要介護認定期間の規制改革が始動。30日ルールの厳格化で何が変わる?
要介護認定期間の現状分析と新制度の要点
現行の要介護認定制度における課題
要介護認定の申請から認定までの期間は、介護保険法において30日以内と定められています。しかし、実態を見ると、2022年度下半期の全国平均で40.2日かかっているのが現状です。
この期間の長期化は、介護サービスを必要とする高齢者とその家族、そして介護サービス事業者にとって大きな課題となっています。
市町村によって認定期間には大きな差があり、最短で20.0日から最長で78.7日まで、その開きは約4倍にも及びます。特に人口規模の大きい都市部では、申請件数の増加に審査体制が追いつかず、法定期間を超過するケースが常態化している地域も少なくありません。
現場での課題を具体的に見ていくと、主に3つの問題点が浮かび上がってきます。
1つ目は、主治医意見書の取得に時間がかかっていることです。全国平均で17.8日を要しており、これは認定期間全体の約4割を占めています。
2つ目は、認定調査の実施に平均11.1日かかっているという点です。人員不足や日程調整の難しさが主な要因となっています。
3つ目は、介護認定審査会の開催頻度の問題です。委員の確保が困難な地域では、審査会の開催回数が限られ、結果として認定までの期間が長期化しています。
このような状況に対して、厚生労働省は懸念を示しており、特に認知症やがん末期など、早急な対応が必要なケースへの影響を問題視しています。また、介護サービス事業者側からも、サービス開始の遅れによる経営への影響が指摘されており、制度の改善を求める声が高まっています。
2024年規制改革実施計画の主要ポイント
2024年6月に閣議決定された規制改革実施計画では、要介護認定の迅速化に向けた具体的な対策が示されました。本計画では、デジタル技術やAIの活用を軸に、認定プロセス全体の効率化を目指しています。
計画の中核となる施策は大きく4つ存在します。
認定期間の情報公開の徹底 申請から認定までの期間について、全国集計、都道府県別、保険者別のデータを厚生労働省のホームページで毎年度公表することが決定しました。これにより、各地域の現状が明確になり、改善に向けた取り組みが促進されることが期待されています。 認定調査と審査の各段階における目安期間の設定 これまで明確な基準がなかった各プロセスの所要期間について、具体的な目標値を設定することで、業務の効率化を図ります。 申請手続きの簡素化 特に注目すべき点は、主治医意見書の取得方法の変更です。これまでは申請後に市町村が主治医に依頼していましたが、申請者が事前に主治医から取得できる仕組みの検討が始まります。この変更により、現在平均17.8日かかっている意見書取得の期間短縮が見込まれています。 認定審査会のデジタル化推進 オンライン開催やペーパーレス化により、審査会の開催頻度を増やし、審査待ち期間の短縮を目指します。これは特に、審査委員の確保が難しい地域での効果が期待されています。
これらの施策は、2024年度から2027年度にかけて段階的に実施される予定です。特に重要なのは、各施策の進捗状況を定期的に評価し、必要に応じて追加の対策を講じるPDCAサイクルが組み込まれている点です。
30日ルール厳格化の背景
30日ルールの厳格化が求められる背景には、高齢化の進展に伴う要介護認定申請件数の急増があります。厚生労働省の統計によれば、要介護(要支援)認定者数は2023年4月時点で約696万人に達し、過去20年間で約3.2倍に増加しています。
特に深刻なのは、この増加傾向が今後も継続すると予測されている点です。厚生労働省の推計では、2023年末の約690万人から、2030年には約900万人、2040年には約988万人まで増加すると見込まれています。この増加に対して、現行の認定体制では対応が困難になることが予想されています。
また、がんなどの終末期医療を必要とする方々への対応も、30日ルール厳格化を後押しする要因となっています。現状では、認定までの期間が長期化することで、必要なサービスを受けられないまま容態が悪化するケースや、最悪の場合、認定を受けられないまま亡くなるケースも報告されています。
市町村における認定業務の実態調査から明らかになった、主な課題を再度確認しておきましょう。
これらの課題に対して、厚生労働省は2024年度から本格的な対策に乗り出します。特に注目すべきは、認定期間の短縮が単なる行政効率化ではなく、高齢者の尊厳ある生活を支えるための重要な施策として位置づけられている点です。
認定審査期間の実態と短縮に向けた取り組み
認定期間の統計的分析
要介護認定の申請からサービス利用開始までの期間について、2022年10月から2023年3月の全国データを分析すると、興味深い傾向が見えてきます。全国1,735市町村のデータによると、認定審査期間の実態は以下のような分布を示しています。
特に注目すべきは、認定審査期間を30日以内に抑えている市町村が97自治体存在するという点です。
これらのデータから、30日以内での認定完了は決して不可能な目標ではないことが分かります。ただし、市町村の規模による差異も見られ、人口10万人以上の都市部では平均40.5日、1万人未満の町村部では39.2日と、わずかながら規模による違いが確認されています。
興味深いのは、高齢化率による認定期間の違いがほとんど見られない点です。65歳以上の人口が29%未満の市町村と29%以上の市町村を比較しても、認定期間に有意な差は確認されていません。
このことは、認定期間の長短が人口構成よりも、むしろ自治体の業務効率化への取り組みに大きく影響されていることを示唆していると考えられるでしょう。
認定プロセスの各段階における所要期間
要介護認定のプロセスは、申請から認定まで大きく3つの段階に分けられます。各段階の所要期間を詳しく見ていくと、改善が必要なポイントが明確になってきます。
まず、認定調査の実施に関する期間です。調査依頼から実施までの全国平均は11.1日。この期間には、調査員の手配や、本人・家族との日程調整が含まれます。注目すべきは、30日以内に認定を完了している自治体では、この期間を7.3日まで短縮できているという点です。
次に、主治医意見書の取得に要する期間を見てみましょう。全国平均で17.8日と、認定プロセスの中で最も長い時間を要している段階です。医師の多忙さや書類作成の負担が主な要因とされていますが、30日以内認定を実現している自治体では12.7日まで短縮できています。
そして、介護認定審査会による審査期間です。これには一次判定結果の作成から、審査会の開催、結果通知までが含まれます。この段階での所要期間は自治体によって大きく異なり、審査会の開催頻度が大きな影響を与えています。
全体の流れを時系列で見ると以下のようになります。
申請受付・調査依頼:1-2日 認定調査実施まで:約11日 主治医意見書取得:約18日 一次判定作成:2-3日 審査会開催・結果通知:5-7日
注目すべきは、これらの工程が必ずしも順序通りに進まない点です。例えば、認定調査と主治医意見書の取得は並行して進められます。そのため、実際の認定期間は各段階の単純合計よりも短くなっています。
また、2024年度からは、主治医意見書を申請前に取得できる仕組みの導入が検討されており、これが実現すれば認定期間の大幅な短縮が期待できます。
今後の制度改革の方向性と事業者の対応
デジタル化推進による認定期間短縮の取り組み
2024年の規制改革実施計画では、デジタル化による認定期間短縮が重要な施策として位置づけられています。具体的には、以下の3つの領域でデジタル化が進められる予定です。
1つ目は、主治医意見書の電子化です。現在、平均17.8日を要している意見書取得の期間を短縮するため、医師による電子的な作成・提出の仕組みが整備されます。これにより、郵送に要する時間の削減だけでなく、医師の作業負担も軽減されることが期待されています。
2つ目は、認定調査のデジタル化です。現在、多くの自治体では調査結果を紙の調査票に記入し、後日データ入力を行っています。これをタブレット等でその場での入力に切り替えることで、データ入力の二重作業を解消します。すでにこのシステムを導入している自治体では、調査から一次判定までの期間を短縮できたという報告もあります。
3つ目は、認定審査会のペーパーレス化とオンライン化です。地方公共団体システムの標準化の進捗状況を踏まえながら、2025年度までに段階的に導入が進められます。特に、審査会資料の印刷・郵送・保管に要する時間の削減が期待されています。
これらのデジタル化は、単なる業務の効率化だけでなく、データの正確性向上による判定精度の改善や情報共有の迅速化による関係者間の連携強化、長期的なデータ蓄積による判定基準の精緻化の効果ももたらすと考えられています。
認定審査会の簡素化と効率化
認定審査会の効率化について、特に注目すべきは、更新申請時における審査の簡素化の拡大です。
現在も、更新申請で一次判定結果が前回の認定結果と同一である場合には、審査の簡素化が可能とされています。しかし、2024年度からは、この簡素化の対象がさらに拡大されます。
例えば、がんなどの疾病により心身の状態が急激に悪化している方など、従来は簡素化の対象外とされていたケースについても、一定の条件下で簡素化が可能となります。
ただし、簡素化を進める一方で、審査の質は確保する必要があります。そのため、以下のような取り組みも同時に実施されます。
AIを活用した一次判定の精度向上 在宅介護や通所介護等の幅広い介護サービス利用者のデータを活用した判定基準の更新 認知症の利用者に関する認定調査項目の見直し
この改革により、審査会の負担軽減と審査期間の短縮が見込まれています。特に、審査会の開催回数が限られている地域での効果が期待されています。
ただし、簡素化による審査の質の低下を懸念する声もあります。実際、アンケート調査では、約4割の自治体が「審査会で詳細に審査しないことが、申請者の不利益・不公平につながる可能性がある」と回答しています。
事業者に求められる対応と準備
2024年からの制度改革に向けて、介護サービス事業者には新たな対応が求められます。特に重要なのが、認定期間の短縮化に合わせたサービス提供体制の整備です。
まず、暫定プランの活用についての理解を深める必要があります。要介護認定申請中でも、暫定ケアプランに基づく介護サービス提供が可能です。この制度は従来から存在していましたが、認定期間短縮の取り組みに伴い、より適切な活用が求められるようになります。
次に、認定結果が申請日に遡って効力を生じることへの理解も重要です。これは介護保険法第27条第8項に規定されている内容ですが、実務上の混乱を避けるため、以下の点に特に注意が必要です。
サービス利用開始時期の適切な判断 利用料金の事後調整への対応 利用者・家族への丁寧な説明
さらに、デジタル化への対応も求められます。主治医意見書の電子化や認定審査会のオンライン化に伴い、情報のやり取りがデジタル化されていく中で、事業者側でも適切な対応が必要となります。
制度改革に向け、職員への制度改正内容の周知徹底やデジタル化に対応できる環境整備といった準備を進めておくことが重要です。さらに、利用者・家族への説明体制の強化や地域の行政機関との連携体制の確認もしておくことが望ましいでしょう。
これらの準備を進めることで、制度改革後もスムーズなサービス提供が可能となります。特に、認定期間の短縮化は、サービス開始時期の予測を立てやすくなるというメリットがあります。このメリットを最大限活かすためにも、事業者側の適切な準備が重要となるのです。