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児島虎次郎記念館グランドオープン(2025年4月3日)~ 地域に親しまれた歴史ある銀行建築で、大原美術館の原点となる作品を鑑賞しよう

倉敷とことこ

児島虎次郎記念館グランドオープン(2025年4月3日)~ 地域に親しまれた歴史ある銀行建築で、大原美術館の原点となる作品を鑑賞しよう

児島虎次郎(こじま とらじろう)を知っていますか。

倉敷美観地区にある大原美術館が開館するにあたり、実際に世界中を自分の足で歩いて、モネ、マティスなど数々の「当時の現代作家」の作品や、エル・グレコ《受胎告知》などを購入しつつ、自分の作品を次々と発表した高梁市成羽町出身の洋画家です。

倉敷美観地区の歴史だけでなく、日本の洋画史を語るうえで欠かせない児島の作品と、世界中で収集した作品を収蔵し、展示する児島虎次郎記念館が、2025年4月3日(木)にグランドオープンしました。

阿智神社のふもと、倉敷公民館の向かいという、倉敷美観地区の中心地にできた倉敷の歴史を発信する新たな美術館に行ってきました。

児島虎次郎記念館の建物について

児島虎次郎の作品や収集作品は、大原美術館開館当時から本館や分館で展示され、1972年から2017年まで、倉敷アイビースクエア内の「児島虎次郎記念館」で展示されてきました。

倉敷アイビースクエアにあった施設の老朽化に伴い、貴重な文化財を保存・展示するのにふさわしい環境を継続することが困難になったため移転新設オープン。

二期に渡る工事期間を経て、2025年4月3日(木)に新しい児島虎次郎記念館が開館しました。

・第一期(2020年7月着工):建築の工事
・第二期(2024年6月着工):展示室の工事

児島虎次郎記念館の建築

児島虎次郎記念館は、国の登録有形文化財に指定されている旧中国銀行倉敷本町出張所をリノベーションした施設です。
大原美術館 本館と同じく、薬師寺主計(やくしじ かずえ)が建築設計しました。

2016年に中国銀行より大原美術館へ寄贈されたこの建物は、倉敷市民の銀行として同年まで実際に営業していました。
給与の受け取りなどで、利用した経験のある人もいるのではないでしょうか。

国の登録有形文化財に指定されている煉瓦や木造の保存棟の外観は当時と変わりませんが、鉄筋構造の新設棟が増築されました。このため、全体で959平米、三つの展示室およびレクチャールームなどで構成されています。

ネオ・ルネサンス調の円柱やステンドグラスなど歴史を残した建物ですが、入り口にはスロープがあり、館内にはユニバーサルトイレやエレベーターも設置されています。

老若男女障がいの有無に関係なく作品鑑賞を楽しめる美術館です。

アプローチにはスロープを設置
館内に設置されたエレベーター
受付横には、バリアフリートイレも整備

三つの展示室

展示室は、三部屋あります。

受付を抜けて最初に足を踏み入れる展示室1は、銀行の窓口カウンターを残した吹き抜けの部屋。
高い天井からは自然光が入り込み、明るく開放感のある展示室です。

展示室1

この部屋には、児島虎次郎が収集した、古代エジプトや西アジアの彫刻やガラス作品といったオリエント美術が並びます。

展示室2
展示室3

鉄筋建築の新設棟一階にある、展示室2と二階にある展示室3は、窓のない展示室です。児島虎次郎が描いた作品が並びます。

定期的な展示替えを予定しているとのことですが、現在は1930年(昭和5年)の大原美術館開館時に展示された、児島虎次郎作品を中心に公開されています。

児島虎次郎記念館がクローズアップする「児島虎次郎」とは

大原美術館開館にあたり、創立者の大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)は、児島虎次郎の記念館を開館したいという想いももっていたとのこと。

そのため、児島虎次郎記念館開館は、大原美術館にとっても95年ぶりの悲願となる施設なのだそうです。

児島虎次郎とは、どのような人物なのでしょうか。

洋画家としての児島虎次郎

児島虎次郎は、1881年生まれの洋画家です。

《朝顔》を鑑賞する筆者(高石真梨子)

1901年、虎次郎は絵画修業のため上京し、翌年、東京美術学校、現在の東京藝術大学に進学。
本来4年間の課程を2度の飛び級によって2年で修了し、さらに研究科(今でいう大学院)で学びました。

虎次郎が在学時に制作した作品《なさけの庭》は、宮内省(当時)お買い上げの栄誉も受けました(現在は皇居三の丸尚蔵館所蔵)。

《なさけの庭》 ※高梁市成羽美術館にて展示されている、参考図版を撮影

1908年よりヨーロッパへ留学し、1912年にベルギーのゲント王立美術アカデミーを首席で卒業。

ヨーロッパで光と色彩に目覚めた児島は、日本に帰国して倉敷市酒津に居を構えた後も国内外の人物を中心に鮮やかな色彩の洋画を描きました。

収集家としての児島虎次郎

児島は、ヨーロッパで画家としての才能を認められながら、同時に「日本に住む画学生や一般の人々に本物の洋画を見せたい」という理念をもって作品の収集を開始しました。

大原美術館の創設者大原孫三郎の支援を得ながら、ヨーロッパ3回・中国朝鮮4回と、自らの絵画修業と美術品収集のために国々を奔走しました。

当時のヨーロッパへの渡航は、片道だけで約1か月半を要する過酷な船旅です。
それでも虎次郎は精力的に渡航して海外の作品を収集し、大原美術館の礎を築きました。

大原美術館本館では、児島が収集した作品をはじめとした西洋画が展示されている

収集したのは絵画作品だけではありません。
世界の多様な文化に魅せられた児島虎次郎は各国の美術品も集めました。特に古代エジプトには強い思い入れがあったようで、いくつもの遺物や美術品を収集したほか、実際にエジプトの地にも寄港。

まとまった西洋画やオリエントの古美術をコレクションとして収集した画家は、日本で初めてだとも言われています。

展示室1で展示している古美術

児島虎次郎記念館の目指す姿

児島虎次郎記念館は、以下の機能を担います。

・美術作品の展示・保存
・教育普及・鑑賞支援事業の拠点
・研究機関機能
・建物の保存・活用

児島虎次郎の理念である「日本に住む画学生や一般の人々に本物の洋画を見せたい」には、社会貢献の意識が垣間見えますね。

大原美術館も、長年教育普及活動に力を入れています。
児島虎次郎記念館のレクチャールームは、教育普及・鑑賞支援事象の拠点としても期待されます。

大原芸術財団には児島虎次郎に関する資料が多数そろっているとのことなので、今後その資料を活用した研究や展示も楽しみです。

吉川あゆみ(よしかわ あゆみ)さん

大原芸術財団特命上席研究員 吉川あゆみ(よしかわ あゆみ)さんは

「児島虎次郎の作品はどれもかわいらしくて、つい近づいて眺めたくなるような作品ばかりです。
銀行建築をミュージアムへと活用した当館は、倉敷らしい親密さのあるスケール感。
コンパクトな建築に小ぶりな作品が数多く並ぶミュージアムだからこそ、こまめに展示替えをしていきたいです」

と語ります。


69の企業からの企業版ふるさと納税を活用した、整備応援プロジェクト

児島虎次郎記念館開館の準備が始まったのは2020年。
新型コロナウイルス感染症拡大対策のため、倉敷美観地区の観光客が減少していた頃です。

そのようななか「倉敷美観地区の活性化を図りたい」との思いから、倉敷市企業版ふるさと納税を活用した「児島虎次郎記念館設備整備及び周辺活性化事業」を申請しました。

無事に採択され、全国69社から集まった約2億2,800万円の企業版ふるさと納税と、倉敷市からの補助金1,000万円が加わり、2025年3月27日(木)に大原芸術財団へ贈呈されました。

贈呈式のようす(左から三浦篤大原美術館館長、大原あかね代表理事、伊東香織市長)

贈呈式では、伊東香織(いとう かおり)倉敷市長から、

「昔からの倉敷の芸術を見られる場所なので、新たな地域の回遊性・発信の場として期待したいです」

とのコメントとともに、大原あかね(おおはら あかね)大原芸術財団代表理事に贈呈書が手渡されました。

贈呈書を受け取った大原代表理事は

「企業版ふるさと納税を活用することで、全国のさまざまな企業とつながれました。
みなさまへのお礼を伝えるのと同時に、これからも私どもの活動の幅を広げることをお約束してお礼の挨拶といたします」

と感謝を述べました。

2025年3月6日(木) プレオープンのようす

2025年4月3日(木)のグランドオープンを前に、3月6日(木)には一般向けのプレオープンが開催されました。

私が足を運んだ午前中は、常に新しいお客さんが入ってきて大盛況。

お友達同士で和気あいあいと鑑賞するグループも一人でじっくり鑑賞する人も、高揚感にあふれていました。

プレオープン当日の展示室1

展示室1にある児島の収集作品は一つひとつは小ぶりなものばかり。しかし、ケースが等間隔に並んでいるので好きな作品から順に鑑賞できるので、人が多くてもそれぞれのペースで鑑賞できます。

展示作品にまつわるエピソードも随所で解説されているので、展示作品を鑑賞しながら収集したようすや当時の人々が初めて西洋画や海外の古美術に触れたようすが目に浮かぶような気もしました。

建物自体はコンパクトですが、一つひとつの作品をじっくり眺めていると時間があっという間に過ぎてしまいます。

プレオープン当日の展示室2

2025年4月3日(木) グランドオープンのようす

プレオープンから約一か月後の4月3日は、児島虎次郎の誕生日
この日に合わせて、児島虎次郎記念館がグランドオープンしました。

午前9時30分から始まったグランドオープンセレモニーは、この日を祝うような青空。
倉敷川沿いには桜も咲き、この地にまつわる故人にも祝福されているような春の陽気のなか、企業版ふるさと納税の寄附企業や観光客に見守られながらセレモニーが始まります。

挨拶をする大原あかね代表理事

大原あかね大原芸術財団代表理事は、オープニングに先立って以下のようにコメントしました。

大原あかねさんのコメント

児島虎次郎記念館は、大原美術館の創立者である大原孫三郎が切望した美術館です。
きっと孫三郎や児島虎次郎、そしてこの建物を設計した薬師寺が、どこかで『100年後のやつらよく頑張ったな』、そうやってほほ笑みながら見てくれているのではないかと思います。

この児島虎次郎記念館から新しい価値観が生まれ、それを生かしながら、倉敷市民だけでなく世界中の人たちと未来を歩きだしたいです」

その後、来賓の伊東香織市長、中国銀行の加藤貞則(かとう さだのり)頭取、倉敷商工会議所の井上峰一(いのうえ みねひと)会頭とともにテープカット。

この日を待ちわびた来館者が、続々と入館しました。

開館に寄せて、三浦篤(みうら あつし)館長に話を聞きました。

大原美術館館長 三浦篤さんインタビュー

児島虎次郎記念館のグランドオープンにあたり、三浦篤(みうら あつし)館長に話を聞きました。

三浦篤館長

──児島虎次郎記念館がグランドオープンした今の気持ちを、聞かせてください

三浦(敬称略)──

感無量の一言に尽きます。

というのも、大原美術館の設立者である大原孫三郎は、当初児島虎次郎の功績をたたえる美術館をつくりたいと願っていました。
しかし、紆余曲折あって現在の大原美術館本館は、児島が海外から買い付けた西洋画を中心とした作品で構成されています。

また、この建物は倉敷銀行・中国銀行倉敷本町出張所として活用されていたもので、大原家とも縁のある建物です。
この場所を、児島虎次郎記念館として活用することには歴史的な意味もあると考えています。

展示室1

大原美術館本館の開館から95年が経ったこのタイミングで、大原孫三郎と児島虎次郎の友情の証を記念館として残せてうれしい気持ちです。

──近くに大原美術館本館もありますね。児島虎次郎記念館はどのような展示を展開していく予定ですか

三浦──

展示室1をご覧いただくとわかるように、当館では児島虎次郎の収集した古美術を数多く所蔵しております。
順次展示替えをしながら、代表作をはじめとする質の高い収集作品を展示していきたいです。

また、大原芸術財団には児島虎次郎に関する資料が膨大に残っております。この資料には、作品だけでなく書簡や日記なども含まれているんですよ。

それらの資料を整理することも、私たちの使命です。
2025年3月には、大原美術館のホームページにて「児島虎次郎 油絵目録」の公開をしました。

今後は、当館にて作品と資料を相互に見られるような展示をしていきたいと考えています。

──企業版ふるさと納税に、69の企業から寄附がありましたね

三浦──

予想以上にたくさんの企業様から寄附をいただけて感謝でいっぱいです。
これは、大原美術館の今までの活動の成果のひとつだと思っています。

大原芸術財団の活動を支えたいと思ってくれる人にご来館いただき、児島虎次郎の魅力を倉敷から全国へ発信し続けていきたいです。

──児島虎次郎記念館には、どのような人に来てもらいたいですか

三浦──

まずは、倉敷に住む地元のかたがたや企業版ふるさと納税にご賛同いただいたかたがたに来ていただきたいです。

地元のみなさまにここに来て児島虎次郎の作品を味わっていただき、そこで感じた想いを全国、世界中のかたに知っていただければうれしいです。

文化の灯(ともしび)を、ここ倉敷から世界中へじわじわと広げていく場になってほしいですね。

プレオープン当日の展示室3

──児島虎次郎記念館を、どのように活用していきたいですか

三浦──

児島虎次郎の功績は日本の洋画史にとって大変偉大ですが、彼の収集した古美術や彼自身の作品は広く知られていません。
そのため、まずは児島虎次郎の作品そのものを多くの人に知っていただきたいです。

また、コレクションとして西洋画や古美術を買い付けた画家は、当時としては先進的で日本で初めての存在であったともいわれています。
コスモポリタンとしての児島虎次郎にも注目していただきたいです。

コスモポリタン
国籍・民族などにとらわれず、世界的視野と行動力とをもつ人

それから、館内には展示室だけでなくレクチャールームも併設しました。
児島虎次郎をはじめとした大原美術館創始者たちが大切にした社会貢献の意識を受け継ぎ、社会教育にもより一層力を入れていきたいと考えています。

おわりに

プレオープン、グランドオープンともに、児島虎次郎記念館にはいつもより少しおしゃれをして、お友達同士やご夫婦で来館するお客さんの多さが印象的でした。

倉敷美観地区の中心地に日常の風景としてとけ込みながらも、一歩館内に入ると非日常のアートの世界へ没頭できる。

小ぶりでかわいらしい児島虎次郎の収集作品も、光と色彩の鮮やかな絵画作品もつい時間を忘れて見入ってしまうものばかりです。

大原美術館本館の入館チケットで、児島虎次郎記念館も入館できます。
アートな一日を堪能しに、足を運んでみてはいかがでしょうか。


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