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別々の問題をごっちゃにしないための4つの思考のチェックポイント

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別々の問題をごっちゃにしないための4つの思考のチェックポイント

この記事で書きたいことは、以下のようなことです。


・何かのテーマや問題について考える時、別々に考えるべき問題をごっちゃにしてしまうことがしばしばあります
・問題と問題の関連づけが妥当でないと、結論が迷子になってしまう場合があります
・私の場合、思考を整理するために、以下の4つのチェックポイントを設けています
―因果と相関は区別出来ているか
―問題の粒度や重要性をそろえられているか
―主観的な思考・意見と客観的な事実を区別出来ているか
―事実の時系列を整理出来ているか
・特に何かを批判する時、チェックが甘い「関連づけ」をしてしまうことがあるので気をつけたいですよね


以上です。よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。


皆さん、何かの議論に触れている時、「それは別々に考えるべき問題をごっちゃにしてしまっているのでは?」と感じることってありますか?私はあります。どんな時にって、主に自分が書いた文章を読み直している時に。


まず、たとえ話から始めさせてください。

「部屋が汚くて暮らしにくい」という問題があったとしましょう。直接的な原因は部屋に様々なゴミが散らかっていることですが、その中には郵便物、特にチラシや広告の類いが多かった、とします。ポストからとってきた広告が、そのまま部屋のあちこちに散らばっている状態ですよね。あるある。


ここから、

「俺の部屋が散らかっているのは広告業者の無節操なポスティングによるものだ。ポスティングの規制や改善が必要だ」

という議論を展開した場合、それは妥当でしょうか?


私の感覚では、「部屋が散らかっている」ことと、「業者の無節操なポスティング」は、完全に無関係とまでは言えないものの、全然粒度が違う、個別に議論すべき話です。


仮にポスティングが全面的に禁止された場合、確かに部屋に散らかる広告の類いは減るでしょう。

ただ、根本的な問題は「不要なプリント類を整理・廃棄出来ていない」ということなので、部屋はまた別のプリントで散らかるでしょうし、恐らくプリント以外のものも部屋内に散らばっていくでしょう。


そもそも、施策の効果から考えても、「広告業者のポスティングを規制する」よりも「部屋の整理を習慣化する方法を考える」方が遥かに手っ取り早く、また効果的であることは明らかです。

「部屋が汚い」という問題に対して、議論の方向性が迷子になってしまっているわけです。


もちろん、「資源の観点では紙の広告の存在ってどうなの?」とか、あるいは「詐欺っぽい広告や性的な広告がバンバン投函されるのってどうなの?」といった議論が、派生することもあるかも知れません。それはそれで課題だし、議論するべき点ではありますが、少なくとも「部屋が散らかる」という問題とは切り分けて考えるべきです。


当たり前の話でしょうか?

ただ、Webや、Webに限らない様々な議論を見ていても、あるいは自分の思考を追っていても、このレベルの「全然別問題」がごっちゃにされてしまっていること、しばしば観測出来る気がするんですよ。


もしかすると、上でたとえ話に書いた「部屋が散らかる問題」ですら、「個別に考えるべき」かどうかで意見が分かれるかも知れません。


これは、「粒度の大きい問題について考えてはいけない、議論するべきではない」という話ではありません。

ただ、「事象と事象の関連の強さはきちんと評価するべきであり、関連が弱い事象は個別に考えた方が妥当な結論が導けることが多い」という、それだけの話です。


人間の脳というものは、どうも「これはこれ、それはそれ」という思考の整理がいまいち苦手なようで、ついつい色んな問題をごちゃ混ぜにして考えようとしてしまいがちです。「AとBの間にふと関連を見いだしてしまったばかりに、AとBを無理矢理くっつけるロジックを後から考え出してしまう」ということもあるあるな話です。


以下では、この「別々の問題をごっちゃにしてしまう問題」を避けるためにどんなチェックポイントを作ればいいか、しんざきが普段使っているテンプレについて書いてみます。


4点あります。

1.因果と相関は区別出来ているか
2.問題の粒度や重要性をそろえられているか
3.主観的な思考・意見と客観的な事実を区別出来ているか
4.事実の時系列を整理出来ているか

順番にいってみましょう。


〇因果と相関は区別出来ているか

まずこれ、一番基本的なところですよね。基本のキではあるんですが、基本だと言って簡単だとは限らず、誰でもお手軽にハマれるトラップでもあります。


言わずもがなですが、因果関係と相関関係は別です。「A」という事象が増えたら「B」という事象も増えた。あるいは、「A」が起きてから「B」が起きた。だからといってAがBの原因だとは限らない。そういう話です。因果関係がない相関関係のことを疑似相関と言います。


良く使われる例として、「アイスの売り上げと溺死数」という例がありますよね。

アイスが売れると、溺死数も増える。だからアイスの売り上げ増が溺死の原因なんだ!と言われるともちろんそれは間違いで、実際にはどちらも猛暑が原因だった、というやつです。


因果関係を見極めるのって、実のところ結構難しいんですよね。AとBの二つの変数が毎回同じように動く場合、そこに「C」という共通要因がないかどうかを考えないといけない。統計手法が必要な場合もあるし、ランダム化比較試験が必要な場合もある。毎度毎度、「これは因果だ!」と「これは疑似相関だ!」と結論づけるのも大変です。


ただ、二つの事象を関連づけて考える時、「この二つは明確な因果関係か?単なる相関の可能性もあるんじゃないか?」ということについては、心のどこかに留めておいた方がいいような気がします。何らかの課題を解決する際にも、「原因だと思ったら原因じゃなかった」時に空費するコストって馬鹿にならないので。


実際のところ、Webでは「それ、因果どころか相関関係にすらなってないんじゃないか……?」と思うこともあります。統計まで用意しておくのは難しいことだとはいえ、ある程度「相関だと考える理由」みたいなものは用意しておけると良いですよね。


〇問題の粒度や重要性をそろえられているか

上述した「部屋が汚くて暮らしにくい」というたとえ話でも挙げた問題ですが、「それ、無関係とは言わないけれど、全然レベルが違う問題だよね?」という話をしばしば見かけます。


例えば会社の離職率の話をしている時、「給与と評価基準の妥当性」と「3Fの自動販売機の品揃えが悪い」という話を並べられた場合、普通は「話のレベルを揃えないと」となるでしょう。

もしかすると自販機の品揃えが悪いことで離職する人もいるのかも知れませんが、それにしたって並列で並べるのは難しい。


こういう時は、「粒度が小さい問題」である自販機の品ぞろえの問題、その視点を一度引いて、例えば「福利厚生」の問題くらいまで引っ張り上げてしまう。その上で、その「福利厚生」の構成要素の一つとして自販機の品揃えの問題を挙げる、というように整理すると、議論が上手く流れる場合が多いです。


大きな問題って、大抵複数の小さな問題から構成されているので、粒度の小さな問題を単に切り捨てればいいかっていうとそういうわけでもない、というのが難しいところですよね。


事象のレベルや重要性評価って、これまた結構面倒な話で、評価軸って人によって変わってくるので、「Cさんにとっては重要な問題だけど、Dさんにとっては全然大した話ではない」ということもしばしば起こり得るんですよね。客観的な指標があれば分かりやすいんですが、毎度毎度そういうわけにもいかない。


話の視点をどこにそろえるか、並べようとしている事象はその視点にマッチしているか、という思考が重要である気がします。


〇主観的な思考・意見と客観的な事実を区別出来ているか

こちらについては以前Books&Appsで安達さんも書かれており、私も参考にさせていただいたのですが、

なぜ「事実」と「意見」を区別して話せない人がいるのか。

例えば、「現在の生活はどのくらい幸福か?」と聞かれた人がいるとする。

正確に回答をしようとすれば、「幸福」の定義を行い、過去の幸福度を算定し、現在の幸福度と比較して算出しなければ回答できないはずだ。

ところが、それはとても面倒で難しい。

だから多くの人は、脳内で勝手に「いまの自分は気分がいいか?」という質問に置き換え、

「まあまあ幸福です」

などと回答してしまう。これが「ヒューリスティックス」と呼ばれる、脳の働きだ。

「事実」と「意見」を区別できていない人は、無意識にこれを行ってしまっている。

「それは事実か、それとも主観的な思考か?」というのは、あらゆる場面で重要になる考え方です。「客観的な根拠を提示出来る事象か、そうではないか」と言い換えてもいいと思います。


誤解を招きやすいところなんですが、思考や議論の際、「主観的な意見」が「悪い」というわけでは決してない、という点は強調させてください。

世の中にはデータで示しようのないこともありますし、無根拠な思いつきから話が発展していく場合だってあります。主観的な意見がないと物事が駆動しない、という状況も全く珍しくありません。


ただ、思考を整理する上では、「事実」と「意見」をごっちゃにしてはいけない。因果関係を証明するには、多くの場合客観的な根拠が必要です。

「事実」が求められる場面で「意見」しか言えなかったら、多くの場合「何を言ってるんだ」と思われてしまうでしょう。


自分が今「事実」について考えているか、「意見」について考えているかは、把握しておいた方が無難じゃないかな、と考える次第なのです。


〇事実の時系列を整理出来ているか

例えば「お客さんからのクレームが増加しました」という課題があったとして、「先月から営業担当が変わった。そのせいじゃないか?」という話をするなら、当然のことながら、「いつからクレームが増えたの?どのくらいのペースで増えてるの?母数の変動は?」といった、時系列の確認をしないといけないですよね。


WebやSNSでちょくちょく見かけるのですが、「Bの原因はAだ!Aが全部悪い!」と言っている人がいたとして、「お?そうなのか?」と思ってちょっと調べてみたら、そもそもAはBより後に起きたことだった、みたいなケースがあります。原因の筈なのになんで後から起きてるんだよ、って話ですよね。


ここまで極端ではないにせよ、幾つかの問題を関連づけて考える時、「時系列」って案外抜け落ちがちなポイントでもあります。ある二つの事象がほぼ同時に起きている場合と、数年離れている場合では、当然それぞれ別のアプローチが必要になる道理です。


「AとB、二つの事象を並べて論じてみたら、Aは既にアップデートされていて状況が変わっていた」というのもよくある話です。物事は常に移り変わるものですから、最新の状況について話したいなら、現在の状況はどうなっているかを頭に入れておかないわけにはいかない。


「どういう順番で何が起きたのか」「この事象は今現在どうなっているのか」というのも、思考を整理する上では重要なアプローチだ、という話でした。


***


と、ここまで「思考整理のチェックポイント」を挙げてみたのですが、「上記のようなチェックを常にするべきなのか?」というと、私はそうは思いません。思考の訓練をすることは大事かも知れませんが、とはいえ上記のような思考整理はそこそこ手間がかかることでもありますし、体力を使うことでもあります。


時には、深く考えずにぽんぽん思いつきを並べるのが有益な場面もあるでしょう。詳細に検討するのはある程度方向性が見えてからでもいい、ということもあります。


ただ、ひとつ、「ちょっと入念に思考をチェックした方がいいかも」と感じるタイミングがあります。

それは、「誰か/何かを批判したくなった時」です。


人間、憤った時って思考の脇が甘くなりがちですし、言葉も強くなりがちです。わかりやすい悪役を見つけて自分のガードが下がった時、安易な「関連づけ」を行って他人に言葉をぶつけると、思いも寄らないところで誰かを傷つけてしまったりします。


私の観測範囲でも、「それは複数の問題をごっちゃにし過ぎでは?」と感じる時、結構多くのケースで「何かに怒っている人」の発言だったりします。何かをぶん殴る時、ついでのように「本来全然関係ない人」にまでショットガンぶちかましたりしているんですよね。


思いっきりボールを投げる時こそコントロールが重要、という話でもあります。

憤った時こそ一歩立ち止まって、「これは複数の問題をごっちゃにしていないか?」と自分の思考整理をする。それによって救われる人もそれなりにいるんじゃないかなあ、と。そのためにも、上記の通りではないにせよ、なにかしら自分の「チェックポイント」を用意しておくのは有益じゃないかなあ、と。

そんな風に考える次第なのです。


今日書きたいことはそれくらいです。

***


【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:Nicole Green

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