【倉敷市】ダンスパフォーマンス集団「ズンチャチャ」〜 一生青春ダンシング! 自分らしさを追い続けた30年
「これもダンスなんだ!」「なんだか元気が出る!」「なぜか癒された!」
初めて「ズンチャチャ」のパフォーマンスに触れたとき、コンテンポラリーダンス=難解というイメージが、くつがえされました。
型や正解にとらわれず、“その人らしさ”を大切にする彼らのダンスは、自由でユニーク。ときに笑いを誘いながら、観る人の心を軽やかにほどいてくれます。
コンテンポラリーダンスの枠に収まりきらない多彩な表現で、観る人の感覚にまっすぐ届くダンスパフォーマンス集団「ズンチャチャ」を紹介します。
ダンスパフォーマンス集団「ズンチャチャ」
「ズンチャチャ」は倉敷市にスタジオを構え、「一生青春ダンシング!」をモットーに岡山・倉敷を拠点に活躍するダンスパフォーマンス集団です。
主宰の須原由光(すはら よしみ)さん(倉敷市出身)は、幼少期からモダンバレエ・ジャズバレエを学び、1995年に単身渡米。そこで、モダンダンスの指導者(ホセ・リモンカンパニー元プリンシパル ベティ・ジョーンズ氏)と出会い、「あなたのありのままが素晴らしいのよ」と言葉をかけられたことが、須原さんの価値観を大きく変えるきっかけとなりました。
ダンサーとして身体的条件に立ちはだかる壁を感じていた須原さんにとって、“ありのまま”を肯定されたその経験は、衝撃であり、同時に解放感をもたらしました。さらに渡米中にはコンテンポラリーダンスにも触れたことで、その“自分らしさを生かす自由なダンス表現”に感銘を受け、「私はこういうのがやりたいんだ」と須原さんは強く確信します。
帰国後の1996年、ダンスグループ「ズンチャチャ」を結成します。メンバーそれぞれが本業を持ちアフター5に集い、“昼は仕事、夜はダンサー”の二足のわらじスタイルで活動を続けてきました。
メンバーの入れ替わりは若干ありつつも、今なお結成当時からのメンバーも多く在籍し、継続力こそがズンチャチャの原動力となっています。
アマチュアながら定期的に有観客の公演をおこない、映像作品の制作にも意欲的に取り組んでいるほか、岡山・倉敷を拠点にイベント出演やダンスワークショップなど、地域に根ざした活動にも携わっています。
2021年に25周年を迎え、翌2022年4月には岡山県天神山文化プラザにて、単独記念公演「BIRDS」を開催。同年11月には、公益財団法人福武教育文化振興財団より、長年にわたる活動実績と岡山県におけるコンテンポラリーダンスの普及・啓発、振興への貢献が評価され、「2022年度福武教育文化賞」を受賞しました。
さらに、25周年のタイミングに重なるかたちで、アルスくらしき(公益財団法人倉敷市文化振興財団)とタッグを組むことに。それまで自主公演を中心に活動してきたズンチャチャにとって、地域の文化事業との連携は新たなチャレンジとなっています。
コンテンポラリーダンスとは
コンテンポラリーダンスと聞くと、どこか難しそうな印象を持たれるかもしれません。
というのも、コンテンポラリーダンスにはバレエのように決まった型やルールがなく、ダンサー一人ひとりの身体や感覚から生まれる、自由でとらえどころのない表現が中心だからです。
一見まとまりがないような展開に、「なぜこの動きを?」「これはダンスなの?」と、戸惑いを覚えるかたもいるでしょう。
しかし、その“不可思議さ”こそが、コンテンポラリーダンスの魅力でありおもしろさだと言われています。観る人の数だけ感じかたがあり、その瞬間にいた人だけが共有できる体験になるのです。
作品紹介 〜正解を探さなくていい、自由に感じよう!〜
“コンテンポラリー”らしさのある見入ってしまう作品から、思わず笑顔になってしまう楽しい作品まで、ズンチャチャの公式YouTubeで観られます。もちろん、ライブで臨場感を味わうのが一番ですが、まずは映像からズンチャチャの世界を気軽に覗いてみてください。
ズンチャチャビギナーである筆者が、現在公開されている作品のなかからタイプの異なる4本を選び、まず観てほしい順に紹介します。
ずんとあるす1「Trip」/ARS KURASHIKI ×ZUNCHACHA
倉敷市芸文館の内も外もまるごと舞台にした、カメラワークもダイナミックな作品です。
明るくてカッコ良くて、初心者にも親しみやすく、誰もが自然とズンチャチャの世界に引き込まれるはず。しっとりとした導入から、躍動感あふれるシーンへと展開し、ときにコミカルなBGMにのせてユーモアたっぷりの動きが繰り広げられます。
飽きることなくあっという間に時間がすぎる、ズンチャチャらしさがぎゅっと詰まったエンタメ性の高い一本です。
ずんとあるす1 Nature seriesⅠ 鳴滝森林公園編
森のなかでたった一人で舞う姿は、森と一体化して呼吸しているようにも見えてきます。
普段の筆者は、仕事柄パソコン画面は文字だらけ、YouTubeで情報を求めては常に誰かの声を聞いているような生活なので、この作品に触れたときの感覚は非常に新鮮でした。
読まなくていい、声を聞かなくていい、考えなくていい。映像と音楽だけに身をゆだね、ぼんやりと受け取っている時間が、とにかく心地良かったんです。3分にも満たない時間で、心がすーっと浄化されていく。
このように“ダンス”で癒される体験があることを知った、ヒーリング効果の高い作品です。
備中温羅太鼓と大共演!ズンチャチャ20周年記念公演『 L 』より
コンテンポラリーダンスにどこか距離を感じているかたや、少し抵抗のあるかたにもおすすめなのが、備中温羅太鼓とのコラボレーション作品です。
日本人ならきっと誰もが好きな太鼓の音色とリズムに、現代的なダンスが融合し、懐かしくも新しい感覚を味わえます。展開のなかで、どこか能の要素や、アフリカの民族舞踊っぽさも感じる、その独特な動きと太鼓のリズムに引き込まれ、ずっと見ていたくなります。
ZUNCHACHA「PROCESSION」/ズンチャチャ「プロセッション」
【2023年~24年にかけてズンチャチャ・木村琢磨・松下徹によるダンス映像作品の制作、国際映像コンペ(カンヌ・NYなど)出品に挑戦する創作活動】
ズンチャチャの最新映像作品です。
ここはどこの惑星?と見まごう野生的で美しい自然のなかで、ダンサーたちが、力強くしなやかに躍動します。
モノクロの「PROCESSION」、カラーの「PROCESSION Planeta matris」、そして撮影の裏側を収めたメイキング映像。すべてを通して観ることで、制作者たちの情熱がより深く伝わってきます。
なかでも「PROCESSION」は、モノクロの映像美と場面ごとに切り替わる印象的な旋律で、まるでフランス映画を観ているかのような余韻を感じさせてくれます。身体、自然、映像、音楽。その力が重なりあって生まれる、ズンチャチャの“今”が詰まった一作です。
4つの作品をそれぞれを観終えた後、言葉にできない何かが、ふわりと心に残っていませんか?
わずかな時間でも、どこかへトリップしたような非日常の感覚、味わえませんでしたか? そのような体験をくれるのが「ズンチャチャ」なのです。
ズンチャチャの魅力に迫るべく、主宰の須原さんに活動に対する想いを聞きました。
ズンチャチャ主宰・須原由光さんにインタビュー
ズンチャチャの主宰・ダンサーでありながら、振付家、ディレクター、さらには映像編集まで手がける須原由光(すはら よしみ)さんに、メンバーへの想いや活動継続の秘訣、またズンチャチャのこれからについて聞きました。
“素直さ”が生み出すチームのエネルギー
──YouTubeでみなさんの姿を拝見して驚くのが、踊っていると年齢をまったく感じさせないところです。10年以上前の作品も、最近の作品も印象が変わらず、動きのキレやあふれるエネルギーに、結成からまもなく30周年を迎えるとはとても思えません。
須原(敬称略)──
ありがとうございます。みんな踊っているときは年齢を忘れているんですよね(笑)
私たちのモットーは「一生青春ダンシング!」。年齢的な課題を受け止めつつも、勇気を与えられるものを届けたいという気概を持って踊っています。
──実際には若いメンバーもいますが、一緒に踊るなかでその年齢差をまったく感じない。全員がまるで“永遠の30歳”みたいです。
須原──
それはとてもうれしいです。そう感じていただけたとしたら、メンバー同士が本当に自然に関わりあえているからかもしれません。
ズンチャチャにはお互いを尊重しあう雰囲気があります。誰かが何かを頑張っていたら応援するし、素敵なところは素直に認め合える。そうした関係性が、イキイキとしたエネルギーを生み出しているのだと思います。
──メンバーへの信頼感が伝わってきます。メンバーはどのように集まってきましたか?
須原──
20年以上活動しているメンバーは、ある大学のダンス部とのつながりから、ずっと一緒に踊ってくれています。ほかにも、ズンチャチャのワークショップに参加したことをきっかけに、メンバーに加わるなど、少しずつ輪が広がっていきました。
──須原さんの考える、ダンサーに必要なことはなんでしょうか?
須原──
「素直さ、探究心、継続力」でしょうか。何ごとも素直に受け止められる人は、新たな可能性がどんどん広がるように感じます。
また、ダンサーとしての自分自身を探究し続けること、そして日々の稽古を積み重ねていくことが、表現の深みにもつながっていくように思います。
一人ひとりの魅力を最大限に引き出す
──須原さんはダンサーでありながら、演出家、振付家、映像編集者、さらにはチームをまとめる指導者など、多くの役割があります。特に好きな役割はありますか?
須原──
すべてが好きでやりがいを感じています。
なかでも、ズンチャチャファミリー(須原さんが講師を務めるダンスクラスの受講者)のみなさんとクラスで一緒に踊ることや、メンバーと作品を創る過程はとても楽しく、心身ともに充実しています。
──素敵ですね。とはいえ、練習ではシビアな瞬間もありますか?
須原──
一つの公演につき、リハーサルは約1年と長期間になるので、その過程でナーバスになることも。振付をメンバーに任せることもあれば、私自身が行き詰まってしまったときにはメンバーの提案に助けられながら、しっかり支えてもらっています。
──須原さんとメンバーの間に、いい絆が育まれているんだなと感じます。
須原──
メンバーは私が何を提案しても「NO」と言わず、いつも信じてくれています。だからこそ、「メンバーを輝かせることが私の使命!」という気持ちで、一人ひとりの魅力を最大限に引き出せるよう、楽しみながら作品と向きあっています。
自分は自分であればいい
──いよいよ来年(2026年)は30周年です。ズンチャチャを継続できている秘訣のようなものはありますか?
須原──
私個人としては、約30年の間に創作に苦しむ時期もありましたが、常に新しいものを追い求めようと無理をするのではなく「自分は自分であればいい」と腑に落としたときから、楽に作品と向き合えるようになりました。
継続できているのは、シンプルに「踊ることが好き、楽しい、やりたいこと」につきると思います。おそらくメンバーも同じ気持ちでしょう。
ただ、チームとして考えると、ダンス人口も多くなく、とらえどころの難しいコンテンポラリーダンスをこれまで続けられたことは、改めて奇跡的だと感じています。ともに歩んでくれているメンバーはもちろん、私たちをずっと応援してくださっているみなさまに、ただただ感謝しかありません。
これからも区切りや限界を決めず、私たちらしく「一生青春ダンシング!」の旅をずっと続けられたらなと思います。
──30周年の節目に、何かイベントなどの予定はありますか?
須原──
大変光栄なことに、2026年2月には、ズンチャチャ30周年記念公演をアルスくらしきさんに主催していただけることになりました。
25周年記念公演の終了後に、アルスくらしき(公益財団法人倉敷市文化振興財団)さんから「ダンスで何かワクワクすることをやりましょう!」と、お話をいただいてから約3年。これまで、映像制作、ワークショップ、映像展示会など、さまざまな企画をバックアップしてくださり、私たちの可能性を広げられました。
さらなるご支援に感謝するとともに、メンバー一丸となって全身全霊で取り組む所存です。
観た人の心に“心地よいもの”を届けたい
──最後に、須原さんにとって魅力的な「踊り」「ダンス」とはどのようなものでしょうか。
須原──
今は「ダンス」のスタイルも本当に多種多様で、どのようなダンスにもそれぞれに魅力がありますが、なかでも“人となり”が感じられるかたの踊りは、つい夢中になって観てしまいます。
また、身近なところでは、ズンチャチャファミリーのみなさんがクラスで純粋にダンスを楽まれている姿もとても魅力的だなと感じます。
──ズンチャチャのダンスには一人ひとりの表情が感じられ、観終わったあとには不思議な余韻が残りました。
須原──
年齢や個性、身体能力もバラバラな私たちは、それぞれが自分をどう表現するかを探究しながら作品を創っているので、そのように感じていただけるのはとてもうれしいことです。
公演を観終わったあと、「あの人、エネルギッシュだったな」と記憶に残ったり、「明日もがんばろう」と前向きな気持ちになっていただけたり。そんなふうに、観てくださったかたの心に何か心地よいものをお届けできるよう、これからも精進していきたいと思います。
インタビューを終えて
インタビューをまとめて、あらためて読み返すと、「凛として、しなやかな強さを感じさせる女性像」としての須原さんが浮かび上がってきます。しかし、実際にお話したときの印象とは少し違います。録音した音源を聞き返してみると、親しみやすく、時折オーバーリアクションでユーモアたっぷりに笑う須原さんの声が、そこにありました。
記事を作る過程で、伝えたいことをすくい上げ、素敵な語録を抽出し、文章にまとめるなかで、言葉は自然と濾され、最終的に、須原さんの「芯」だけが鮮やかに残ったのだと思います。
須原さんとズンチャチャは、ときに迷いながらも、さまざまな経験をエネルギーに変えながら、ここまで歩んできました。30周年という大きな節目に向けて、また新たな挑戦へと踏み出そうとしています。
これからもきっと、型にはまらず、誰のまねでもないズンチャチャにしかできないやりかたで、私たちに感動を届けてくれそうです。
カバー写真
画像提供:ズンチャチャ(photo yukiwo)