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Hakubi片桐が語る、新体制の号砲を鳴らす新曲「クロール」――自らの好きを噛み締めて、新たな未来を掴み取るために

SPICE

Hakubi

クロールで泳ぐ時、手のひらで水を押す感覚が好きだった。なぜなら、自らの力で進んでいることを、ぐんぐんと加速していくそのスピードで実感することができたから。9月にマツイユウキ(Dr)の脱退を経て、新体制での活動をスタートさせたHakubi。そんな彼らが新たな門出にセレクトした新曲「クロール」は、Hakubiらしさや自身をがんじがらめにする既成概念と真っ直ぐに向き合い、自らの手で目の前に転がるチャンスや未来を勝ち取ろうとする姿を描いた推進力に満ちた1曲である。今回SPICEでは、新曲「クロール」についてはもちろん、「自信を持って巡っている」というツアー『Hakubi Tour 2024 ”underwater”』や変化を遂げようとしている現在のHakubiのモードについて、片桐(Vo)に語ってもらった。27歳を迎え、1人のバンドマンとして成してきたことを振り返ったと話す片桐が、今その眼で見据えるもの。それはきっと彼女自身が信じ続けた言葉と音楽にほかならない。


●『「頑張れ」じゃない「頑張れ」の言い方を探している』未来への推進力に満ちた新曲「クロール」

Hakubi

ーー11月6日(水)に新体制1発目のシングル「クロール」が配信リリースされました。瑞々しいサウンドには明るさを感じる一方、<死んだように生きてることに 気づけなくて年だけとって>から始まるブロックを筆頭に、ダークな価値観も滲むバランス感が面白い1曲だと思いました。既にライブでも披露されていますが、片桐さんはこの曲をどのように捉えていらっしゃいますか。

「クロール」は明るく、聴きやすいサウンドを目指していましたし、推進力のある楽曲になったと思っています。今まではネガティブな気持ちを吐露していた分、ドンと落ちてしまう感覚があったんですが、今回はそこから出れるパワーを持った1曲になりました。とはいえ、Hakubiでは私だからこそ書ける曲を大切にしていて。2サビ以降ではどうしても変われない根っこの部分や暗さを、1曲の中に投影できたんじゃないかなと。

ーーおっしゃっていただいた通り、「クロール」は非常に推進力を持った1曲で。そういったパワーを兼ね備えた作品を目指す上で、本作が新体制1発目になることは念頭にあったのでしょうか。

もともとこの楽曲は新体制での活動が決まる前から作り始めていた1曲だったので、結果的に自分たちの進む方向を示してくれた感覚ですね。これまでは私自身のルーツを楽曲の中にたくさん落とし込んできたわけではなかったんですよ。でも、「クロール」の制作途中くらいから、自分のルーツを深掘りしたり、好きなものに対して貪欲に突き詰めたくなった。そういう新しいモードや新体制に対する不安も、この曲ができたことで大丈夫だと思えたんです。

ーーこれまで片桐さんの成分を楽曲へ反映する割合が小さかったのは、なぜだったんですか?

もちろん滲み出ていたし、結果的に反映されていたと思うんですけど、3人それぞれのルーツや好きなものを掛け合わせていたのがスリーピースのHakubiだったんですよね。だから、3人のバランスを取る上で必然的に成分が薄くなっていた。でも、今年の春頃に「Hakubiとは何なのか」「自分が格好良いと思えるものは何か」を話し合っていく中で、「もっと好きなものをやっていいんじゃない?」と言ってもらえて。そこからは、「Hakubiだからこういう曲を作らなきゃいけない」という囚われから離れて、自分のやりたいことを高い解像度で追求できたんです。

ーー3人のバランスやHakubiのイメージを踏まえた上で制作していたものが、片桐さんの個人的な趣向によりスポットが当たるようになったと。

そうですね。あとは、私たちが戦ってきたライブハウスシーンも関係している気がしていて。というのも、ライブの時に拳が上がっていると良い雰囲気に見えるじゃないですか。一方で、「拳が上がっている」=正解の価値観には疑問があった。これまではそういう疑問を抱えつつも、その1つの正解を目指すのが良いと思い込んでいたんです。でも、私たちのライブにはその場で立って喰らっている人がいるんじゃないかなと。別に拳が挙がらなくたって、心にズドンと刺さっていたら良いし、そういったライブを最近は目指していますね。

Hakubi

ーーここまでのお話で「好きなもの」「らしさ」という言葉も出てきましたが、<“らしくない”ことをやってみよう>と歌っている通り、「クロール」は自分の「らしさ」と対峙した作品だと思うんです。この曲の制作にあたって、片桐さんが「らしさ」と向き合おうと思えたキッカケは何だったのでしょう。

私はネガティブだし、インドアなので、ナイトプールや真夏の海で遊んでいるようなキラキラした人たちにちょっと憧れているというか。そういう人になってみたいけど、実際になる必要はないし、言われたことに対して「何であの時言い返さなかったんだろう」と思うけど、本当に言い返す必要もない。「やろうと思えばできたけど、別にやらなかった」みたいな気持ちになりたくて「クロール」を作ったんですよね。そう思ったのは、渋谷のスクランブル交差点を歩いている時でした。周囲の人はキラキラしているのに、私は憂鬱なまま独りで歩いている。その差に叫びたくなったんですが、「変な人って思われるからできない」「大人はそんなことしない」と現実的な考えが浮かんで。こういう考えに至る時点で、周囲の視線や自意識に抑圧されているなと思ったんです。「実際に叫ばなくても良いけれど、何かできたんじゃないのか」「自分は何でもできるぞ」という気持ちになろうとしたのが、この曲の原風景でした。

ーー実際に行動に移す、言い換えれば突き抜けるわけではなく、一歩踏み出せば行動できるギリギリのラインまで行こうとする姿を描くことにしたのはどうしてですか。

突き抜ける曲を書きたかったけれど、書けなかったんですかね。振り返ってみると、<なんかやれそうなんだ>で終わっているのが自分っぽいなと思います。

ーー突き抜ける曲にトライした結果、書けなかった感覚があった?

書けなかった感覚も書かなかった感覚もないので、私にとって自然な状態が「なんかやれそう」だったのかな。自分で言うのも変ですけど、私は気を遣いすぎてしまうタイプで。Hakubiの音楽を聴いてくれている人は私と同じタイプというか、誰かを気遣いすぎて不安になってしまう方も多い気がするんですよ。私も含め、そういうタイプの人は突き抜けることはきっとしない。振り切れなくても良いけれど、やろうと思えば行動できる位置に、みんなもいけたらなと思いますね。

ーー片桐さんにとってナチュラルな状態が「なんかやれそう」というのは、「クロール」に関わらず、Hakubiの音楽にとって重要だと感じました。というのも、「光芒」で<何も見えない闇の先に かすかな希望を今日も探してる>と歌っていたり、「Heart Beat」で<また今日も生き延びてしまったことを これで良かったと思える日を迎えるまで>と綴っているように、Hakubiの楽曲はどんなに未来が暗く見える中でも、いつか訪れる一筋の光を探し求めていると思うんです。一方で、今作のように一見明るく見えたとしても、影の側面が描かれている。そうやって100パーセントの陽でも陰でもなく、中間で揺れ動いている様子は振り切れない、つまり「なんかやれそう」という中庸な感覚にも近いんじゃないかなと。

私は「頑張れ」という言葉が好きじゃないんですよ。気持ちでは「頑張れ」と思っていたとしても、そのまま言葉にしてしまったら押し付けになってしまう気がするし、頑張っているのに「頑張れ」と言われるのはしんどいし。人それぞれの捉え方がある中で、私が伝えたい「頑張れ」は100パーセント言葉にしなくても伝わるんじゃないかなと。だから、「クロール」も含め、「頑張れ」じゃない「頑張れ」の言い方を探しているんです。それは、周囲に向かってだけじゃなくて、自分に言い聞かせる部分もあって。そういった言葉へのネガティブな考えが、言い切らない表現に繋がっているんだと思います。

ーー「言葉へのネガティブな考え」というのは、伝えることの難しさ、みたいな?

伝えることの難しさであり、伝わり方の難しさですかね。友達や恋人、家族であっても、思った通りには伝わらないし、同じ言葉だとしても十人十色の受け取られ方がある。それだけ受け取り方があることに怖さを感じるので、人を傷つけないように歌詞を紡ぎたいんです。

●「27歳で世を去った伝説的な人たちみたいになっていたかった」やるしかないのギアを上げた27歳の節目

Hakubi

ーーここまでは「らしさ」について伺ってきましたが、「クロール」では<死んだように生きてることに 気づけなくて年だけとって>と語られているように、「どうやって歳を重ねるのか」もカギになっていると感じていて。年齢にちなんで言えば、「17」では明日をどうあがいても来てしまうものとして捉えていますし、「22」は訪れてしまう明日をどうやって噛み締めるかを描いていらっしゃったと思うんです。そんな中で「クロール」では、<未来に手を伸ばすバタ足で進む>とついに未来を自分から迎えに行っている。片桐さんの中では、歳を重ねるにつれて、明日や未来に対して段々と希望が持てるようになった感覚があるのでしょうか。

「17」や「22」で書いた歌詞は結局自分の根底にあるものなので、今聴いても「この時の自分はこう考えていたんだ」ではなく、同じ気持ちで受け止めることができて。その上で「クロール」で<未来に手を伸ばすバタ足で進む>と綴ったのは、27歳を迎えることが大きかったんです。世の中には27歳で亡くなったロックスターがたくさんいるのに、私はバンドマンでありながら27歳になってしまう。その節目を迎えていいものなのか悩んだんですよ。それで実際に27歳の誕生日がやってきて、吹っ切れたとまでは言えないものの、やるしかないに拍車がかかった。そういうギアを上げるタイミングだったので、<未来に手を伸ばすバタ足で進む>というのは未来に希望を感じている爽やかな腕よりも、未来を掴み取るために泥臭くもがいて出している腕なんですよね。

ーーロックバンドをやっている者として27歳を迎えることへの恐怖心があったと。

怖かったし、これまでの人生で何を達成してきたのかを考えたんですよ。私にロックスターは似合わないかもしれないけれど、27歳で世を去った伝説的な人たちみたいになっていたかった。27歳の節目を迎える前に、伝説を築き上げることへの憧れがあったのかもしれないです。

ーー前作『throw』には<ああ大人ってやつはこんなもの 情けなくってくだらなくて 泣けてきて仕方ないんだ>と歌う「最終電車」や<つまらない大人になりたくはないが 何者にもなれずこの様だ>と綴られた「GHOST」をはじめ、「大人になりたくない」というメッセージが収められているじゃないですか。それも27歳を迎えてしまうことへの恐れに由来するものなんでしょうか。

うわ……鳥肌立ちました。確かに、『throw』は27歳になる前に書いていた楽曲が入っていますし、27歳になることへの恐怖心が出ていたのかもしれないです。そっか……27歳が私にとって大人になるタイミングだったんですかね。

●『「今、私は音楽をできている」と思えた』新たなHakubiを提示するツアー

Hakubi

ーー10月4日(金)東京・渋谷WWWよりツアー『Hakubi Tour 2024 ”underwater”』がスタートしています。ツアーも折り返し地点に差し掛かったところですが、本ツアーの前半戦を振り返ってみていかがですか?

これまで音楽をやってきていたものの、本当の意味で音楽をやろうとしていなかったと感じていて。というのも、これまで私は自分の心を言葉にすることを音楽としていたんですよ。言葉を伝えるための音楽であり、自分を伝えるための音楽であったので、文字通り、音を楽しむ音楽はやれていなかった気がしているんです。

ーーバンドを通じて、片桐さん自身の感情を吐き出す感覚が強かった。

はい。でも、今回から4人体制に変わったことで、改めてサウンドメイクをしたり、自分のルーツであるシューゲイザーやオルタナ的なアプローチのアレンジを楽曲に加えることができたんです。そういったトライをしていく内に、「今、私は音楽をできている」と思えたんですよね。自分の表現したいことを突き詰められていると感じていますし、純粋に音を楽しめているツアーになっています。

ーーお話いただいた通り、今Hakubiは表現したいことを一層追求するフェーズにあると感じています。その表現したい世界をあえて言語化するとしたら、どのように言葉にされますか。

ルーツに立ち返ってやりたいことや好きなものを詰め込むことが、新しいHakubiらしさに繋がっていく気がしています。とはいえ、根本は自分の言葉を伝えたいという思いにあると感じていて。そこは変わらずに、音を楽しみながら音楽を広げていきたいですね。

ーーツアーファイナルとなる2025年1月17日(金)千葉・千葉LOOKまでの『Hakubi Tour 2024 ”underwater”』後半戦は、どのようなツアーにしたいですか?

脱退を含め、いろいろなことがあったので、皆さんをびっくりさせてしまったことは分かっていて。でも、ここまでツアーを回ってきた中で自分たちも自分たちに期待できるようになってきているんですよ。だからこそ、今のHakubiを観てほしいですし、知ってほしい。自信を持ってツアーを巡っているから、「信じていいのかな」って思っている人にぜひ来てほしいです。

Hakubi

取材・文=横堀つばさ 撮影=翼、

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