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同意なき買収と経営者の意思決定「3秒で決める」

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2024年末から同意なき買収の2事案――ニデックによる牧野フライス製作所、YAGEOによる芝浦電子の買収提案が紙面をにぎわせています。2024年時点でも、買収側からみると魅力的な株価の企業、被買収側からみると(被買収を望まないのであれば)危険な株価である企業が多くあり、さらに株価が下落したことで同意なき買収が増加する可能性がある状況です。本稿では、同意なき買収に関連して、出資側、被出資側の視点でいくつか書きます。

出資側の視点

千載一遇の機会?気運をつかむには「3秒で決める」こと

企業が、被買収対象となった企業から支援を求められる、いわゆるホワイトナイトになることは千載一遇の機会であるとも言えます。平時であれば出資が実現しない企業への出資ができる、さらには、「ぜひとも助けてほしい」と依頼を受けての出資になるわけですから。

しかし、その決断は時間との勝負になります(*)。対象となる企業をあらゆる面から精査し(事業、財務、法務、人事、ITなど)、主要拠点を見学し、自社とのいわゆる相乗効果を検討し、それらをすべて考慮したうえで譲受価格としていくらを提示するのか……この結論を、1〜2か月で出さなくてはなりません。拠点が複数、それも日本国内だけでなく世界各地にあり、また、研究開発―調達―製造―販売という複雑な工程がある製造業について、それらの作業を短期間で行うことは至難です。

今回、芝浦電子の買収に名乗りを上げたミネベアミツミ貝沼由久会長は、今回の提案があった際に、すでに決まっていた日程をとりやめて本件を検討したと推察されます。
貝沼会長は、拙著『超利益経営 圧倒的に稼ぐ9賢人の哲学と実践』(https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/24/12/11/01769/) に登壇いただいた9賢人の一人です。同書で紹介しましたが、タイでの洪水による複数の主力工場の水没時においても「光速」の対応でした。貝沼会長は「私は社員に3秒で決めると言っている」と発言しています。この意思決定の速さは同社の成功を支えている大きな要因であることは間違いないでしょう。

速度は極めて重要な競争力の源泉であり、また、意志さえあれば実現可能な競争力ですが、残念ながら総じて日本企業は劣っているように感じます。今後、ホワイトナイト役を求められる企業が出てくることでしょう。意思決定の迅速さを磨くと同時に、できれば、事前に「○○社から支援を求められたら ……」と想定・準備しておくことも必要だと思われます。

経営者の仕事は「決める」こと

企業は(人生も)日々意思決定の連続です。経営者は「決める」のが仕事、経営者が決めたことを「する」のが社員です。企業は複雑で多岐にわたる工程、機能によって成立しています。経営者はこれらの機能をどれも自身がするわけではありません。

貝沼会長は今回の事案が飛び込んできたときに「決め」たのです。芝浦電子の現在の時価総額は700億円超。このような「しびれる」決断をできるかどうか。経営者は自身の責任において「決め」、その責任をとることが仕事のように思います。

被出資側の視点

「手紙」が届いたら回避することは簡単ではない

今回の2事案のように、直近(および過去3か月、6か月、12か月)の株価に対して1.5倍といった株価での買収提案を受けた場合、謝絶することは簡単ではありません。日本経済新聞も買収提案に関しては肯定的な論調です。

トランプ関税への懸念による株価暴落もあって、買収者の観点では極めて魅力的で、被買収者からみると極めて危険な株価になっている企業がさらに増えました。私はそういった企業の経営者に注意をお願いしていますし、ご相談いただくことも増えています。しかし、独立した企業でありたいのであれば、将来像の提示や資産の有効活用などの対策を講じ、買収者がその企業価値(株価)にさらにプレミアムをつけて買収してしまっては魅力的ではないと判断させるだけの企業価値を実現しておくことが必要と言えます。

未来への投資を!

ただし、買収されないように株価を上げることだけを目的として、増配(や自社株買い)をすることは、正しいとは言えません。企業が保有している資産は、その企業が設立以来蓄積してきたものです。長期にわたる努力の結果として蓄積した資産を、必要以上にかつ特別な理由なく払い出すことは、特定期間の株主への利益供与とも言えるものです。

それよりも、未来のために資金を使ってほしいと筆者は考えます。あくまで一例ですが、ソフトバンクの有利子負債は6兆円、米国は世界最大の対外純負債国。未来のために、資産を最大限に活用し、時には借金をし、投資する。それが経営者の仕事のように思います。
買収対象にならないために、また、アクティビストに狙われないために……ではなく、純粋に企業価値を高めるために資金は使われるべきだと感じます。

*ニデックー牧野フライスの場合、牧野フライスが手紙を受け取ったのが2024年12月27日、TOB開始が2025年4月4日。牧野フライス側は、ニデックよりも良い条件を示しうる企業が検討する時間が不足していると主張しています。
芝浦電子がYAGEOから手紙を受け取ったのは2024年12月30日、YAGEOがTOBを公表したのが2025年2月5日、TOB開始予定日は5月7日。

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 村田 朋博

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