柏木ひなた、オペラ初挑戦! 『蝶々夫人』でみせる新境地
来春開幕を迎えるリーディング・オペラ«op.2»『蝶々夫人』の主演に、柏木ひなたが決定。「私立恵比寿中学」のメンバー時代に“令和のアイドルで厳選!スゴいボーカリスト10人”に選出され、グループ卒業後には「千鳥の鬼レンチャン」で鬼レンチャンを達成するなど、圧倒的な歌唱力で歌手、そして女優として幅広く活躍する彼女が、本公演で初のリーディングオペラに挑む。
共演も豪華顔ぶれが揃う。蝶々夫人が愛するピンカートン役には上原理生、長崎に住むアメリカ人を世話する領事シャープレス役にはヴォーカルグループ「LE VELVETS」(ルヴェルヴェッツ)の宮原浩暢が、蝶々夫人を支える女中のスズキ役には歌舞伎俳優の市川笑三郎が出演。演出は声楽家であり「題名のない音楽会」等のテレビでもお馴染みの彌勒忠史が担い、この強力な布陣でプッチーニの名作を今に甦らせる。
数々の舞台で演じられてきた蝶々夫人を、果たしてどう演じてみせるのか——。主演を務める柏木ひなたに、本作への想いと現在の心境を聞いた。
ーーリーディングオペラ『蝶々夫人』でヒロインの蝶々夫人を演じます。主演を務める心境はいかがですか?
私はこれまでオペラというものに一切触れてこなかったので、もう全く未知の世界という感じです。出演が決まったとき、ファンのみんなも「え、ひなたがオペラ!?」ってかなりざわついていましたね(笑)。そもそも『蝶々夫人』という作品自体についてもほとんど知識がなくて。知ったかぶりをしたらこの先大変なことになると思って、最初に演出の彌勒さんに「何もわからなくて心配しかないんですけど、どうしたらいいですか?」って相談しました。そうしたら、「大丈夫、大丈夫、へんに先入観がない方がいい、逆に知らない方がいい。これからどんどん知っていけばいいんだから。これから一緒にやっていけば全然いいよ」って言ってくださって、ちょっと安心できました。
ーーオペラというと、いつも歌っている音楽とはやはり歌い方に違いがあるのでは?
そうなんです。そこもどうしようって思ったところでした。ただ最初に「柏木さんが今までやってきた歌い方で歌ってほしい」と言われて、そうか、自分なりのリーディングオペラをやっていけばいいんだと思って。とはいえ私にとって初めてオペラにきちんと触れる機会ではあるし、オペラにしかないものってきっとあると思うので、自分なりに吸収したいという気持ちもあります。それがまた今後の自分の音楽人生にも役立つと思うから。共演者のみなさんは初めましての方ばかりですけど、錚々たる方々で、学ぶべきところばかり。それをいっぱい見て、勉強して、吸収していけたらいいなと思っています。
ーー歌稽古が始まっているとのことですが、手応えはいかがですか。
まず代表曲『ある晴れた日に』の楽譜と音楽、歌詞をいただきました。でも実は私、楽譜が読めなくて。楽器の経験もほとんどないし、歌を歌うときもずっと耳コピでやってきたので、楽譜にきちんと向き合うという経験をしてこなかったんです。だから楽譜をもらっても、どの歌詞がどこにきて、というのがいまいちわからない。最初の歌稽古で「すみません、楽譜が読めないんです」って打ち明けたら、音楽を担当されているMAKIさんがピアノを弾きながら歌ってくださって。それをiphoneのボイスレコーダーで録音して、耳コピしていきました。
「よく耳コピで歌えるよね」って言われるけれど、デビュー以来かれこれ15年くらいずっとこのスタイルでやってきているので、自分にとってはたぶん一番合っているやり方なんだと思います。ただやっぱりオペラは難しいですね。聴いて、聴いて、聴き込んでも、実際に自分で歌ってみるとどこか違う。これから稽古が進むともっと難しい曲が出てくるのかなって、ちょっとドキドキしているところです。
ーー今回は箏と二胡、アコーディオンが生演奏で加わります。そこもまたいつもと違うところですね。
箏と二胡、アコーディオン、どれもご一緒するのは初めてです。普段はキーボードやドラム、ベース、ギターが基本で、あってもバイオリンなどストリングスが加わるくらい。こういう和の感じはなかなかないので、どうなるかちょっと楽しみですね。生演奏は大好き。やっぱり生の演奏があると高まるというか、自分のテンションや気持ちが上がります。ファンの人たちも生バンドの時はすっごい盛り上がってくれるんです。いつものライブとはまた違って、今回はファンの方にとっても新しく感じられる音楽になると思います。
ーー柏木さんというとグループ時代から歌ウマで評判でした。小さいころからやはり歌は得意だったのでしょうか。
子どものころから歌は好きではあったけど、特に人前で歌うこともなかったし、せいぜい母が運転する車の助手席でCDに合わせて歌っていたくらい。だから歌が上手いと褒められた覚えはなくて。それよりダンスの方が好きで、実際ダンスを習い始めてからは、将来はダンスの先生かダンサーになりたいって言っていましたね。その延長線上で、歌って踊れるのってかっこいいかもって思うようになり、歌が徐々に好きになっていった感じです。
初めて歌を褒められたのは、グループのオーディションで事務所の人たちの前で歌ったときのこと。自分の好きな楽曲のCDを持ってきてくださいといわれて、私はいきものがかりの『YELL』を持っていきました。ところがCDが壊れていて音が流れず、急遽アカペラで歌ったんです。小学校5年生か6年生くらいのころだったと思います。子どもだったから、恥ずかしいという気持ちもあまりなくて、楽しんで歌っていましたね。そうしたらみなさんに褒められて、そこで初めて「え、私って歌えてるんだ」って知ったというか。ありがたいことに、グループでもどんどん歌で注目していただけるようになりました。
ーーソロになってからは、ライブにアニメのテーマ曲と、歌手としての活動がさらに広がっています。
でも、自分では歌が上手いとは思ってなくて、楽しいから、歌うことが自分にとって生きがいだから歌っているというのが正直な気持ち。この10数年歌をやってきて、ステージ上が一番自分が輝ける場所だというのは自負しているところでもあります。もちろんファンの方だったり、自分の歌を好きでいてくれている人を楽しませたいっていう気持ちはあるけれど、きっと大前提に自分が好きで楽しんでるっていうところがすごくある気がします。
上手いって言われるのはもちろんすごくうれしいけれど、今はそれ以上のものを目指していきたいと思っていて。ボイトレの先生に「ひなたは歌が上手いと言われているけれど、今後は上手いじゃなくすごいって言われる人になってほしい。上手いの先に行ってほしい」と言われて、その言葉が心に強く残っています。実際歌が上手い人なんていくらでもいる。歌のピッチが合っていたり、リズムが合っていたりしたら、歌が上手いねってなる。でもそうではなくて、あなたの歌すごいねっていわれるようになれたら、という気持ちでいます。
ーー最後に、意気込みとメッセージを御願いします。
いろいろ音楽のジャンルはあるけれど、自分の中で触れる機会がなかったのがオペラで、今回こうして挑戦させていただけるのはすごく大きな経験だと思っています。全てが新鮮で、私も緊張しているけれど、私以上にファンの方が緊張しているかもしれないですね。それに若い子たちがオペラに触れる機会って少ないと思うので、この作品をきっかけにオペラの魅力を自分の歌で伝えられたらと思っていて。ぜひみなさんに新しい私を見てもらえたらうれしいし、何かを受け取ってもらえたらなって思っています。
ヘアメイク:松本なつめ
取材:小野寺悦子 撮影:山副圭吾