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第12回『東宝映画スタア☆パレード』池部 良 共演女優との年齢差に驚愕。女優たちに愛された二枚目スタア

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第12回『東宝映画スタア☆パレード』池部 良 共演女優との年齢差に驚愕。女優たちに愛された二枚目スタア

今でもスタジオ入口に『七人の侍』と『ゴジラ』の壁画を掲げる東宝。〝明るく楽しいみんなの東宝〟を標榜し、都会的で洗練されたカラーを持つこの映画会社は、プロデューサー・システムによる映画作りを行っていた。スター・システムを採る他社は多くの人気俳優を抱えていたが、東宝にもそれに劣らぬ、個性豊かな役者たちが揃っていた。これにより東宝は、サラリーマン喜劇、文芸作品から時代劇、アクション、戦争もの、怪獣・特撮もの、青春映画に至る様々なジャンルに対応できたのだ。本連載では新たな視点から、東宝のスクリーンを彩ったスタアたちの魅力に迫る。

 70年代に入ると東宝以外の映画館にもよく通った。折しも東映は任侠映画から実録路線への転換期にあたっており、そんな中で見た『昭和残侠伝』シリーズには池部良が出演(※1)。最後は高倉健とドスを片手に殴り込みをかけるも死んでしまうのが常で、これにはどうにも納得できかねるものがあった。なにせ池部は、少し前までは東宝を代表する二枚目スタアだったからだ。

 
 元々は吉村公三郎の『暖流』(39)に影響され、映画監督を志した池部良。松竹大船の助監督試験に挑むが、脳貧血を起こして落第。それではと島津保次郎のシナリオ研究生になり、見事東宝入社を果たす。ところが戦争のため製作本数が減少、池部は希望の演出部ではなく文芸部へと回されてしまう。
 そこで池部を見初めたのが女優の英百合子。「あの子、ちょっとイカスじゃない」との一言がきっかけ(※2)となり、結局は島津の『闘魚』(41)で俳優になってしまうのだから、人生はわからない(※3)。

 東宝時代、池部は俳優として『雪国』(57)、『暗夜行路』(59)など重厚な文芸路線に加え、『足にさわった女』(52)や『都会の横顔』(53)といったライトコメディ路線でも大いにその存在感を示す。もちろん『恋人』(51)、『青い真珠』(同)で久慈あさみや島崎雪子と見せた瑞々しい演技も大いに評価せねばならない。今見ても、とにかく池部は若くてカッコよく、陰りを帯びた表情は実に魅力的だ(※4)。

▲『暗夜行路』(豊田四郎監督)では、公称で十三才年下の山本富士子と夫婦役を演じた イラスト:Produce any Colour TaIZ/岡本和泉

『不滅の熱球』(55)で軽やかに野球選手=沢村栄治役を演じ、『遥かなる男』(57)ではアクション俳優としての一面を垣間見せた池部。『重役の椅子』(58)や『黒い画集 寒流』(61)でのシリアス演技はお手の物として、意外にも悪の魅力を発揮した『男対男』(60)ではのちの東映作品における役柄の萌芽も見られる。

 あまり語られることのない佳作『33号車応答なし』(55)での警官役も良く、これは新東宝『暁の追跡』(50/市川崑監督)で演じた若き巡査の、その後の姿のようだ。

▲『東宝映画』61年9月号掲載『黒い画集 第二話 寒流』グラビア記事(寺島映画資料文庫提供)

 いくつかの映画で、池部は復員兵に扮した。中尉にまで昇進した軍隊経験が活かされたのが、山口淑子扮する慰問歌手との逃避行を描いた戦争メロドラマ『暁の脱走』(50/当初は市川崑が監督予定だったが谷口千吉に交代)なら、軽妙洒脱な面をさらに発展させたのが、自ら会社に企画を出した『トイレット部長』(61)というサラリーマン喜劇だった。
 冒頭の「トイレの歴史」を解説する愉快なオープニングは、池部のアイディアを生かしてつくられたもので、ここからもいかに池部が〈映画をつくる立場〉に固執していたかが分かる。

 インタビュー本『映画俳優 池部良』(ワイズ出版)では本作の監督・筧正典を「相性が合っていた」と評する池部だが、最終的には「豊田四郎しかいない」と断言。やはり東宝時代の代表作は、豊田による文芸作ということになるのだろう。

 それでも、池部の代表作として〈イの一番〉に挙げねばならないのが、原作者・石坂洋次郎たっての希望で十八歳の旧制高校生役を演じた『青い山脈』(49/今井正監督)である。
 このとき、高校生六助を演じた池部の年齢は三十一歳。しかし、池部はのちに実際は御年三十三歳(それも総入れ歯!)だったことをカミングアウト。本作で相手役を演じた杉葉子は二十歳で十三もの年の差があり、教師役の原節子も池部より四つも年下だったのだからビックリである。
 見た目が異様に若い池部は、この後も多くの映画で年齢差のある=年の若い女優たちと恋人役や夫婦役を演じていくことになる。

▲『青い山脈』劇場パンフレット裏表紙。画像は登戸で撮られたもの(寺島映画資料文庫提供)

 自ら〝名付け親〟となった司葉子のデビュー作『君死に給うことなかれ』(54)における司との年の差は、撮影時点でなんと十九歳。続く『不滅の熱球』で夫婦役を演じた後、宝田明が司の相手役としてクローズアップされると、池部が宝田に対してバッシングの態度をとったことは宝田自身が明らかにしている。

 
 ここで共演女優との歳の差を列挙してみると、『四つの恋の物語』(47)における恋人役・久我美子(※5)とは十四歳違い。『坊っちゃん』(53)では十七歳差の岡田茉莉子=マドンナと共演、軽妙にサンドイッチマン役を演じた『都会の横顔』の有馬稲子は恋人役ではないので十五歳差なのはよいとしても、『青い真珠』(51)における恋のお相手・島崎雪子とはやはり十四の年齢差があった。

 
 ちなみに『暁の脱走』の山口淑子とはわずか三歳違い、『朝の波紋』(52)で恋人役だった高峰秀子とも七歳の差しかなかったが、谷口千吉監督『乱菊物語』(56)で絡んだ八千草薫(ここで八千草は谷口と恋仲になる)とは十四、小津安二郎監督の『早春』(56)や『雪国』で共演した岸恵子とは十五、『トイレット部長』で妻役を演じた淡路恵子とは十六、『妖星ゴラス』(62)で恋心を抱く白川由美とはなんと二十歳もの開きがあった。
 こうして池部は年下の女優たちと共演を重ねていたのだから、まさに役得。やはり谷口監督の『夜の終わり』(53)では、まだ十九歳だった岡田茉莉子とキスシーンまでこなしている。

 森繁久彌と親子を演じたのが『あゝ青春に涙あり』(52)なる学園もの。父親役の森繁との歳の差はわずか三歳! ここでも大学生役の池部(三十六歳! ※6)は、前年の千葉泰樹監督作『若い娘たち』と『若人の歌』、山本嘉次郎監督『女ごころ誰か知る』でも学生役を演じていたのだから、いかに見た目が若かったかが分かろうというもの。のちに東映映画『望郷子守唄』(72)では、四つ上でしかない藤田進と親子役(もちろん池部が息子役)を演じている。

▲『吸血蛾』(中川信夫監督)では洋装の金田一耕助を演じた(『東宝』56年4月号)。 右は『好人物の夫婦』(千葉泰樹監督)出演時の池部。実にお若い!(同56年7月号:どちらも寺島映画資料文庫提供)

 池部が東宝を離れたのは65年9月のこと。〝裏社会の男〟を演じた『けものみち』が専属俳優として最後の仕事となり、池部はすぐに『昭和残侠伝』に出演する。これについては、松竹『乾いた花』(64/篠田正浩監督)でのやくざ役が好評を博した影響もあったろうが、『妖星ゴラス』(62)や『青島要塞爆撃命令』(63)といった円谷特撮をフィーチャーした、言わば子供向けの作品に出ることに、俳優として嫌気が差していたことが大きかったように思える。実際、筆者がリアルタイムで見た特撮ものの池部には鬱屈としたムードが漂うし、前掲書では「ひどくみっともない」あるいは「俳優の出番がない」との発言も残している。

 のちに東宝を「サラリーマン会社」と評した池部。それでも『昭和残侠伝』出演オファー時には抵抗を感じ、〝タテ社会〟の東映に違和感を覚えたという。そして池部は大根役者と揶揄されながらも、司葉子から「女優養成所」と称されたほど後輩女優に愛され、逆に彼女たちを引き立たせた(※7)。
 池部にとって東宝は、実は〝居心地の良い会社〟だったのではないか――。筆者にはそのように思えてならない。

※1 俳優協会の会長だった池部は「自分がヤクザ映画に出たら示しがつかない」と固辞。しかし俊藤浩滋に口説かれ、「入れ墨はいれない」「ポスターに写真を載せない」「毎回死ぬ」ことを条件に出演を了承する。

※2 子守りをしてもらっていた中村メイコが、イケメンの池部を気に入って島津に推薦したとの説も。

※3 断ろうとしていた池部に島津がかけた言葉は「兵隊から帰ってきたら、助監督にしてやる」。これで池部は不良少年役を受諾、スタアとしての道を歩むことに。

※4 『近代映画』(51)の「スタア人気投票」では、長谷川一夫に次ぐ第2位。

※5 久我は雑誌の取材で「好きな俳優」として、その名を挙げるほどの池部ファン。

※6 同級生役の久慈あさみも、このとき三十歳。池部は『地の果てまで』(53:大映)でも引き続き大学生役を演じる。

※7 23歳で応召、復員した池部が高峰秀子の説得により俳優業に戻った逸話からも、女優たちに愛された一面が窺える。

高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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