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【カン・ジェギュ監督インタビュー】『ボストン1947』誰もが納得!イム・シワンは最高のランナー

ウレぴあ総研

『ボストン1947』カン・ジェギュ監督

8月30日(金)より全国公開中の映画『ボストン1947』。1936年にベルリンオリンピックのマラソン競技で日本人選手として金、銅メダルを獲得したソン・ギジョンとナム・スンニョンが、

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祖国の国旗を胸に走りたいと新人選手ソ・ユンボクを育て、1947年のボストンマラソンに挑んだ実話を映画化した本作。公開に先駆け、監督のカン・ジェギュが来日、映画に込めた思いを語ってくれた。

1947年に起きた奇跡のような話を映画化

――まず、この実話を基にした映画をつくろうと思ったきっかけからお願いします。

以前からマラソン映画に関心があって、個人的にとても作りたいと思っていたところ、ちょうど2018年ごろ、この映画の提案をいただいて、“1947年にそんな奇跡のようなことがあったなんて!”ととても驚きました。

ベルリンオリンピックの話は有名ですが、マラソンに興味を持っていた私でさえボストンのことは知らなかったんです。

ソン・ギジョン、ナム・スンニョン、ソ・ユンボクという3人のランナーが、マラソンというひとつの競技でつながり、夢を叶えたというこの話が、

私にはちょっと嘘に思えるほど新鮮で新しいと感じました。これこそ私が夢見ていたマラソン映画になるのではないかという期待感に満ちて作り始めました。

――実在の人物を扱う物語なだけにキャスティングが難しかったと思いますが……?

映画化を決めてから、準備する過程において一番大変なのがキャスティングだろうと思っていました。

キャスティングさえうまくいけば、ほとんど成功したも同じだと。普通、実話をベースにした映画の場合、一人の登場人物にスポットを当てるのが一般的ですよね。

ですが、この映画の場合、3人なわけです。実際の人物と肉体的、外見的な部分も似ていなければならないし、内面的な部分も同様です。

そんな丁度よい俳優3人を果たしてキャスティング可能なのか、それが私にとって大きな課題でした。

一番初めに決めたのはハ・ジョンウさんでした。以前からソン・ギジョン選手のことはよく知っていたので、誰がいいか考えた時に一番先に思い浮かんだのが彼でした。

背の高さも似ているし、身体的な条件がとても似ていました。寡黙で無愛想、かつ、剛直さも併せ持つそんな人物なのですが、

演技スタイルやパターンというより、外見的な部分に頼らざるを得なかった部分があったと思います。

ソ・ユンボク選手の場合も、少し背が低く、独特の個性的な身体つきをされている人なので、そんな部分がマッチする俳優としてイム・シワンさんがぴったりだと思いました。

ドラマ『ミセン』や映画『名もなき野良犬の輪舞』などを見て、最近の若い俳優の中では飛び抜けて素晴らしいと思っていました。

次にペ・ソンウさんですが、多彩なジャンル、キャラクターをこなせる俳優なので、いつか一緒に仕事がしたいと思っていたところ、ナム・スンニョンならぴったりだと。

最高のキャスティングが映画を盛り上げる

――奇跡的に素晴らしいキャスティングだと思いますが、この3人の俳優の魅力はどこにあると思われますか?

ハ・ジョンウさんについては、編集室で映像を編集している間にもスタッフたちと“あまりにも似過ぎていないか?”と話すほど、ソン・ギジョンでした。

ソン・ギジョン選手の生前の映像や資料をたくさん見てきてよく知っている私たちスタッフが、話し方や歩き方、雰囲気までそっくりだと感じたんです。

それほど、ハ・ジョンウさんがソン・ギジョンにのめり込んでいたんだと思います。

イム・シワンさんには、肉体的なコンディション作り、ランナーとしての姿勢などたくさん注文をつけました。

準備期間、撮影期間のほぼ1年間にわたって徹底した断食、食事制限、運動を続けてくれて、最高のランナーになっていました。

実は、撮影が終わってからもしばらくの間、それを維持し続けていたんです。追加撮影があるかもしれないという理由で。

それほど自分に厳しい、素晴らしい俳優です。普通は撮影現場で女優の登場を待ち侘びるものなんですが、本作の現場では、みんなが、今日イム・シワンの撮影は? と言っていました(笑)。

彼が見せてくれる演技が撮る側をときめかせる、そんな楽しみがありましたね。

そして、ソン・ギジョンとソ・ユンボク、この二人が尖った木の柱のようだとしたら、二人を包み込む大地のような存在、それが、ナム・スンニョン。

1位になった人、1位になりたい人、ずっと2位3位で1位になれなかった人、3人を分ける分岐点だと思いますが、多くの人はナム・スンニョンに共感できるのではないでしょうか。

なぜなら、1位を経験する人はそんなに多くないからです。そんなあまり目立たない存在ながら全体を支えるような役割をぺ・ソンウさんが旨味の詰まった演技でうまく表現してくれたと思います。

――キム・サンホさんとパク・ウンビンさんについてもお伺いしたいです。

キム・サンホさんが演じたのは劇中でペク・ナムヒョンという名前で出てきますが、実際にはペク・ナムリョンという人物です。この方は、最初はあまり積極的ではなかったそうですが、3人と生活をともにするうちに、最終的には自分の全てを投げ打って助けてくれた人。この映画は、韓国パートの第1章とボストンパートの第2章に大きく分かれますが、第2章に移る段階のターニングポイントにおいて活力を与えてくれる人物がペク・ナムヒョンです。これまでの緊張感を少し和らげ、新しい面白さを運んでくれる、そんなキャラクターですが、キム・サンホさんが120%消化して演じてくれました。

パク・ウンビンさんが演じたオクリムは架空の人物です。当時の町には人々が集まる食堂があり、そこにはみんなの人気者がいる、そういう設定の少女でした。

――7月に開催されたプチョン国際ファンタスティック映画祭のイベントで「パク・ウンビンさんに申し訳なかった」と発言されたそうですが?

パク・ウンビンさんにというより、彼女のファンに申し訳ないという気持ちで言いました。ファンの方々は、我らが大スターのパク・ウンビンさんをなぜこんな小さな役で使ったのかと絶対に恨んでいると思ったので(笑)。

ボストンの風景に似たところで撮影

――なんといっても最後のマラソン・シーンが圧巻でした。実際にはボストンで撮影したのではないんですよね?

やはり最初はボストンで撮影したいと思い、ロケハンにも行きました。が、ボストンは今でも同じマラソンコースを維持し続けていて、季節的にも私たちが撮影したい時期とマラソン大会の時期が重なるので実質的に難しかったんです。制作費の問題もありましたし。それで、当時のボストンの風景に似たところはないかと、グァテマラやチリなど南米のほうで探し始めたのですが、見つからず……。次にヨーロッパ、ポーランドやハンガリー、そして私が『マイウェイ』の時に撮影したラトビアまで探しましたが、ぴったりくるところはありませんでした。そして、最後のチャンスでオーストラリアにロケハンに行って、メルボルンの近くにあるベンディゴで似ている場所を発見して、そこで撮影しました。

――涙が出るほど感動的なラストでしたが、カン・ジェギュ監督ならではの人々を感動させる演出法のようなものはあるのでしょうか?

それは私からは答えにくい質問ですね(笑)。 “君には本当に男を泣かせる才能があるね”と言われたことがあります。

でも、果たしてそうかな、自分は感動や涙が好きなのかなと自問する時がたまにあります。

監督というのはどうしても興行成績が頭から離れません。特に、製作費が大きい映画であればあるほど、たくさんの大衆に愛されなければならないという宿命、運命のようなものがあります。

プロとしてそういう部分を意識せざるをえません。でも、意図したからといってうまくいくわけでもありません。難しいですよね。

自分が映画からどんな刺激を受け、何を感じるのか、観客の立場で振り返ってみると、私がなぜ生きるのか、生きる意味をとても強く感じた時に感動し、自分が成長できるのだと思います。

そして、私が映画からもらったたくさんの感動、刺激を、今度は自分が誰かに与えたいと、そう思うんです。

――3人がボストンに行くまでの道中もとても面白かったです。あの旅程も実話をもとにしているのですか?

実際にはもっと大変だったようです。シナリオ段階で調べた内容は韓国から出発してボストンに到着するまでがとてもドラマティックでした。

軍用機に乗って、次の飛行機に乗り遅れ、海外の同胞から歓待を受けたり、現地の高校生が“靴を買ってください”“何か食べてください”とお小遣いの中から寄付してくれたり、そんな紆余曲折のエピソードがたくさんあったので、いっそのことその道中だけを描いた映画にしようかという話もありました。

ボストンから戻る際も1ヵ月ほどかかったそうで、最終的には東京から船で仁川(インチョン)に入り、そこから車でソウルまで戻ったらしいです。

当時の韓国の少し痛い部分、国際社会から取り残されていた現実を感じさせてくれる場面だと思います。

カン・ジェギュ監督が韓流ブームの先駆け

――『シュリ』『ブラザーフッド』などアクション映画もたくさん撮ってこられましたが、初のスポーツ映画ということで何か違いはありましたか?

アクション映画は、その場の現場性、例えば、戦争なら戦場の現場性、銃撃戦が起こる現場の生々しさをリアルに描かなければなりません。

もちろん、人物も重要ですが、その背景と環境がとても重要です。なので、ダイナミックなカメラアングルや、近接撮影などで、ディティールを生々しく捉えることが大切だと思います。

本作の場合は、マラソンを観客の立場で見る時に、集中してみるのはどこだろうと考えました。走る人々の呼吸、表情、雰囲気、そういった細かい部分をじっと見守るような感じで演出しなければならないと思いました。なので、背景や環境よりも人物のディティールに焦点を当てるように気を遣いました。

――監督自身、マラソンは走られるんですか?

努力はしていますが、難しいですね。今は長男のほうがマラソンに興味を持っていて、ハーフマラソンに何度か参加しています。

――来日中はちょうどパリ・オリンピック開催中。何か注目している競技はありますか?

普段、そんなに興味がないんですが、今回はフェンシングの本場パリでの韓国選手たちの活躍を見て、血が熱く燃えたぎるような気がしました(笑)。

――昨年は『シュリ』で東京国際映画祭にも参加されました。

『シュリ』は韓国での公開を基準にすると今年で25年になります。去年、東京国際映画祭での上映の後で、昔のいろんな資料や『ブラザーフッド』のDVDなどを持ってこられた方々がいてサインをする機会があったのですが、その時に感じたのは、映画も年を重ねていくんだということでした。ただの消耗品ではなく、私たちの心の中で長く保管される、そんな生命を持っているんだと。映画の価値を認めてくださる日本の観客の皆さんにとても感謝しています。

――最後に監督からメッセージをお願いします!

この映画は、本当につらかった時代に挑戦して自分の夢をかなえたお話です。どんな時代でも大変ですし、生きるのも簡単ではない。特に、今の若い世代はつらい思いをして生きていると思います。夢と希望、勇気、そんなパワーをこの映画から感じていただき、少しでも夢と希望を叶える原動力になればと願っています。

『ボストン1947』
全国公開中

(韓流ぴあ/大森 美紀)

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