看護学校”パワハラ自殺” 「竹刀持って走る」黒塗りで隠された証言 : 看護師になりたかった…⑪
「普通の人がそこに入ってきたら異様だと思います。
言葉の暴力っていうか、言い方がちょっと結構やっぱりきついので」
「レベルに達しない学生は落とす、やめさせる感じなのですよ。切ってしまうという感じですね。」
北海道立江差高等看護学院に通う男子学生の自殺をめぐり、複数の学校関係者が第三者調査委員会の聞き取りに対し「学校の異様な状況」を証言していたことが裁判所に提出された証拠資料の閲覧で分かりました。しかし、それらの記録は情報開示では全て黒塗に・・・。一体、学校の中で何が起きていたのでしょうか。
裁判記録から浮かび上がる「学校の異様な状況」
2019年に北海道立江差高等看護学院に通う男子学生が自殺した問題。2023年には、北海道が設置した第三者調査委員会が、自殺した学生に対する3人の教師による4件のパワーハラスメントを認め、学校の学習環境と自死との相当因果関係を認定しました。しかし、その後の遺族側が起こした裁判で、北海道側は一転して4件のパワハラを全否定する主張を展開。看護師を目指し勉学に励んでいた学生の「死」の原因をめぐり、遺族と北海道との間で激しい争いが続いています。
「事案の重大性に鑑み、客観性を確保する観点」から北海道が設置した第三者調査委員会。その調査結果を「客観的ではない」として北海道側が全否定するという“異例”ともいえる状況を受け、HTBは裁判が行われている函館地方裁判所で裁判記録の閲覧を行いました。そこから見えてきたのは、関係者が証言する「学校の異様な状況」でした。
連日泣いていた学生…教師が証言するパワハラの実態
「うちの学校はおかしいのですけれど、入学したから、せっかく入ったので、育てて卒業させるということではなくて、先生たちのレベルが高いのかよくわからないのですけれど、レベルに達しない学生は落とす、やめさせるみたいな感じなのですよ。切ってしまうという感じですね。」
「入ってきた入学生でもう既にレベルが低いとか何とかいって、ふるいに掛けるみたいな。会議でもそういう話が出てくるし、なんかそういう時点でおかしいよねって」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
学校内の会議では、学生を【育てる】のではなく【ふるいにかける】話し合いが行われていたと、第三者調査委員会の聞き取りに答えた教師の1人が証言しています。また、自殺した男子学生については、パワハラが認定されているD教師からの指導で「連日泣いていた」とも証言しています。
「私が見てたのはD先生の指導の感じで連日泣いてたっていうのがあったので、あぁちょっときついなっていう感じで。(中略)普通に分からない人が入ってきたら、すごいびっくりすると思う」
「10分前後だと思うんですよね(中略)やりとりをしていくうちにヒートアップしていく感じ」
「D先生が、全部言いたいこと言い終わらないと終わらないので」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
この教師によると、初日は5分だった指導が、翌日には10分と徐々に長くなり、廊下にいても聞こえるほどの大きな声になることもあったといいます。そして、自殺した男子学生が追い詰められている様子も見て取れたといいます。
「▲▲(自殺した学生)を追っていって、『大丈夫』って言ったら、『はぁ』って、ため息をつきながら、しょんぼりしている感じだったんで。」
「明らかに受かるとは思っていないと思います。」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
“竹刀を持って走る“ 学校関係者が目撃した異様な「指導」
「今これから、教務室に走って、『終わりましたっていう、報告に行くんです。』って言って、教務室の前で汗を拭いてたっていうのを忘れられない」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
学校の異様な状況については、別の学校関係者も第三者調査委員会の聞き取りに対し証言しています。この関係者は、自殺した学生が竹刀を持って学校の周りを走らされていたのを目撃したといいます。
「時期は暑い時だったんで、多分8月か、9月の初めだと思うんですけれど(中略)夏の暑いときに、汗かきながら、▲▲(自殺した学生)が剣道の竹刀を持って、ふっふって息を荒い状態で学校のホールというところに来たんですよ。で、自分は▲▲(自殺した学生)に『どうした。』って聞いたら走ってきましたって。すごく汗かいて▲▲(自殺した学生)に『何で走ってるの。』って聞いたら、『先生に走れ』って言っていたんですよ。(中略)2年前にも男子学生なんですけども、その子供も学校の周りっていうか病院の周りをよくずっと剣道の竹刀を持って走らせるのを、自分みてたので、また、まだやってんだって思ったんですよ」
「その時に、『おまえ、そんなことやってる時期じゃねえべ、勉強やってねべよ』って言ったんですよ。そしたら、笑いながら『そうなんですけど。言うこと聞かないと』って言ってたから、自分はそれ以上のことは何も言わなかったですね」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
「心外です」「覚えてもいない」パワハラ認定教師らの証言
一方で、第三者調査委員会はパワハラが認定された教師にも聞き取りを行っています。竹刀を持って走るよう伝えたと指摘されているC教師は聞き取りに対し、自殺した学生が「やってみたいなって言ってくれたことだと思って、それで始めました」と教師側から強制した事実はないと否定しています。
「▲▲(自殺した学生)と何らかのコミュニケーションを取ったときに、『いますごく自分で何かやるってことがない』っていうことを話してくれたのですよね。(中略)そして、私は運動をしたら気分が晴れたり気分が前向きになるので、運動もしてみたら良いかと思うよって言うことも勧めて。(中略)その中でいろんなことを提案した中で、▲▲(自殺した学生)が、走ることとか運動することとかしてみようかな、っていうふうに言ってくれたので、だったら、私は今剣道とかもやっていたので、そこで、やる気が紛れたりとか気分転換にもなったりするよという話もして(中略)強制でも全くなく、それでやってみて気分転換になるようだったら続けたらいいし(中略)一方的に走ってみたらどうかとか、言ったわけではなくて、そこは、結構な話し合いの中で、▲▲(自殺した学生)がやってみたいなって言ってくれたことだと思って、それで始めました。」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
あくまで気分転換の1つとして「提案」し、学生が自ら行ったことだと主張するC教師。ほかの教師や元学生などへの聞き取りでは、C教師について「パワハラ」を指摘する証言が多く出ていることから第三者調査委員会の座長は、「あえて聞きますけれども、先生が善意で見に行って『ちゃんとやっている?』って言っていることが、▲▲(自殺した学生)にとっては、チェックしているように感じるって言うこともありえましたか」と尋ねていますが、C教師はプレッシャーを与えるようなことはしていないと答えています。
「私が行って何か嫌な感じとか、表情が険しくなるとか、反応が全くないとか、そういうことが無かったので、そういうふうなのは感じませんでしたし、結局、フェイドアウトしてしまったというか、それに関しても『もっと続けたら』って言うようなこともなく、気分転換とかにはならないっていうことだったのだなってことで、私は認識していたので。」「心外です。」
(裁判所に提出された第三者調査委員会の聞き取り記録閲覧より)
また、自殺した学生が「連日泣くほど大きな声で指導をしていた」との証言が寄せられたD教師は、第三者調査委員会の当該事案を覚えているかとの聞き取りに対し、「覚えてもいないです」と話していることが、聴取の記録から分かりました。
訴訟を理由に非開示…透明性を欠く北海道の姿勢
裁判所に提出された証拠資料に示されていた、江差高等看護学院の校内の様子を示す生々しい証言。このように第三者調査委員会の聞き取り記録には重要な証言が数多く記録されていますが、北海道はこの内容を積極的に開示していません。HTBは裁判所に提出された証拠資料と同じ第三者調査委員会に関する会議録や聴取記録の一式を今年1月17日に北海道に対し開示請求しています。通常、情報開示は2週間以内に行われますが、今回は北海道側が「決裁に時間を要している」として期限を延長。結局、請求した文書が開示されたのは、2カ月後の3月17日でした。
しかし、延長の末に開示された文書は、「開催日時」と「場所」「聞取り者」以外は全て黒塗りで内容が隠されたものだったのです。北海道は開示しない理由について「争訟の進行等に影響がある情報であって、開示することにより当該事務の目的を失わせ、又は公正若しくは円滑な実施を著しく困難にすると認められるものであるため」などとしています。
黒塗りとなった資料は他にもあります。男子学生が亡くなった当日の状況を詳しく記した事故対応記録です。「発生日時」「発生場所」以外の情報はすべてが黒塗りとなって開示されました。
ところが、HTBはこれと同様の文書を2022年に北海道に対する情報開示請求で入手しています。そこには、男子学生が亡くなった日の朝、学生と連絡が取れないことを心配した教師2人が学生宅に向かい学生を発見し、救急車よりも先に110番通報をした状況などが詳細に記されていました。つまり、3年前には開示されていたはずの内容が、今回は全て黒く塗りつぶされていたのです。なぜ、3年前と今で開示部分が変わったのでしょうか。北海道地域医療推進局医務薬務課は「訴訟になったので非開示とした」と説明しています。
<左:今回開示された事故報告 右:2022年に開示された事故報告>
「係争中なのでコメントを控える」として、第三者調査委員会の結果をどのように受け止めているのかという問いにも、いまだ回答を避けている北海道。学生の自死事案以外にも、北海道立高等看護学院では11人の教師による53件のパワハラが認定され、北海道の責任が厳しく指摘されています。「知事としての職責を果たして説明責任を果たしていきたいと思っています」知事のこの言葉は、いつ果たされるのでしょうか。
取材:HTB報道部 前田愛奈 / HTB社会情報部・喜多和也
厚生労働省は先の見えない不安・生きづらさを感じているとき、ひとりで悩まずに「いのちSOS」などで専門の相談員に相談してほしいと呼びかけています。
また、HTBでは、この問題について特設サイトを設置しています。ご意見や情報提供をお待ちしています。
▼看護師になりたかった… 看護学院パワハラ問題特設サイト
https://www.htb.co.jp/news/harassment/
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