小学生年代でトレーニングのしすぎは逆効果! 負荷耐性が低下するとケガしやすい部位と予防のカギ
サッカーをする上で、避けて通りたいのが「ケガ」です。特に子どもたちにとって、ケガは成長を左右する重要な問題です。ケガをしやすい子には何か特徴があるのでしょうか。
また、どうすれば効果的に予防できるのでしょうか。
著書「スポーツ万能の子どもの育て方」でおなじみ、いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーやドームアスリートハウスアスレチックアカデミーのアドバイザーを務める強化育成の専門家である小俣よしのぶさんに、に子どものケガの特徴と、その予防法いて話を聞きました。
(取材・文 鈴木智之)
(写真は少年サッカーのイメージ)
関連記事:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは
■疲労の蓄積に注意
ケガは、大きく2つのタイプに分けられます。打撲や捻挫、骨折などの『外傷』と、長期に渡って影響が出る『障害』です。特に注意が必要なのは後者で、適切な対処を怠ると、最悪の場合、サッカーを続けられなくなる可能性もあります。
「ケガと一言で言っても、実はいろいろな種類があります。外傷は、転倒や接触によって起こる捻挫、打撲、骨折などの1回限りのケガです。適切な処置をすれば、回復が見込めます。
一方で、障害は反復練習や長時間の練習による疲労の蓄積などが原因で起こります。具体的には疲労骨折や、成長期特有の骨の変形、慢性的な関節の痛みなどが該当します」
小俣さんは「ケガの予防には、体の疲労に注目する必要があります。疲労が蓄積すると、練習に耐える力が低下し、それが体つきにも表れてきます」と説明します。
「練習とは、体に負荷をかけて体の機能を『破壊』する行為です。その破壊された部分を修復するために『食事』が必要で、修復の時間として『休養』が必要です。このサイクルをうまく回すことで、健全に成長していきます」
■練習量が多いのに食事や休養が不十分だと、身体が十分回復せず成長が鈍化する
さらに、こう続けます。
「トレーニングで体を破壊したとしても、その度合いが小さく、食事という修復材料と休養という修復期間が十分であれば、体は元気に回復して成長します。ところが、これが逆転してしまうと問題です。
練習による破壊が大きすぎる上に、食事も休養も不十分だと、元気が回復できず、成長が鈍化してしまうのです」
現代の子どもたちの多くは、このバランスが崩れていると言います。
「いまの子どもたちはクラブとスクールの掛け持ちなど、練習量が多すぎる一方で、食事や休養が不十分だと感じることがあります。その結果、疲労が蓄積され、ケガのリスクが高まってしまうのです。
プロや大学生になってから強度を上げればいいのに、子どものうちから、強い負荷をかけすぎている状況が見られます」
■子どもの身体で最も負荷に弱いのが骨格系
さらに小俣さんは「負荷耐性」という、スポーツ関わる人にとって、知っておきたい概念についても解説してくれました。
「シーズン中の試合や練習、フィジカルトレーニングなど、すべてが身体への負荷となります。この負荷に耐えて、ケガや障害を起こすことなく適応できる能力を『負荷耐性』と呼びます。
トレーニング、栄養、休養のサイクルを上手く回すことで、負荷耐性は高まっていきますが、ハードなトレーニングをしているにも関わらず、栄養と休養が十分にとれてうないと、負荷に耐えられず、適応能力が低下していき、ケガにつながります」
負荷耐性が低下すると、身体の中で最も弱い部分から順に問題が生じるそうです。
なかでも注意が必要なのは、成長期の骨の状態です。ドイツのスポーツ医学の専門家フロイナー医学博士氏によると、子どもの体の中で、最も負荷に弱いのが骨格系だといいます。
「骨端線が閉じていない成長期の子どもは、骨や関節がまだスカスカな状態です。また身長の伸びが止まり、筋力が付いても骨や関節の強度は弱いままなんです。
特に日本の子どもは欧米に比べて早熟なので、小学生の時期から注意が必要です。身長の伸びが止まったからと言って大人と同じように扱ってはいけません」
こうした状態で過度な負荷がかかると、問題が生じてきます。
「サッカーをする子どもの場合、下半身は鍛えられていても上半身が弱いことが多いです。転倒時に手をついて肩を脱臼したり、骨折したりすることがあります。
また、もともと弱い関節や身体部位に負荷がかかって、足関節の痛みや指の骨折などが起きやすい傾向があります」
■小学生年代でトレーニングのしすぎは逆効果
(写真は少年サッカーのイメージ)
成長期の子どもは、大人に比べてケガをしやすい。当たり前のことですが、頭に入れておきたいものです。
「上のカテゴリーに進むほど、練習の強度は上がり、時間も長くなります。その負荷に耐えられる体づくりを、段階的に行っていく必要があります。
焦って負荷を上げすぎると、取り返しのつかない事態を招きかねません。育成年代でケガによる離脱の多くは、負荷耐性が整っていないことが原因だと考えられます」
成長期の子どもにとって、トレーニングのしすぎは体に悪影響を与えるおそれがある。それを知っておくことが、子どものサッカーに携わる指導者、保護者の役目だと言えるでしょう。
「あの子は毎日練習しているから......など、焦る気持ちもわかりますが、本格的に競争のフェーズに入っていくのは、中学2、3年生頃でいいと思います。
成長の真っ只中にある、小学生年代での過剰なトレーニングは、効果があるどころか、ケガにつながりかねないので、親御さんが注意深く、見守ってあげてください」
次回の記事では、成長期の子どもに見られがちな「ケガの兆候」と「具体的な対処法」について、解説していただきます。