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学生たちの作品が過去最高評価となった「建築学生ワークショップ 日本国際博覧会2025」。最優秀賞はラタンを使った美しく軽量な建築

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会場には多くの人が集まり、学生のプレゼンテーションを見守った ©Satoshi Shigeta

「建築学生ワークショップ 日本国際博覧会2025」公開プレゼンテーション

「建築学生ワークショップ 日本国際博覧会2025」のチラシ

特定非営利活動法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が主催する「建築学生ワークショップ 日本国際博覧会2025」。
建築学生ワークショップは、毎年、日本の建築の原点ともいえる「聖地」に集まり開催されている。建築や建築史などの分野で日本をけん引する講評者たちが集い、未来を担う建築を学ぶ学生に挑戦の場と評価の機会を提供する取組みだ。
今年の公開プレゼンテーションは、2025年9月14日、アジア太平洋トレードセンター(以下、ATC)にて開催された。

今年は2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の年に、「50年後の未来のために建築ができること」をコンセプトとして制作をおこなった。ATCの敷地内に学生の小さな建築がつくられ、当日は多くの人々が会場に集まった。

会場には多くの人が集まり、学生のプレゼンテーションを見守った ©Satoshi Shigeta

今回の建築学生ワークショップのテーマは「想いをかたちにし、〇〇の未来を切り拓く」。
このテーマは、京都信用金庫の榊田理事長と大阪・関西万博会場デザインプロデューサー藤本壮介先生との対談を通じて生まれたという。未来のビジョンが見えにくい現代において、まず「想いを持つこと」、そしてそれを建築やデザインを通じて「かたちにする」ことを重要視したテーマとなった。

さらにサステナブルの観点も重視された。近接する万博会場の夢洲がゴミを埋め立てた島であるという背景も踏まえ、学生たちはゴミを出さない施工や方法、再利用を探求することが求められた。万博会場から排出されるペットボトルや紙おむつなどのゴミを再利用した素材や竹や木材など再利用可能な素材でフォリーを設計する。

約3か月にわたるワークショップの集大成として、参加学生たちは「想いをかたちにし、〇〇の未来を切り拓く」というテーマのもと制作した小さな建築作品=フォリーを発表した。

学生たちの建築への情熱の具現化:公開プレゼンテーション前半

上)グループ1「空を編む」左下)グループ2「あかのきおく」右下)グループ3「CAP×CELL」©Satoshi Shigeta

公開プレゼンテーションでは、グループ1からグループ10までの作品発表と講評が行われる。
まずは設置場所にて各作品を実際に見て回り、その後、学生たちの建築物の設計意図や構造などの工夫のプレゼンテーションが行われ、その後、各界を代表する21名の講評者による採点が行われ、最優秀作品が選出される。敷地をどう読み解いたか、テーマに沿った作品となっているかが評価の対象となった。

それでは実際の学生たちの建築物のプレゼンテーションを紹介しよう。

グループ1:「空を編む」
万博で回収された紙おむつから再生した素材の三角の筒状のユニットを使い、組み合わせることで螺旋状に編み込むように構成した建築を提案。幾何学的でありながら、ユニットの組み方でフォルムが変化。光や風を柔らかく受け止めるように工夫された。分解・リサイクル後、家具としての再利用も考慮されている。

グループ2:「あかのきおく」
リサイクル過程で規格外となったペットボトルを構造体として使用し、「命」をテーマに赤い糸を巻き付け連結させた作品。ペットボトルをつなぎ合わせた構造体の美しさが評価されたが、せっかくの構造体の意外性が巻き付けた糸で隠されてしまっていることについて表現方法を工夫したらもっとよいのではとのアドバイスもあった。

グループ3:「CAP×CELL」
通常リサイクルされにくいペットボトルキャップ(ポリプロピレン、ポリエチレン)を熱で溶かし、小さな細胞のように繋げて大きな面を制作。これを曲げて加工することで、光を透過させて柔らかな空間を生み出した建築物。

上)グループ4「体望~森の境界~」下)グループ5「影の流転」©Satoshi Shigeta

グループ4:「体望~森の境界~」
端材でつくられた木のフレームを組み合わせて構造体としている建築物。木のフレームは、万博に訪れる子どもたちが自由に描いた絵を飾ることを想定している。互いのフレームが支え合い連なっていく建築物をつくりあげた。

グループ5:「影の流転」
竹を素材とし、太陽の動きを読み解き「影」を移動させる建築物を提案。竹の繊維構造を利用して曲げる加工技術や、柱に足元の短い部分、屋根に先端の長い部分を使うなど、素材の特性を活かしたディテールが評価された。

素材の探求と構造への挑戦が垣間見える:公開プレゼンテーション後半

上)グループ6「延」左下)グループ7「往来のあわい」右下)グループ8「交わり、重なり、紡ぐ」©Satoshi Shigeta

後半の5つのグループの作品を見ていこう。

グループ6:「延」
計画地が見落とされがちな立地のため「高さと風による揺らぎ」で人々を惹きつけ、人々の足を止め、海を見つめ空を仰ぐことで自分自身の未来や希望へ想いを馳せるような場をつくることを目指した。それを表現するため、軽量でありながら強度をもつラタン(籐)が採用された。構造はロッキングチェアの応用でフレームが傾くと、張力により復元力が働き、元の位置に戻る仕組みとなっている。しなやかさと強度を併せ持つ建築。

グループ7:「往来のあわい」
彼らの計画地は人流が多い場所。2本の木柱と1枚の大きな和紙で成り立っている建築は、木柱に湾岸地域の森の循環を促す活動で間伐された木材を使用。和紙は、万博で回収される紙ごみからつくったパルプを使い、学生自身が1枚1枚漉きあげた。和紙には水滴を打ち付けて穴を開けるデザインが施され、光や風を受け、影の揺らぎをもたらす空間となっている。

グループ8:「交わり、重なり、紡ぐ」
竹の構造体に和紙、ペットボトルの再生素材、リサイクルナイロンのパネルなど多様な素材を組合わせた建築物。変わるものと変わらないものが一つに紡がれることで、未来への可能性を感じられる時間を与えることを目指した。竹構造は結んだだけでは直線だが、面体の重みや風による引っ張りによってたわみ、そのときどきの形が生まれるとしている。

上)グループ9:「すわる、しなる、ゆらぐ。」下)グループ10:「溶景」©Satoshi Shigeta

グループ9:「すわる、しなる、ゆらぐ。」
計画地が大規模なパビリオンに囲まれた場所であるのに対し、ヒューマンスケールで体験ができるよう提案。作品は、竹のたわみを利用したアーチ状の構造を組合せ、人の体重がかかることで構造が一時的に強化されつつ、揺れる仕組みを持っている。座ることと揺れることの体験を通じて、審査員からは、そのフィジカルな体験の面白さや、小さな行動が大きな影響を与えるというコンセプトが評価された。

グループ10:「溶景」
西広場を敷地とし、時間と有限性をテーマにしたグループ10。短い時間で溶けてなくなる氷と、数万年かけて固まった花崗岩を組合せて対比させることで、時間の有限性や永遠性を体験的に感じさせる空間を目指した。講評では、氷を溶かすプロセスが短時間では十分に表現しきれない点や、氷の生成時に真ん中にできてしまう不純物の線へ、もうひとつ工夫も必要だったのではという意見も出た。

最優秀賞はグループ6の「延」、優秀賞に輝いたのはグループ1の「空を編む」、特別賞はグループ9の「すわる、しなる、ゆらぐ。」

特別賞を受賞したグループ9の「すわる、しなる、ゆらぐ。」©Satoshi Shigeta

厳正な審査の結果、最優秀賞、優秀賞、特別賞が決定。賞状と副賞のミャクミャクのトロフィーが授与された。

まず特別賞は、グループ9の「すわる、しなる、ゆらぐ。」。
竹の強さとしなりを活用して、フォリーに座り、竹のしなりで揺れる体験ができる建築だ。実際に座った審査員からは「楽しかった」というコメントも寄せられ、そのフィジカルな体験の面白さや、小さな行動が建築の変化に大きな影響を与えるというコンセプトが評価された。

続いて優秀賞に輝いたのはグループ1の「空を編む」。
三角の筒状のユニットの組合せで建築物を構成させた。三又のジョイントでのユニットの組合せが様々な形が表現でき、ある程度のスケールが安定して出せることも評価された。講評の先生方からは「組合せのコンセプトが単純で明快。切れ味のある作品だ」との評価も得た。

優秀賞を受賞したのはグループ1の「空を編む」©Satoshi Shigeta
最優秀賞に輝いたのは、グループ6の「延」。建築家の藤本壮介先生から賞状とトロフィーがおくられた©Satoshi Shigeta

最優秀賞に輝いたのは、ラタンを用いたグループ6の「延」。
彼らの敷地は、海に近く周囲よりも高い場所であり、海からの内陸方向へ吹く風や、広がる海と空という3つの敷地の特徴に着目した。
審査員からは「風を強く実感した場所だからこそ、ああいう形で風を表現するフォリーは非常に良い象徴性があった」として高く評価された。また、「最後まで手で調整しながらつくりあげた現場の感覚が伝わる」点や、内部空間から空を見上げたときの美しさに加え、「建築学生ワークショップ史上、一番軽量では」という点も評価された。

過去最高評価となった学生たちの熱意ある創意工夫。開催事務局の努力に拍手

講評者の方々からも「過去一番で学生の作品のクオリティが高かった」と評価を受けた「建築学生ワークショップ 日本国際博覧会2025」 ©Satoshi Shigeta

AAFの代表である平沼先生は、高い基準が求められ、厳しい状況を乗り越えたことで、学生たちの作品のクオリティが高まったと評価した。
他、講評者たちからも「過去一番で学生の作品のクオリティが高かった。折れずにつくりあげたことを評価したい」、「建築は立地条件は重要なポイントではあるものの、その後移築されることもある。普遍的な部分も大切であり、敷地の変更は時としてチャンスにもなる」とのコメントも寄せられた。

今回の公開プレゼンテーションには、大阪府知事、万博協会、金融機関の代表、過去および未来の開催地(東大寺、明治神宮など)の代表者、そして著名な建築家や構造家、建築史家らが多数来場した。
開会にあたって大阪府の吉村知事からは、万博の木造リングを例に「建築には人を魅了する力がある」と強調。学生たちに「このワークショップを通じて世界的に活躍する建築家が生まれることを期待する」とエールがおくられた。
大阪・関西万博協会 田中副事務総長は、学生の提案が「未来社会の実験場を体験しているようだ」と評し、建築が「その街のシンボルになり、多くの人を引きつけ、活動や交流が生まれる力を持っている」と語った。

また、東大寺管長の橋村氏からは、2020年のコロナ禍での開催を振り返り、今回の状況下でも学生ワークショップを継続できた意義を強調。過去の開催地の関係者の方々は、学生たちの作品に「命の表現」を見出し、継続的な活動の価値を力強く支持した。

学生たちには、このワークショップを通じて得た濃密な期間と経験を将来の糧とし、日本の建築界、さらには世界の建築界を担う人材としての期待が寄せられている。

さて、次年度となる2026年の建築学生ワークショップは、聖徳太子により建立された法隆寺での開催が正式に発表された。法隆寺の持つ長い歴史と、世界最古の木造建築としての技術・精神を未来に繋ぐことがテーマとなるようだ。

来年、繋がれてきたこの建築学生ワークショップがユネスコの世界遺産でもある法隆寺で、またどのような建築が生まれるのかが楽しみである。

■取材協力
特定非営利活動法人アートアンドアーキテクトフェスタ
https://ws.aaf.ac/

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