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【静岡市立芹沢銈介美術館の「絵本と装幀 芹沢銈介の本の仕事」展】 芹沢銈介の本の仕事150点。民芸運動の機関誌一覧は必見

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡市立芹沢銈介美術館で7月1日に開幕した「絵本と装幀 芹沢銈介の本の仕事」展を題材に。

静岡市出身の染色家芹沢銈介のマルチな才能は、同美術館のさまざまな企画展で確認できるが、本にまつわる仕事は彼のバイオグラフィーの中で重要な位置を占めていると言えるだろう。

単行本や雑誌など500冊以上をデザインし、50冊以上の絵本も作った。今回展には絵本や装丁本150点が出品されている。

まず最初に目につくのは民藝運動の機関誌「工藝」(聚楽社)の第1~12号である。全て1931年に発行されている。運動の主唱者柳宗悦が「表紙を型染めにしたい」と思いつき、銈介に依頼してきたそうだが、銈介は銈介で型染めを始めたのはまさにその年。経験は浅かったが引き受けた。

デザインコンセプトを3カ月ごとに変えている。1~3月は真ん中縦に「工藝」と入れ、文字の上下 左右に逆さ卍(まんじ)のようなスタンプを入れている。「吉祥」の願いを込めたのだろう。4~6月は円の中に白抜きで2文字を配し、7~9月は短冊にひらがなで「こうげい」、10~12月は整然と横に並んだひし形で2文字を分断。さすがのデザインセンスで、「もの」として持っておきたくなる。

銈介が装丁を担当した、きら星のような小説家の顔ぶれを確認するのも楽しい。川端康成、岡本かの子、海音寺潮五郎、佐藤春夫、白洲正子、山崎豊子、山本周五郎…。型染めだけでなく、肉筆、合羽摺り、木版などさまざまな技法を凝らしている。

川端康成の創元社刊「雪国」(1937年)は落ち着いたたたずまい。銈介はこの本について「考えあぐ」ねたと回想している。窮余の一策としてねずみ色の強製紙に胡粉と黄土で白、黄色の線を引き、その中からいいものを選んだという。「増版に次ぐ増版で用紙の強製紙が間に合わなかった」らしい。ベストセラーの威力を感じさせるエピソードだ。

本の装丁は、銈介にとって実験の場だったのではないか。移ろいやすい消費者の好みをキャッチし、自分なりのマーケティング理論と芸術的感性をバランス良く混ぜ合わせて作品化した。「商業的成功」を念頭に置く創作は、彼の思考に大きな刺激を与えたものだろう。

(は)

<DATA>
■静岡市立芹沢銈介美術館「絵本と装幀 芹沢銈介の本の仕事」
住所:静岡市駿河区登呂5-10-5 
開館:午前9時~午後4時半
休館日: 毎週月曜(祝日を除く)、祝日の翌日
観覧料(当日):一般420円 、高校生・大学生260円、小・中学生100円
会期:9月23日(火・祝)まで

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