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19世紀半ばの開業以降、路線廃止ほぼゼロ! 世界一の鉄道王国・スイスの魅力を大鐵の講演会でレジェンドに聞く【コラム】

鉄道チャンネル

レーティッシュ鉄道を取材中の櫻井さん。カメラは静止画と動画の〝二刀流〟です

著作は主なもので50冊以上、肩書には日本写真家協会、日本旅行作家協会、東京交通短期大学などの要職が並びます。鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛(さくらい・かん)さん(70)。そんなレジェンドを講師に迎えた講演会が2025年2月15日、静岡県の大井川鐵道(大鐵)で開かれました。

講演タイトルは「世界一の鉄道王国スイス」。国土面積は九州より一回りコンパクトながら、張りめぐらされた鉄道ネットワークは全土で5000キロ以上におよびます。同国の鉄道を何より的確に表すのが、櫻井さんがイントロで披露した「全国どこでも16キロ以内に必ず駅がある」のフレーズです。

スイスの鉄道は多種多彩。都市間高速特急「インターシティ」があれば、ヨーロッパ最高峰・標高3454メートルへ駆け登る「ユングフラウ鉄道」に代表される観光路線も。それぞれの路線が地域で輝きます。

大鐵での講演会、櫻井さんが現地紀行で撮影した画像を披露しながら説明を付けるフリートーク形式で進行。本コラムは会合を主催した日本ナショナルトラストと、櫻井さんのご厚意で、会場撮影した写真とともにスイス鉄道の魅力をお届けします。

(櫻井さんとともに講師を務めた大鐵の鳥塚亮社長のトークと、大鐵の新車として2024年12月30日にデビューした6000系電車〈元南海6000系〉は別稿にまとめました。2月23日掲載予定です。ぜひご覧ください)

世界遺産の山岳鉄道

世界遺産のランドヴァッサー橋は全長142メートル、高さ65メートル、5つの橋脚とアーチで構成されます。石造りとレンガの違いはありますが、どこかアプト式時代の碓氷峠に似た印象も

最初はスイスの鉄道を代表するこのシーン。ご存じの方も多いと思いますが、写真のレーティッシュ鉄道はスイス最大の私鉄です。

鉄道ファンをときめかせるのが、急カーブ状に架橋された高さ65メートルのランドヴァッサー橋。橋を渡る主な車両は、天井部分まで開いたワイドな窓のパノラマカー・氷河急行とベルニナ急行です。乗って楽しいのはもちろん、鉄道技術に関心ある方なら「スイスの山岳鉄道は土木技術の結晶」と実感させられるでしょうでしょう。

レーティッシュ鉄道の開業、日本でいえば明治末期の1908年(全通は1910年)。世界の鉄道界にインパクトを与え、箱根登山鉄道(現・小田急箱根)建設の機運を盛り上げました(箱根登山鉄道の全通は1919年)。

箱根登山鉄道(当時)とレーティッシュ鉄道は1979年、姉妹鉄道の縁組を結びました。箱根には、「ベルニナ号」の愛称を付けた1000形電車が運行されます。

レーティッシュ鉄道と周辺景観は2008年、スイスとイタリア合同の「国境を超える世界遺産」の一つとして遺産登録されました。

世界95カ国・地域で撮り鉄・乗り鉄

ここで櫻井さんのプロフィール。1954年長野県出身。当初は鉄道マン志望でしたが鉄道学校在学中、列車を動かす仕事から紹介する仕事に進路変更しました。訪れた国・地域は95カ国。その中でもっとも魅力的と感じたのがスイスです。

講演会で明かされたエピソード。スイスは全土に約5000キロの鉄道ネットワークがあることは最初にご紹介しましたが、それでは開業以来廃止された路線は?

答えはわずか18キロ。それも「バイパス線ができた」が理由です。つまり、「一度つくった鉄道は絶対に廃止しない」がスイス流。櫻井さんは、国民意識を次のように読み解きます。

「ヨーロッパ有数の工業国・スイスは国民が比較的豊かで、鉄道を文化・観光資源と位置付けます。黒字赤字の経営成績にかかわらず、守るべきものという意識が広く定着。環境問題への関心の高まりも、鉄道の追い風です。最近は中心市街地へのクルマの乗り入れを規制する都市もあり、そうなるとマイカーを持つ住民も、必然的に移動手段は公共交通に頼らざるを得ません」。

鉄道と環境では、隣国のドイツですがこんな話も。ドイツとスイスを結ぶ高速鉄道がICE(インターシティエクスプレス)。列車は最高時速300キロの高性能ですが、一部区間は環境への配慮から200キロ運転します。

駅に改札なし

次の写真は夜のホームに並ぶ高速列車。日本との大きな違いは、改札の類がまったくないことです。道路から直接ホームに上がれます。

夜のプラットホームに並ぶ高速列車群。車両メーカーはヨーロッパのシーメンスやボンバルディアで、デザイン面は日本の特急列車に共通するものを感じます

ヨーロッパの基本は信用乗車方式。乗客が乗車券を持つことを前提に、駅員や乗務員による改札を省略します。

ただし車内検札はあります。きっぷを持っていないと100スイスフラン(約1万7000円)の罰金を取られることも。日本では、広島電鉄や宇都宮ライトレールが信用乗車方式を採用。乗降時間を短くできるメリットがあります。

100両つないでも大丈夫!

続いて、日本でもちょっと話題になった「ギネス列車」。何がギネスかというと、編成両数です。レーティッシュ鉄道は2022年11月、100両編成の世界最長列車を走らせ、ギネス登録されました。

最後尾が視界に入らないレーティッシュ鉄道の100両編成列車

鉄道開業175年を記念したイベントの一つで、先頭車両から最後尾までの編成長は約1.9キロ。日本でいえば山手線東京~有楽町~新橋間に相当します。

車両は新鋭「カプリコーン」で、4両25編成を連ねました。車両にはご覧のように特別塗装。スイス鉄道の技術力をアピールしました。列車は約25キロ区間を1時間ほどで走破したそうです。

車両の特別塗装をアピールするレーティッシュ鉄道社長

櫻井さんは現地を訪れ、世界記録達成の瞬間を見守りました。

日本の「鉄道の日」を祝福

レールを通じた日瑞(瑞西=スイスの漢字表記)友好親善。レーティッシュ鉄道は大鐵(南アルプスアプトライン=井川線)と同様のラックレール区間があり、線路の間に歯車があるのに要注目

最後は、スイス鉄道の親日ぶりがうかがえるこのシーン。スイスの人たちはなぜ日の丸を振っているのでしょう? ヒントは撮影日にあります。撮影は10月14日。

スイスの鉄道ファンは当日が日本の「鉄道の日」と知っていて、エールを送ります。

スイスの鉄道で日本を感じさせるものがもう一つ。先述のレーティッシュ鉄道には、「箱根登山鉄道」と漢字でプリントした特別塗装車(EL=電気機関車)が運行されます。

【参考】ヨーロッパ有数の工業国・スイスの鉄道に注目! ダイヤや運転方法も日本の参考になります(※2021年2月14日掲載記事、「箱根登山鉄道」プリント車両の写真あり)
https://tetsudo-ch.com/11175661.html

櫻井さんのトークは以上。「私は長野県小諸出身で昔、国鉄小海線を走っていたのが〝高原のポニー〟ことSL・C56。大鐵にはC56があり、ふるさとに思えます。鉄道を文化財として守るスイスのように、多くの皆さんの力でいつまでも魅力的な大鐵を残してほしいですね」のコメントで締めくくりました。

記事:上里夏生

※写真は全点櫻井寛さん撮影。会場のスクリーンに投影されたものを筆者が撮影しました。

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