眠らない、声掛けを無視…「周りの子との違い」に気づき始めた自閉症娘1歳の頃
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
一人歩きと公園デビュー
赤ちゃんの頃からほとんど育児書のめやす通りに身体的発達がみられたマユユは、1歳1ヶ月ごろになると一人で歩けるようになりました。
この頃まだ夜通し眠れたことがほぼなく(むしろゼロだったかも)、数十分から数時間おきに泣いたり唸ったりしていたマユユ。もちろん成長が喜ばしいというのもありましたが、正直「日中からだを動かして疲れたら今までより眠れるのでは……!」という想いもあり、念願の一人歩きでした。
ヨタヨタとした歩きが少し安定してきた頃、私たちはさっそく公園デビューしに行きました。
自宅保育だったので、この頃からほぼ毎日公園に通うようになった私とマユユ。
初めの方はただ座り込んで砂を触ったりするだけだったので「あまり公園は好きじゃないのかな?」と心配になりましたが、何度か出かけるうちにだんだんと本領を発揮していきました。
公園について一度地面に降ろすと、それ以降は母のほうを気にかける様子はなく、一人でふらふらと楽しむようになったマユユ。
声かけや制止がまったく効かず、手を繋ぐことも嫌がったので、私は危険や周囲への迷惑に配慮しながらせっせとガードしてついて回るようになりました。
この”声かけや制止が効かない”ことを当時は、「まだまだ赤ちゃんだし、何もかも目新しくて楽しいんだろうな」と深く考えていませんでした。しかし、今思い返すとあれは単に赤ちゃんだったからというわけではなかったのだろうと思います。
声かけの届かなさや制止の効かなさなどは、このあとエスカレートしていきました。
外出時に私の「待って、止まって」などの声かけにある程度応じてくれるようになったのは3歳過ぎてからでした。理解・人への意識・私との関係などいろんなものが成長したりして、ようやく声が入ってくるようになったのだろうと思います。
眠れるようになった?
しばらく公園通いの日々を続けていましたが、肝心の睡眠はどうなったかというと”わが子は寝なかった”です!
スマートフォンであれこれ調べる検索魔がクセになっていた私は、外の刺激が強過ぎて逆に眠れないのかも……?これがよくいう”(成長の)アップデート”なのかな?と悶々と考えたりもしました……。
ただ、たくさん遊ばせても、雨などであまり遊べなくても、けっきょく睡眠に大きな差が出るようなことはなかったです。
期待していたのになんで……
ほかにどうすればいいの……
喉から手が出るほど睡眠時間が欲しかった私は、当時はとても落ち込んでいました。
1歳を過ぎてもまだ全然眠れない!というような話は私の周囲では聞かず、次第に「どうしてうちの子はこんなに育てにくいんだろう」と悩むようになっていきました。
それでも、もうお外で過ごすのが大好きになっていたマユユ。
眠らないからと公園の日課をなくすことはできず、もはや義務のように毎日どこかしらお出かけしました。
子育て支援センターデビュー
ある日、気分を変えて子育て支援センターに行ってみることにしました。この時はいわゆるコロナ禍で、保育士さんにもみてもらえるスペースを少人数の時間制でやっているとのことでした。
人数制限の枠に間に合ってほっとしていたけれど……保育士さんが絵本を読み聞かせしてくださったのですが、マユユはお話を聞いていないどころか、一人ふらふらと自由に歩き回っていました。
「絵本読んでくれるよ、座ろう」など声をかけてみますが、声かけへの反応はありません。
どうしようと思っていると、まるで読み聞かせなど見えていないように保育士さんとほかの親子の間で遊びだす始末。これはダメだと止めましたが、それはそれは大泣きでした。
小さい子たちがちらほらそういう様子……とかだったらまだ良かったのですが、そういった子はいません。みんな絵本を楽しんでいたり、ママのお膝で喜んだり。
私たちはそうそうに退出しました。
読み聞かせのあとも、マユユはセンター内の制限のないスペースでおもちゃや絵本を手にとってはすぐ飽きたように次へ、次へ……いわゆる物から物へ興味が移り変わるような状態で、落ち着いて遊ぶことはしませんでした。
その後の私たち
周りの親子の様子と違い過ぎて、いたたまれなかったのでその後は子育て支援センターへ行くことはなくなりました。暑い季節だったので屋内で過ごしたかったけれど、人の少なそうな早い時間に公園へ行ったりショッピングモールで過ごしたりと、次第に人とあまり近い距離にならない場所を選ぶようになりました。
マユユの外出中に制止がきかない、抱っこや手繋ぎなどを嫌がる、などの様子は日増しに強くなっていきました。その後次第に水(水道や水たまり)やエスカレーターへの”執着”も育っていき、外出はどんどん難易度をあげていきました。自ら動けるようになったことで、自由にできない時には癇癪を起こすようにもなり、私は周囲に謝罪するばかり。
明日はどこへ行こう。
そう考える時の気持ちは暗いものになって行きました。
やはり障害とは思い至らなかったものの
そもそもの知識のなさからまだ障害とは思い至らなかったものの、「この子は個性的ではあるな……」「周りの子の様子と違うかも」とはっきり感じるようにはなっていました。
当時、ほかの親子がいる場面などで私は、周りに「ちょっと活発な子で」とか「わが道をゆくタイプで」みたいに半分冗談のように予防線のように話していました。
そして大人しくママのそばにいる子や、ニコニコとコミュニケーションを取れる子をみて抱えきれない暗い気持ちになったり、それを自分のなかで見なかったことにしていたのを覚えています。
いま振り返ると、結果的にはどの悩みも「辛抱強く過ごしていたらいつの間にか薄らいでいた」という感じでした。もちろん子どもへの対応方法を考えることも大事ですが、私自身の心のケアをもっと考えたら良かったなと思いました。
今もたくさんつらい気持ちになりますが、主に子どもをみている私(母親)のメンタルがとても重要に感じています。
執筆/サチコ
(監修:森先生より)
いろいろな問題は、時間が解決してくれるという部分は確かにありますね。でも、それだけではなく、サチコさんの頑張りの積み重ねも大きいのではないでしょうか。大変な中、少しでもお子さんに良いと思われることを頑張ってこられましたね。
さて、わが子をほかの子と比べてしまって、自分の育児に自信をなくして落ち込む、というご相談は実はとても多いのです。発達障害のあるなしにかかわらず、周りの子は「できる」ように見えてしまうものです。「発達障害であると診断されたら周りと比較しなくなった」という方もいらっしゃいますが、「同じく発達障害のある子と比較してしまう」という方もいらっしゃいます。
結局のところ、発達の度合いだけでなく、性格や興味の向く方向、集中力、体調などなど、その子によってそれぞれなので、その子にとって良いと思うことを試していくしかありません。「お母さん」にいろいろな人がいるのと同じように、「お子さん」も本当にそれぞれなのです。「発達障害」というくくりも、お子さんを理解するため、周囲からのサポートを受けやすくするためのツールの一つと考えましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。