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<魚と睡眠のヒミツ>無防備になるのにわざわざ眠るワケ 生物にとって睡眠とは?

サカナト

砂の上で眠るカワハギ(撮影:みのり)

以前水族館に勤めていた私は、よくお客様から「魚って眠るのですか?」という質問を受けました。

結論から言うと、魚も眠ります。魚によってその眠り方は様々で、そのような説明をするとお客様は大抵満足してくれます。

しかし、こうした質問を受ける度に私自身も疑問に思いました。

「そもそも魚が眠るのは何故なのだろう?」

水族館で飼育している魚も明らかに眠っていることがわかりますが、魚における睡眠には何の意味があるのでしょうか。

魚の睡眠の仕方は多様

魚が眠るというのは、周知の事実だと思います。昼行性の魚・夜行性の魚がいるということは、それぞれ夜や昼には眠っているということです。

その寝方も様々です。岩陰に隠れて眠る魚、砂に潜って眠る魚、泳ぎながら半睡眠を行う魚など魚の睡眠の仕方は多様です。

呼吸のためにずっと泳いでいる必要があるマグロは眠らないと言われていますが、夜間に約6秒間ほど泳ぐ速度が落ちることが確認されており、この間睡眠していると考えられています。“超・ショートスリーパー”ですね。

余談ですが、魚以外の生きものもそれぞれの特徴にあったさまざまな睡眠をとることがわかっています。

飛びながら眠れるクロアシアホウドリ(撮影:みのり)

イルカやシャチなどを含むクジラの仲間や、トドやオットセイ、海鳥であるアホウドリや淡水域で生活するマガモといった鳥類の一部は、大脳の右半球と左半球が交互に眠る「半球睡眠」を行います。睡眠時には、寝ている脳と反対側の目が閉じます。

半球睡眠は、脳を休ませながら24時間起きていることができます。常に周囲の安全を確認する必要がある生きものや、長距離を移動する渡り鳥などに見られる睡眠だそうです。

睡眠という行為のナゾ そもそもなぜ眠るか?

そもそも、生物にとって睡眠とはどういう行為なのでしょうか。

実は、未だによく分かっていないそうです。睡眠学の権威である筑波大学の柳沢正史先生も、睡眠という行為は現在においてもよくわかっていないといいます。

浮遊しながら眠るハコフグ(撮影:みのり)

睡眠を取っている間は無防備

生き物たちは、睡眠をとると明らかに無防備になります。

筆者が夜のダイビングで出会った昼行性の魚も、非常に無防備でした。例えば、カワハギは砂地の上で横たわるだけ、ハコフグも泳いではいますがふわふわ浮いているだけで、ゼロ距離まで接近してもこちらに気が付きません。

マグロイルカは泳ぎながら眠りますが、起きている時と比べるとやはり泳ぐスピードは落ちています。無防備なだけならまだしも、反応まで落ちているのです。

水族館で飼育していた魚も、朝ライトをつけると水槽底でウトウトして、しばらくこちらに気がつかない魚がほとんどです。仮に私が天敵の肉食魚だったとしても、恐らく彼らはしばらく私に気が付かずウトウトしていたでしょう。これは明らかにデメリットです。

無防備になる理由は?

睡眠をすることで脳のメンテナンスを行う、また睡眠をしっかりとることが健康にいいことなどはわかっています。実験用のラットの睡眠を妨害し続けた結果、そのラットは全て死んでしまったといいます。

この実験結果から、また私たちが睡眠時間を削ると明らかにパフォーマンスが落ちることから考えても、睡眠が生物にとって欠かせない行為であるのは間違いありません。

しかし、その睡眠をとるのに何故無防備に、かつ反応まで鈍くなる必要があるのかは未だによくわかっていないそうです。

睡眠は生き物にとって古くから必要な行為

筆者が出会った睡眠中の魚も、捕食者が来たら簡単に食べられてしまうくらいには無防備でした。

しかし、人間も魚も、生き物はすべて睡眠が必ず必要であるという共通の特徴を備えたまま進化してきたということになります。

筆者が夜に出会ったビゼンクラゲ(撮影:みのり)

また柳沢先生によると、研究によりなんと脳を持たないクラゲも眠ることがわかっているといいます。

脳を持たない原始的な生き物であるクラゲでさえ眠るというのは、非常に興味深い内容です。睡眠というのが、脳を持つ以前の生物からずっと引き継がれてきた生物にはかかせない行為なのは間違いないのでしょう。

睡眠は個人によって異なる

これは人間の話ですが、人間は生まれつき朝型か夜型か、必要な睡眠量も異なっているそうです。

相対性理論で有名なアルベルト・アインシュタインはロングスリーパーだったと言われています。また、年齢によって朝に強いか夜に強いかも変化していくと言います。

これは筆者の考察ですが、ひょっとしたら魚も個体によって生まれつき必要な睡眠量は異なっているのかもしれません。

私も水族館勤務時代、水族館の開館時間に合わせてライトをつけていましたが、もしかするとその行為が一部の魚にとっては良くない効果をもたらしていたのかもしれません。

ミツバチは睡眠不足に陥ると、ミツバチ同士の情報伝達が上手くいかなくなるという研究結果も出ています。人間を含む生物の睡眠学がもっと進歩すれば、人間はもちろん、魚の飼育における睡眠の重要さもわかってくるかもしれませんね。

人間も魚もたくさん寝よう

2016年頃から2025年現在にかけて、睡眠学というのは飛躍的に進歩しました。睡眠にはタンパク質のリン酸化が関係しているのではないかという研究や、「オレキシン」という脳内物質が睡眠に深く関わっているということが明らかになったのもごく最近です。

それらの研究をまとめて一言で表すならば「もっとたくさん寝なさい」になります。

日本は先進国において平均睡眠時間がワースト1位です。睡眠学がわかってきたのも最近なので、周知されていないのも仕方ないですが、柳沢先生はこの日本の睡眠現状に警鐘を鳴らしています。

魚はおろか、クラゲまでちゃんと眠っているのです。水族館勤務時代の私は一日5時間くらいしか寝ていなかった気がします。

事故なく魚を管理するためにも、魚をしっかり眠らせてあげるためにも、私たち自身の睡眠をもっと理解する必要があるのかもしれませんね。

(サカナトライター:みのり)

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