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神出鬼没、謎の路上リスニングバーを潜入調査

タイムアウト東京

神出鬼没、謎の路上リスニングバーを潜入調査

最近、都内各地に夜な夜な、路上リスニングバーが現れるという。ミニバーが搭載された自動車と牽引(けんいん)型のリスニングルームが「ニコイチ」で稼働しており、バーで買ったお酒を1杯やりながら、音楽を楽しめるらしい。しかも真空管アンプを使用していて、音もムチャクチャ良いのだとか。

そんな面白カッコいいものは体験したいに決まっているので、早速取材に行ってきた。

神保町で我々が見たものは

というわけで2月7日金曜20時、降り立ったのは古本とカレーの街「神保町」。まずリスニングバーを探すところからスタートだったのだが、この日は運悪く大寒波が襲来。吹き荒ぶ冷たい風が容赦なく体力を奪うようなハードナイトで、「なかなか見つからなかったら地獄じゃな~」と戦々恐々していたが、神保町駅を出てわずか8秒で発見した。

Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

いや、かっけぇ~~~~。

パーキングメーターに駐車されたカワイらしいエメラルドグリーンの車、SF映画めいたミドリ色のキャンピングトレーラー、そしてオシャレに灯る「BAR」と「MUSIC」のネオンサイン。それらは都内の大通りでビッカビカに異彩を放ちまくっており、通行人もキョーミ深そうに足を止めたり、写真を撮ったりしている。

Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

もうすでにワクワクが止まらないオレを快く出迎えてくれたのは、バーを企画・運営している神保と清田。早速話を聞くと、このキャンピングトレーラーは神保が考案したモバイルSS(サスティナブルステーション)というものだそうで、ソーラーパネルと大容量バッテリーを搭載した移動式のEV充電スタンドであるらしい。

Photo: Keisuke Tanigawaソーラーパネル

成り行きで生まれたリスニングバー

「DRIVETHRU」という自動車メディアをやっている神保と、八王子のさらに先にある檜原村(都内で3番目に面積が広く、実に9割が森だとか)の「ヴィレッヂ」というコワーキングスペースを運営している清田が、このプロジェクトを始めたのは、全くの成り行き。

このモバイルSSはヴィレッヂに設置されており、「この中は不思議と作業がはかどる」と評判で、Bluetoothのスピーカーでも音がムチャクチャ良いことに気づき、だったらいっそリスニングルームにしようということで、小松音響研究所のサウンドエンジニア・小松の監修のもと、真空管アンプを導入、サウンドデザインを施した。

Photo: Keisuke Tanigawa

ちなみに、このキャンピングトレーラーはもともと元・ホンダのデザイナーの設計だそうだが、本人いわく、音が良いのは意図したものでなく偶然だったとか。

さらに「リスニングバーもできるのでは?」と思い立ち、「ミニバーミドリ(minibar MIDORI)」のオーナー、シオリとコラボレーション。このような路上バーが完成した。すなわち酒と音と車と空間、それぞれのプロフェッショナルが総力を挙げた一大プロジェクトなのである。

2025年1月末から週1ペースで稼働を始め、恵比寿、桜新町に続いて、本日ここ神保町が3度目だ。

Photo: Keisuke Tanigawaミニバーミドリのシオリ

寒さもブッ飛ぶオーガニックジン

期待に胸を弾ませながら、まずはドリンクをオーダー。悩んだ結果、エンジンオイル缶を模した容器に入ったイタリア産オーガニックジン、その名も「ENGINE」をソーダ割りで。作ってもらっている最中、シオリにも話を聞いてみた。

なんでもこの移動式バーは、車と酒が大好きな彼女が、無料で譲ってもらったクラシックカーを自らレストアして作り上げたそうで、営業を始めたのは去年の末ぐらいのこと。海外の珍しい酒をメーンに扱っており、確かにメニュー表には見慣れない名前がズラリ。そうして差し出されたジンを、まずは一口飲んでみる。

Photo: Keisuke Tanigawa

いや、うっめぇ~~~~~。

クリアに澄み切ったドライな味わいと、柑橘系の香りが渾然一体となったソレは、「うまい」としか言いようがなく、しかも度数は42%もあるがヒジョーに飲みやすい。ヤバイゼ、こいつは危ねぇ酒だ。寒さもたちまちぶっ飛んじまう。そうして冷や汗を拭いながら、いよいよリスニングルームにイン。

いや、すっげぇ~~~~~。

Photo: Keisuke Tanigawaリスニングルーム

ラグとテーブルと座席がいくつかというシンプルな内装に設置された、真空管アンプとスピーカーとターンテーブルのクラシカルな説得力がハンパない。扉一枚隔てただけとは思えない異空間ぶりに少したじろぐ。

テーブルの上にはCDやレコードが並べられていて、ハービー・ハンコックやエリック・ドルフィーといったモダンジャズの名盤や、映画「フラッシュダンス」のサントラ盤、エイフェックス・ツインやタイ産ディスコなどなど、なかなか多彩なラインアップだ。

Photo: Keisuke Tanigawa

ド迫力のサウンド

にわかに色めき立つオレを尻目にプレイされたのは、ウィントン・マルサリスのライヴ盤「ライヴ・アット・ブルース・アレイ」。1980年代のアコースティックジャズシーンを牽引したレジェンドで、晩年のマイルス・デイヴィスがライバル視していたことでも有名なトランペッターだが、はてさてどんな音が飛び出すか……。期待に胸を膨らませていると、最初のトランペットの一音が響き渡った。

Photo: Keisuke Tanigawa

いや、やっべ~~~~~~。

それは予想を上回るサウンドだった。ふくよかな中音域でもって鳴るスネアの一撃や、腹に来るベースやキック、空気をつん裂くトランペットがかなりの迫力でせまってくる。ムチャクチャ音いい。そしてガッツリ音がデカい。路上でこんなボリューム出していいの?というぐらいの音量だ。

しっかり密閉された空間の中で跳ね回る音は、肉厚でパワフル。スゲ~とか思いながらジンをすすっていると、この日たまたま来ていたサウンドエンジニアの小松が隣に座り、アレコレと話をしてくれた。

Photo: Keisuke Tanigawa

「都内では午前3時半から4時10分までの間が、消費電力が最も少ない時間帯だからいちばん音が良い」とか「真空管アンプを使っている店だったら、下北沢のキャルコーヒークラブと富ヶ谷のカラスが、とりわけ音が良い」とか、音響にまつわる耳寄り情報(音だけに)をいろいろ聞いた。

ちなみにウィントン・マルサリスのライヴ盤も小松の選曲だったのだが、1990年代以降のウィントンに関しては思うところがあるようだった。

Photo: Keisuke Tanigawa

未来のためにちょっといいこと

結局ジンもおかわりしてしまい、2時間近くたっぷり愉しんだ後、ホロ酔い加減で再び神保の話を聞いた。「これだけの設備整えてると、結構電気使うんじゃないですか?」と尋ねたところ、意外にもこのサウンドシステムの電力消費は全体の1割ぐらいのものだそうで、ソーラーパネルでも悠々賄えてしまうのだという。

ソーラーパネルが作れる電気は決して大きいものではないそうだが、でもそうしたチリツモで、未来に向かってちょっといいことができたらいいな、と神保は語った。現在はこのモバイルSSの2号機の準備に取り掛かっているそうで、2号機はもっと小型のものになるという。

Photo: Keisuke Tanigawa

「もし僕らが砂漠で遭難したとして、水が湧き出るオアシスを発見したとしても、それだけでは生きていけないじゃないですか。でも、ネットワークと電気と水があったら、それで大分生きていけますよね。これは、都会の中のオアシスを作れないかって実験なんですよ」と言い、その思いを込めたイメージキャラクター・おあしす教授のラバーキーホルダーをくれた。

そして音楽好きらしく「ロックバンドのオアシスとは関係ないんですけどね」といって笑っていた。とてもサワヤカな笑顔だった。

Photo: Keisuke Tanigawa

この路上リスニングバーは期間限定の試みで、春ごろまでの運営を予定しているという。運行情報はおあしす教授のInstagramから配信される。

週1ペースで出現する都会のオアシス、ぜひ足を踏み入れてみてはいかがだろう。

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