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良い仕事は「良い頼みごと」から生まれる。誰かに何かを作ってもらう人が押さえておくべき“7箇条”

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今週、皆さんはどんなふうに「お願いごと」をしましたか?

システム開発や、新規事業創出にまつわるプロジェクトにおいては、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーが、開発部門に対して「〜を作ってほしい」とお願いする局面がしばしば訪れます。

そういった場面において、コミュニケーションの齟齬などが引き金になり、結果として、誰しもが「こんなはずじゃなかった」と感じるものが出来上がってしまうことは珍しくありません。

世のほとんどの仕事は一人で完結しない、誰かに何かを作ってもらわなければ成り立たないものです。

だからこそ、仕事の質を上げ、キャリアアップを目指したいビジネスパーソンにとって、「お願いごと(依頼)の技術」は必要不可欠と言えるでしょう。

そこで今回は、システム開発やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO、業務プロセスの一部を外部委託すること)を牽引するコンサルタントとして、数々の大規模プロジェクトを成功に導いてきた経験を持つ白川克さんに、「依頼の技術」を学びます。

白川克(しらかわ・まさる)さん。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ COO。1972年生まれ。一橋大学卒業後、中堅ソフトハウスでシステム開発を経験し、ケンブリッジに転職。『システムを作らせる技術』(共著)など著書多数。

※取材はリモートで実施しました

主体性のないメンバーに「当事者意識」を持ってもらうには?

──白川さんはコンサルタントとして、さまざまな大規模プロジェクトを成功に導いてこられました。システムや新規事業を「作る」プロであり「作ってもらう」プロでもある白川さんに、「依頼の技術」というテーマでお話を伺いたいです。

白川克さん(以下、白川):ビジネスでもプライベートでも、人に何かを依頼するときに大切なことは基本的に同じだと思っています。以前、設計士さんとコミュニケーションして当社のオフィスや自宅を作ってもらった経験も勉強になった、と感じているので、そういった過去の経験も踏まえてお話ししますね。

あくまで「プロフェッショナルに何かを作ってもらう」というシチュエーションに限られますが、人に何かを依頼するときに大切なのは「主体性」、「文脈を伝える」、「Whatの言語化」、「価値判断」、「組織内合意」、「プロの選定」、「リスペクト」の7点だと考えています。

──それぞれ詳しく教えていただけますか。

白川:まず1点目の「主体性」ですが、例えば「自分の家を作ってもらう」場合、主体性を発揮しない人はほとんどいないと思います。家は得てして人生で一番高い買い物ですし、こだわりたいポイントも多いと思うので。

ところが、「企業で新しいシステムを作る」という話になると、主体性に欠ける人が一気に増えてきます。そうした人たちは、決して前のめりに提案したり段取ったりせず、「やらされ感」満載です。

何より困るのが、実際にそのシステムを使う部門(業務部門)が、システムを作る開発部門とのコミュニケーションに時間を割いてくれないケースが非常に多いことです。以前、ある企業の情報システム部門の方から、「現状のシステムの問題点と新しいシステムの機能提案をまとめた資料を作ってプレゼンしたのに、業務部門は関心を持ってくれなかった」というツラい話を聞いたこともあります。

現代企業におけるシステムとは、仕事のありようを10年単位で規定してしまうほど重要なものです。システムを作ることは将来の仕事を設計することとほぼ同じと言えるにもかかわらず、そのプロセスに主体性を持って向き合えていない人は残念ながら少なくありません。

──おっしゃる通りですね……。ただやはり、ステークホルダーが多くなればなるほど当事者意識を持ちにくくなる、といった側面もあるのでは、と想像しています。あらゆる立場のメンバーに主体性を持ってもらうにはどうすればいいのでしょうか?

白川:先ほどの話に出てきた情報システム部門の方に「我々だったらこうします」とお伝えしたのは、マネージャー層も含めた業務部門のメンバーをとにかく丸一日拘束し、現状のシステムの問題点とその解決策について懇々と議論すること。もちろん、部長や課長クラスの方々に丸一日時間をとってもらうのは大変ですが、いま取り組もうとしているテーマはそれほどの時間をかけるに値するものであると、まず理解してもらう必要があります。決して業務部門を糾弾するための場ではありませんが、業務部門のメンバーがプロジェクトに主体的に関わらないと現状は打破できないという構造を分かってもらうことも必要です。当事者意識のない方を口説くには、それくらい労力がかかりますね。

「ほしいもの」は完璧に言語化できない。だからこそ“文脈”を伝える

──2点目、3点目の「文脈を伝える」「Whatの言語化」とはどういうことでしょうか?

白川:本当であれば、作ってもらう側の人が、ほしいもののディテールを完璧に言語化して作る側に伝えるのが理想的です。けれど実際は、言語化するには専門知識や経験も必要ですし、素人には難しい部分も多い。だからこそ、作る側に「文脈」を伝える必要が出てくるんです。

例えば、私はオフィスや自分の家を作ってもらうとき、「私はこんな仕事をしていて、家では普段こんな過ごし方をしています。〇〇が好きで◯◯が嫌いです」という情報を15ページほどの文書にまとめて設計士さんに渡しました。好きなアーティストのアルバムジャケットなども添えて、こういう雰囲気が好みです、とも伝えましたね。

建築に詳しくないからこそ、作りたい家のイメージをプロに理解してもらうために、前提条件(文脈)をできる限りお渡しするべきだと思ったんです。

──プロに対して半端な相談事をするのは失礼だ、というイメージもあるのですが……。

白川:いえ、イメージからディテールを構築するのはプロの仕事ですし、そこはプロの技術や知識を信頼してお任せすればいいと思います。むしろ、持てる力をフルに発揮してもらうためにも、こちらは「文脈」をできる限り共有すべきなんです。

システムの場合も、エンジニアではない方が「この画面でこの情報を入力したらこういった計算をする機能を作ってください」と完璧に言語化するのは難しいので、自分たちのビジネスの概要や課題感、システムを使う際のシチュエーションなどをエンジニアに一生懸命伝えるのが大切だと思います。

ここに時間を割くことを嫌がる人も少なくないのですが、「業務部門がコミュニケーションをとってくれないので仕方なく独断で開発を進めた結果、後から文句を言われた」という愚痴を開発部門の方から聞くことはとても多いんです。作ってもらう側の主体性と文脈を伝える熱心さがどちらも欠けている場合、ありがちなケースだと思います。

──Whatをうまく言語化できない分野の場合、ラフなイメージを用意して、作る側に共有することは避けたほうがよいのでしょうか? 例えば、デザインのラフ画を渡す、漠然としたアイデアを伝える、など。

白川:たしかに、プロジェクトの初期段階において、ラフなイメージを伝えることは決して悪いことではありません。例えば、「システム開発について少し勉強して最近はこんな新しい機能があると知ったのですが、この機能を追加するのはどうでしょう?」と提案してみるのは、プロにとっても検討材料を増やすことにつながるので遠慮しなくても良いと思います。もちろん、渡したアイデアをプロが検討した結果、それが採用されないケースもありますが、お互いに議論を尽くした結果なので無駄ではありませんよね。

私も家を設計していただく際、「あくまで素人の妄想なのできちんとした提案にはなっていないのですが、こんな雰囲気もアリかなと思っています」と申し添えた上で自分のイメージを伝えることはしました。「自分はその分野のプロではなく、あくまで妄想だけど」とことわったうえで伝えるのは大事なポイントかもしれません。特に建築物などは「設計図」をプロに渡してしまうと、それが物理的な可能性を考慮しない単なる妄想であっても「南側に大きな窓がほしいんだな」などと捉えられて、こちらの意図しない形で制約を生んでしまう可能性もあるので、注意は必要でしょうね。

頭の中にあるアイデアは臆せずに伝えつつ、あくまで「餅は餅屋」だとしっかり線引きすることも大切だと思います。

「この機能は必要か、不要か」の組織内合意を得るために必要なプロセス

──4点目、5点目の「価値判断」「組織内合意」は、プロジェクトにとって肝になりそうな部分ですね。

白川:はい。例えば、家を作ってもらう場合、空間も予算も有限ですから、「2つ目のトイレと書斎のどちらか一方しか選べないとしたらどちらを取るか」「プラスで100万円かけてお風呂のグレードを上げるか否か」といった価値判断がその都度必要になってきます。技術的なものではない「価値」は作る側が決められないので、依頼する側が自ら決めなければなりません。システム開発の場合も、基本的には作るものが大きくなればなるほど難易度も予算も上がるので、「何を取って何を諦めるか」というシビアな判断をクライアントにしてもらわなくてはいけないことが多々あります。

この価値判断のために必要なのが、5点目の「組織内合意」です。システム開発でよく聞く失敗事例として、「プロジェクトに関わっていた部長のひと声に押されて、実際にあまり使わない機能が実装されてしまった」といったケース。こういったことを防ぐためにも、組織として何を大切にするかという価値基準や優先順位について、関係者間で透明かつ納得感のあるプロセスで話し合い、あとから文句が出てこないようにすることが重要です。つまり、「こんなロジックでこの機能を実装すると決めました」と、あとからきちんと説明できるようにしておくということですね。ここは1点目でお伝えした、メンバーに主体性を持ってもらうためのプロセスともリンクしてくるかもしれません。

──企業やプロジェクトによってケースバイケースではあると思いますが、「優先順位」はどのような観点から判断するとよいのでしょうか?

白川:ケースバイケースですが「“業務部門が便利になる”は優先順位を上げる理由にはならない」と私はよくクライアントにお伝えしています。要は、誰かの仕事を楽にするためのプロジェクトではなく、あくまでビジネスを成長させるためのプロジェクトであるという立場からの意見ですね。

とはいえ、仮に売上を伸ばすための機能と省力化のための機能のどちらを取るか、という議題があったとして、今5人でしている仕事が3人でできるようになるならそれは生産性向上に直結しますから、今回はどちらがどのくらい大事なのか、青臭く時間をかけて議論すればいいと思います。正解のない議題なので、1週間くらい議論が続くケースもあるかもしれませんが、根気よく議論を続ければ、目指すべきゴールに必ず到達できるはずです。

プロに前のめりに仕事をしてもらうため必要なのは、リスペクトを伝える“技術”

──6点目、7点目の「プロの選定」「リスペクト」は、どちらも作る側に関するポイントでしょうか。

白川:はい。「プロの選定」は非常に大切な要素ですが、今回の本筋からはややそれるので割愛します。とはいえ、何かを作ってもらううえでプロを見極める選球眼が重要なのは言うまでもありません。

最後に挙げた「リスペクト」は一見、当たり前に思えるかもしれませんが、プロに前のめりに仕事をしてもらうためには、作ってもらう側がプロに対してリスペクトをしっかりと示すことが大切です。

世の中のあらゆる自由提案に、こちらの期待値にぴったりと沿うような「100点満点」はまずありません。だから、プロはクライアントの期待値に近づくため、日々鍛錬しているわけですね。

でも、プロに前のめりで仕事をしてもらった結果、期待値を超える「150点」の提案になる可能性もあるんです。それはこちらのスタンス次第ですよね。

一つ、印象的なエピソードがあります。当社のオフィスを作ってもらった際、設計士さんが、「普通のオフィスであれば絶対にこんな提案はしないのですが」と前置きして、やや荒っぽい素材の床材を貼らないか、と提案してくださったんですね。設計士さんも含むプロジェクトメンバー全員が良好な関係だったからこそ、「御社のオフィスであればこういう遊び心があってもいいかも」と一歩踏み込んだアイデアを出してくれた。結局その床材を採用したのですが、オフィスの雰囲気にフィットしていて、とても気に入っているんです。

《画像:設計士さんの思わぬ提案から生まれた、趣のある内装(提供:白川さん)》

つまり「この人たちだったらこの提案を受け入れてくれるかもしれない」とプロが思えるような信頼関係が、本当に良いものを作るためには大切だと思うんです。こっちはお金を払っているんだから魅力的なものを作れ、と横柄な態度でプロに接していたら、決してそういった展開にはならなかったと思います。

──そういった「150点の提案」をしてもらえるような信頼関係をプロと築きたいと思ったら、どのようなポイントに注意すればいいのでしょうか?

白川:こちらも主体性を持って前のめりになることは大前提ですが、プロの提案を歓迎することも大切ですね。「ぜひ提案があればお願いします」と口で言うだけではなく、実際に態度で示すのが重要です。もちろん嘘をつく必要はありませんが、一つひとつの提案に対して「このデザインすごく素敵ですね」「この機能があったら業務が捗りそうです」など、きちんとフィードバックしてみてください。プロも人間なので、そういった言葉を頻繁にかけてくれる相手かどうかで、モチベーションは変わってくると思います。

……と偉そうに語っているんですが、私はもともとそういった言語化がとても苦手なタイプだったんです。けれど、過去にこういった姿勢が素晴らしいクライアントと一緒に取り組んだプロジェクトはどれも成功しているので、自分も取り入れるべきだなと自己改造を試みました。これは性格の問題というよりも、仕事相手と一緒にいいものを作るために身に付けるべき“技術”だと思っています。

──ここまでお話しいただいたことを振り返ってみると、7点はどれも独立しているというより、相互に影響し合っていそうですね。

白川:そうですね。価値判断をしたり、プロにリスペクトを示したりするには主体性が不可欠ですし、組織内合意はプロジェクトのあらゆる場面において必要になってくるポイントだと思います。どれか一つが欠けてもプロジェクトは成功しません。

私が今回お話ししたことはどれも言語化してみると当たり前のポイントに感じられるかもしれませんが、これらができず失敗に終わってしまったプロジェクトは世の中に多数存在します。今回お伝えした「依頼の技術」を意識することで、そういった失敗は避けられるはずです。


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取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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