入場無料のパフォーマンスアートをほぼ毎日実施、国立新美術館で荒川ナッシュ医の個展が開催中
「国立新美術館」で、ロサンゼルス在住の荒川ナッシュ医(あらかわなっしゅ・えい)による、同館初のパフォーマンスアートを扱う展覧会「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」が2024年12月16日(月)まで開催中だ。パフォーマンスアーティストとして、即興的な作品を発表し続けてきた荒川ナッシュによる生きた芸術を感じることができるだろう。
パフォーマンスアーティストならではユニークな空間
福島県いわき市出身で、1998年から米国を拠点にするパフォーマンスアーティストの荒川ナッシュは、2000年代からパフォーマンスアートを精力的に発表してきた。これまで「ニューヨーク近代美術館」や「テートモダン」などで披露している。
本展は、映像やLED絵画などの作家自身による作品とともに、吉原治良、田中敦子、松任谷由実、白髪富士子、河原温、アンリ・マティス(Henri Matisse)、オスカー・ムリーリョ(Oscar Murillo)、その他多数の荒川ナッシュが敬愛する国内外のアーティストやミュージシャンによる作品が入り混じり合っている。
マティスの絵画と、本展のために書き下ろされたユーミンの新曲が流れるインスタレーション空間など、通常のキュレーターならば発想しないような、アーティストならではの非常にユニークなキュレーションだ。
9つのスペースでは、クィアや子育て、大学で教壇に立つ荒川ナッシュの教育観、米国移民として海外で活動し続けるタフさなどをテーマにしている。
会期中には作家本人によるツアーが数十回計画されており、英語でのツアーは荒川ナッシュの夫である荒川ナッシュ・フォレストによって行われる。即興パフォーマンスは定期的に開催予定で、何度でも訪れてほしいとのことから入場料は無料だ。
毎週日曜は「美術館で落書き」の日
『メガどうぞご自由にお描きください』は、毎週日曜日に開催される、子どもから大人まで誰でも床に落書きができる参加型の作品だ。1956年、「具体美術協会」の創設者である吉原治良が芦屋公園で披露した先駆的作品『どうぞ自由にお描きください』に敬意を表した本作は、荒川ナッシュがさまざまな人に参加してほしいという思いで作り上げた。美術館という場所で、床をキャンバスに見立て、自由自在に絵を描いてほしい。
家族が集まる「ベイビーシャワー」も開催予定
この12月30日(月)に代理母出産で双子を授かる予定の荒川ナッシュ。制作と子育ての両立についてのジレンマに言及するセクションには、実際のエコーの映像や予定日までのカウントダウンや乳母車の絵画、「麻布台ヒルズ」で撮影した未来のクィアファミリーを描いた映像作品が配置されている。
それとともに、頼りない父性をテーマとし、夜泣きによる寝不足の表情を描いたトレバー・シミズ(Trevor Shimizu)の絵画など、子育てを主題とした他の作家の作品も並ぶ。
「人生の転機が時折パフォーマンスアートになる」という荒川ナッシュは、11月30日(土)に、双方の家族も集まる「ベイビーシャワー」を会場で行う予定だ。誰でも参加でき、カリフォルニアの最新の代理出産や卵子提供に関する情報も荒川ナッシュが詳しく説明する。
固定化されないLGBTQIA+
レインボーフラッグは今や性の多様性を象徴しているモチーフだが、考案されたのは1978年のサンフランシスコであった。「絵画とLGBTQIA+」のスペースには、画家のエルズワース・ケリー(Ellsworth Kelly)がレインボーフラッグ誕生の20年以上前の1953年に発表した絵画を引用した、荒川ナッシュの作品が掲げられている。
一つ一つ取り出すことができるレインボーの絵画を、荒川ナッシュがパフォーマンスアートとして扱い、絵画が身体と継続し、踊りの一部となる。作品に即興性を導入することで、固定化されない多様性を表現している。
展示室の床に落書きをする子どもたちと、その周りではパフォーマンスアートが展開している。映像作品には、荒川ナッシュ自身の家族が映っている。あらゆるものが、ぎゅっと寄せ集められながらも、オープンで和気あいあいとした雰囲気だ。ぜひ、何度でも足を運んで、この空間で起こることを楽しんでほしい。