サッカーに向いてない息子。親が他競技への転向を勧めてもいいのか問題
年中からサッカーしているのに3年生になっても未だにドリブルもリフティングもできないし本人も下手で向いてない自覚あり。自分も精神的に疲れてきた。
体験でテニスに連れて行ったらサッカーより楽しそうだったし、新しい道を用意したうえで向いてないサッカーを辞めさせるのってあり? というご相談をいただきました。
「向いてない」「周りより下手でつらい」という悩みを抱える保護者は多いと思います。向いていることをさせたら生き生き楽しそうになるのでしょうか。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験とこれまでの取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
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<サッカーママからの相談>
年中から習い事でサッカーをしていますが、3年生(9歳)なのに未だにドリブルもリフティングもできないし、強いキックもできません。
本人も自分が下手で向いていない自覚があるようで、前向きに練習に取り組む様子がありません。帰宅時間ばかり遅くなり、練習をしないので疲れず寝るのも遅いです。私も精神的に疲れてしまい、辞めさせる方法を探しています。
先日、テニスの体験に連れて行ったら「面白い! やってみたい」と笑顔で汗をかいていました。正直、サッカーでは汗をかくほど真剣に取り組んでいませんでした。新しいスポーツへの道を用意した上で、向いていないスポーツを辞めさせることは、やめ方としてありでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
さまざまな葛藤があるなか、こちらを頼っていただきありがたいです。先に結論からお伝えしましょう。
お母さんは、向いていないスポーツをあきらめさせ、他の競技に替えさせることに親が関与していいのかどうかを悩まれているようです。
個人的にはOKだと考えますが、ひとつ条件があります。
■転向するにしても、子ども自身サッカーが楽しいか、今のチームで続けたいか聞いてみて
年齢的に3~4年生です。息子さん自身に「サッカーが楽しいかどうか」「今のチームで続けたいのかどうか」「他のチームで続けたいのかどうか」を尋ねてください。
聞いてみた結果、お子さんが「楽しくない」と答えれば、「お母さんは、君が楽しいことをやってほしいと思うよ。楽しくやっている姿を見たいな」と話してはどうでしょう。
そのうえで「こないだ行ったテニスをもしやりたいのなら、テニスに替えてみるのはどうかな?」と提案してもいいでしょう。また、両方やってもいいのです。
■本人も向いてないのは自覚している、親が重ねて否定しないこと
そうではなく「楽しくないことはないんだけど......」と決めかねるようであれば、彼が自分で決めるのを待ってあげたほうがいいと思います。
その際、ハッキリしなさいとか、努力してないよねといった否定する言葉を投げるのはやめてください。
ご相談文にも「本人も自分が下手で向いていない自覚がある」と書かれています。なかなかうまくいかず自信がないことに取り組むことはそう簡単ではありません。
できれば「毎回サッカー休まずに行って偉いね。何でも続けられるってすごいことだよ。でも、いやだったらいつでも言って来てね」といった話をしてあげてほしいです。
つまりは、サッカーをやめるのも、テニスに転向することも、すべて息子さんに決めさせるのです。
その際「テニスのほうが向いていると思うよ」とか「サッカーはこれ以上やっても無駄かも」などとネガティブなことを言ってはいけません。何かできないことや足らないことは本人がわかっています。前述したように、否定しないことが重要です。
結論を伝えたところで、あと2つほどアドバイスさせてください。
■アドバイス① ほかの子よりできないから辞めさせたいの? 何のためにサッカーさせたのか今一度考えてみて
ひとつめ。サッカーを、何のためにやらせていますか? そこをぜひ考えてみてください。
スポーツの語源は「遊び」です。英会話や習字はある程度上達を目的に取り組むことかもしれませんが、私自身はそれさえも小学校の間は遊び感覚でいいと思っています。
子どもが自分がやっていることに対し、いつ目覚めるか、半端なく意欲的になるかはわかりません。子ども自身が「続けたい」と言う間は、経済的なことなど負担がOKであれば続けさせました。
スポーツは特に、習熟度や達成度を他の子どもと争う側面が多々あります。なぜならば、お母さんが「ドリブルもリフティングもできないし、強いキックもでできない」と思っている息子さんより、もっと下回る子どもだっているでしょう。もしそんなふうに習熟度が遅い子どもたちが集まっていれば、その中で息子さんは「できる子」になります。
習熟度を争うのではなく、好きなこと見つける季節だと考えませんか? 何か好きなことがあれば、毎日ウキウキ過ごせて人生は充実します。
学業やスポーツの習熟度など目に見える認知能力ではなく、積極的であったり、誰とでもかかわれる社会性があったり、思いやりといった非認知能力にも目を向けましょう。
■アドバイス② 向いてるか、向いてないかで決めるのはやめよう
ふたつめ。お母さんの「辛さ」はどこからくるものなのでしょうか。
ご相談文に「私も精神的に疲れてしまい」とあります。もし、お子さんがチームのエースでレギュラーなら疲れないのかもしれません。そう考えると、息子さんはテニスをやるにも何をするにも優秀でないと、お母さんはまた参ってしまいます。
お母さんの気持ち、少しはわかります。私も子どもが試合に出られないと悔しく思いました。が、一番悔しいのは息子なのだと思い、そのような態度を出さないよう気をつけました。
もちろん子どもはわかっていたと思います。そのように、親は愚かな生き物です。私自身、愚かな自分との戦いでした。
したがって、子どものスポーツに対して「向いているか」「向いていないか」といった物差しを当てるのはやめましょう。
「何か秀でたものを」と思うのは親心かもしれませんが、先ほど申し上げたようにスポーツをさせる意味を考えてください。物差しを当てられた子どもは、おのずと自己肯定感が下がります。
楽しく意欲的に取り組めているかという点に注目してください。
■寝る時間を早くするには、練習時間を確認してクラブを選んだほうがいい
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
また「帰宅時間ばかり遅くなり、練習をしないので疲れず寝るのも遅い」と書かれています。みんなと一緒に練習をしているはずなのに「練習をしないので」という意味がよくわかりませんでした。所属しているクラブでは上手な子にしか練習をさせないのでしょうか。
また、「疲れていないから寝るのも遅い」とありますが、スポーツをしない子でも早寝早起きの習慣がついている子は早く寝られます。
食事やお風呂の時間を早くするには、サッカーの練習が遅くまでやっているクラブは避けたほうがいいかもしれません。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。