報をもとに、ななさんが仕入れています。
さらに、酒通の常連さんたちが旅先で、地元でしか出回らないような品を買い付けてくることも(もはやバイヤー!?)。
「いいお酒があったら、現地から遠慮せずにどんどん送ってこいと(笑)。この前も、『にいがた酒の陣』に行った若いお客さんたちが、変わったのを見つけて来てくれて」
そして、お待たせしました。自慢の料理!
午後のうちにたくさんの料理を仕込んでおき、いろいろな小鉢をワンプレート式に提供するスタイルが多いそう。もちろんその時々の腹具合により、品数の増減や単品注文も可能です。「こんなのあります?」と遠慮なく聞いてみましょう。
ちなみに、取材日は3月中旬。とある木曜日の一例はというと……。
手前から時計回りに、卯の花、春ガツオと新玉ねぎの“土佐風”、白魚の沖漬け、菜の花としめじのおひたし&蒸し牡蠣。奥に、手羽先の甘唐揚げ。そして……、
もう一品、春キャベツと豚の「巻き巻き」。先の小鉢一式と合わせ、月〜木曜だとここまで1000円前後。
しかもどうやら、金曜には、刺し身などの品数がプラスされた豪華バージョンが用意されるとか。その花金セットの通称は、ななさん命名の「おしきせ」。
あらためて、食べに伺いました。とある金曜のラインアップもどうぞ!
小鉢は左手前から時計回りに、羊羹とクリームチーズ、茄子と豚バラの甘辛炒め、赤エビの出汁漬け、クリームチーズとねぎ味噌、桜エビとターサイの炊いたの、牡蠣とホタルイカと菜の花のアーリオオーリオ。中央に、穴子の卵巻き、鰯の胡麻にぎり。そして……!
この日はヒラマサや本マグロを含む刺し身盛り合わせが、「おしきせ」に加わりました! 金曜特別セットの「おしきせ」は、この分量で一式2000円前後。懐にも優しい……。
海鮮に舌鼓を打ったのはもちろん。出回りたての春野菜、甘みが豊かなこと……!
盛り合わせ好きな筆者が夢想する、「もしケーキでなく酒肴で作られたアフタヌーンティーがあったら」。それがまさにコレ。大歓喜のシステムです。しかし、一気にこの品数を下準備するの、大変なのでは……?
「日本酒に合うものをひたすら、作ったり考えるのが楽しいんです!」
心強い。こうなるとますます、お酒が恋しくなります。
日本酒、飲むのは好きだけど、蔵の名前や精米歩合に疎くて……という、筆者のようなタイプでも安心。「スッキリ」「今の季節の」など好みを伝えれば、ジャストなお酒を見繕ってくれます。価格は、もっきり(一合)1000円~。
日本酒以外の個性派ドリンクも、必見。
まずは、翠靄(すいあい)ジントニック700円。ベースの「翠靄」とは、お隣・八王子市産の知る人ぞ知るクラフトジンで、香りと風味が格別です。
続いて、キャンドルソーダ700円。芋焼酎に、栃木の人気酒蔵特製「鳳凰美田 ゆず酒」を加え、炭酸で割ったドリンク。ゆず皮の苦みも相まって、「これしかないっ!」という組み合わせ。
ぼんやり飲みながら店内を見まわしても、気になるところが多いんです。「基本的に食べていい」ということになっている、机の上の食材や……、
暇さえあると、ななさんがクレバスやクレヨンで描いているというイラスト。日本酒のラベルにある絵を模写したものが多いそう。
そうこうしていると、常連さんが続々「ただいま〜」と入店。
上写真の左手前は、U40世代が多数来店するキッカケを作ったという「まっちゃん」。奥に、日本酒は「八重寿」ひとすじという「イノさん」。ななさんも加わり、談笑が続きます。
そうそう、いちおう本記事でもこのお店の営業時間を記したいところ、なのですが!
ななさんいわく「女将がいる時が営業時間」。コアタイムは夕方〜夜早めですが、午後の仕込みの時間帯にななさんが店内にいれば、入って飲んでいいらしい。「とにかく現地に行ってみるべし」なお店なのです。
初心者にもウエルカムな常連さんたちは、近隣企業にお勤めの方が多いようです。最近の豊田はマンション新築ラッシュで、若いご夫婦などもちらほら。
そして、決まった曜日の早め時間帯には、年配のご近所さんによる定例会も開かれており……。
「独居の方もいるしね。旬のものを出して、極力、季節を感じられるように。あと、人って他人と1週間しゃべらないと、声も出なくなるのよ。だからシニアの会では、お店に入って大きな声で『ただいま』って言うまでお酒出してあげない。デイサービスみたいだけど(笑)」
ななさんはそう冗談まじりに言いますが、長年住み慣れた街にこんなサードプレイスがあったら、どんなに心強いでしょう。
『日本酒場 ななや』の開業は、2018年。
じつは元・美容師で、その後飲食の世界で長く働いていたななさん。自身も料理やお酒を介した商いを楽しみつつ、周りから「ななさんの店をやってほしい」というたくさんの声を受けていました。
独立をめざして店舗を探していた折。たまたまよく寄る店の1つだった『まいど』のオーナーさんからこの場所の空きを知らされ、開業に踏み切ったそう。
主軸にするお酒は、同じくらい愛するシェリー酒と迷った末、日本酒に。家庭的な料理と一緒に味わう店としてスタートしました。
ちなみにこの小部屋、『ななや』になる前もなんと、別の個人経営のイタリアンバルが入っていたとのこと。バル時代から、中身が変わっても通うお客さんもいます。
しかしやっぱり、別の居酒屋を通ってから行くこの立地、不思議ですよね。窓に『ななや』と貼ってあるので、外からも一応わかるんですが……。
「もともと、この窓辺には何も置いてなくて、カーテンもなくて。開業したてでお客さんが全然いない時、外に向かって手を振ってたの。それを見て気づいて2階まで上ってくれた人は、いまでも常連さんよ」
ウッ、いい話じゃないですか。今、そのスペースは、たくさんの『ななや』ファンが買い集めてきた花や記念品で埋めつくされています。
「とりあえず一杯‼」帰り道のオアシス『まいど 豊田店』
さて、冒頭で気になりましたよね!1階部分をメインに店舗を構える『まいど 豊田店』をご紹介しましょう。
オレンジ看板の『まいど』ブランドのお店、じつは隣の日野駅のほか、新小平駅など多摩地域に複数軒あります。
焼き鳥がメインで、立ち飲み+テイクアウトという業態は共通していますが、独自メニューや雰囲気において各店の個性が際立っている。いつか全店巡礼したい……。
この豊田店では、ウッディーな内装が目をひきます。混む時間帯には2列のカウンターがパンパンになり、「豊田の職場を出たばかりの人」と「都心から豊田に帰ってきた人」とが入り混じるオアシスに。
まずはオーナーさんこだわりの味・もつ煮と、アサヒ 黒生ビールで一杯。もつ煮は具だくさんで、ショウガの隠し味が効いており……噂では『まいど』各店と一味違うという、豊田店渾身の一品です。これは、飲ませる〜!
串もの系も続々。左から皮、ぼんじり、ひざ軟骨、軟骨、かしら、ししとう。味つけはお任せしたところ、塩で焼き上げてくださいました。皮はカリッと、ひざ軟骨はコリッと。しみ出る脂がたまりません!
日により異なる単品メニューも、ついつい頼みたくなる気軽さ。
八王子で収穫した米で作った「髙尾の天狗 純米吟醸」もいきましょう。上の『ななや』で味わった八王子産ジン「翠靄」につづき、ここでも隣町の風を感じます。
サッパリ系を追加で、もろキュウとねり梅。この30円のねり梅、絶妙な存在! 通は、焼き鳥につけて梅肉風にしたり、サワーに溶かしたりするそうです。あなた次第でカスタマイズ!
あらためて、『まいど』の看板に添えられたコピーにズームアップ。
「ちょっと一杯!! 立ちのみで一杯!! とりあえず一杯!!」
おいしくて手頃で、誰もがこのキャッチの通りに「一杯!!」やりたくなるでしょう。豊田の立ち飲みラバーにとっては、帰り道までの関所になりそう。
筆者がお邪魔した宵の口。立ち飲みコーナーはお客さんの入り始めですが、家庭用テイクアウト販売はすでにピークタイムに。厨房と焼き台はフル稼働でした。
1階の『まいど』で立ち飲みを楽しみ、2階の『ななや』に上がって日本酒でゆっくり。ハシゴ飲みならぬ“階段飲み”を行うベテランも、当然いらっしゃいます。
この2店を行き来するのは、お客さんだけではありません。『まいど』で働く若いスタッフさんたちは必ず、シフト出勤時に上階に上って、“もう一つの店”のななさんに明るく声をかけていきます。
筆者が両店舗に訪問していた3月は、ちょうど卒業式シーズン。『まいど』で働いていた学生アルバイトさんが、『ななや』に大学の卒業報告をしに来られたひとコマもあり。ちょっとグッときてしまいました。
……と、この素敵な話で、日野市豊田の“名ビル”ルポを締めたいのですが。これは最後にどうしても!
1階『まいど』店頭で、自宅用に購入した焼き鳥。
四方を完全密封された紙パックに入っていて、タレを全くこぼさず運搬できました。時間が経っても旨味をキープ。これ、一体どういう機械で圧着してるんですか〜!
気になる。すぐ豊田を再訪せねば!
日本酒場 ななや
住所: 東京都日野市多摩平1-10-7 加藤ビル2F/営業時間:夕方頃~22:00/定休日:土・日・祝/アクセス:JR中央線豊田駅から徒歩2分
まいど 豊田店
住所:東京都日野市多摩平1-10-7 加藤ビル1F/営業時間:16:30〜21:30(テイクアウトは16:00〜)/定休日:日・祝/アクセス:JR中央線豊田駅から徒歩2分
取材・文・撮影=イーピャオ
イーピャオ
ライター
1989年東京都生まれ。週刊少年ジャンプのコラム「巻末解放区!WEEKLY週ちゃん」を連載中。小山ゆうじろう氏との漫画『とんかつDJアゲ太郎』で原案担当。個人冊子レーベル「いきいき発信プラザ21」にてZINE「多摩と酒」などを発行しています。